ミーナのスキル1
夜が更け、時刻は11時手前を示した時、シャフリとチェスをしていた私の体が人間の姿から吸血鬼の姿へと変わる。
私の姿が変わる瞬間を初めて見たシャフリは困惑し、紅い炎に包まれた私は姿が変わりきったのを確認した後、炎を手でなぎ払う。
「ほぇ~、そんな感じで姿が変わるんだ」
「ビックリさせてすまないわね。最近変わる時間が不安定で私も驚いているんだけど……どうしたものか」
シャフリは吸血鬼の私をマジマジと観察し、顎に手を当てて考え始める。
「あの……シャフリ。あまりジロジロ見ないでくれない? チェスの続きをしましょうよ」
「ごめんごめん。でも気になっちゃって」
「そう言えば、アンタ前に半分吸血鬼の私に興味があるって言っていたわね?」
「ん? まあ、そうだね。色々聞きたいことがあるんだけど、迷惑かと思って保留にしていたんだけど……」
私の目を見ることなく、シャフリは私の体の観察を続け、私はため息をつく。
「まあ、しばらくウチに住むんだし、良い機会よ。聞きたいことがあれば言ってみなさい」
するとシャフリは満面の笑みを浮べて、顔を近づけてくる。
「えッ!? ホント!? じゃあ、聞いても良い?」
「聞いても良いけど、落ち着きなさい。取り敢えず座ったら?」
私に言われるがままにシャフリは席に戻り、ポケットからメモ帳を取り出し、目を輝かせて早速質問を投げてくる。
「じゃあ、早速だけど、人間の姿と吸血鬼の姿で変わるところはあるの?」
オーソドックスな質問から入ったわね。
「基本的、人間の時は魔力しか扱えないけど、吸血鬼の姿になるとそれに加えて固有スキルが追加されるわ」
「固有スキル?」
シャフリは首を傾げ、私は紅茶を一口飲んでから疑問に答える。
「聞き慣れない言葉でしょ? 人外種なら誰しも持っている特別な力。親から受け継がれる力もあれば、種族特有の力もある。それをスキルというの。平凡な人外種だと1つ位だけど、多いヤツだと複数持っているわ」
「それじゃあ、ソフィアさんたちも……」
「そうね。恐らく持っているでしょうね。まあ、どんなスキルかは聞いていないけどね。人間と違って人外種は魔力の量、質には限界がある。魔力自体持っていない者もいるわ」
「そう言えば……ネプカトゥーレに住んでいたときに聞いたことがある。人外種さんたちは魔法を使うのが苦手だって……」
「まあ、どう捉えるかはその人次第だけど、全員が魔法が苦手ってことはないわ。それだけは勘違いしないでね」
コクリコクリと頷きながらシャフリはメモを取り、再び私に質問してくる。
「人外種さんがスキルを持っているのは分かったよ。じゃあ、ミーナちゃんのスキルは何なの?」
答えようとした瞬間、窓から差し込む月明かりが私を照らしだし、光の反射によって私の紅い瞳が輝く。
「……2つあるわ。1つは……嘘を見抜くスキル」
「嘘を……見抜く?」
「説明するには難しいけど、対面している相手が嘘をついていたら耳鳴りがするのよ。鬱陶しいくらいにね。真実がどんな内容なのかは分からないけど、嘘つきは許さないってスキルね。くだらないでしょ?」
するとシャフリは勢いよく立ち上がり、テーブルをバンッと叩いて身を乗り出す。
「全然くだらなくないよッ!! 凄いスキルだよッ!! 駆け引きになったら凄く有利じゃんッ!!」
自分の事のようにシャフリは喜んでいるが、私はこのスキルが大っ嫌いだ。このスキルのせいで何度も嫌な思いをしてきた。
ああ……思い出しただけでも頭が痛い。
「喜んでいるようだけど、そんなに良いスキルじゃないわよ。このスキルは自分で思い通りに使うことは出来ないのよ。知りたくない嘘まで見抜いてしまう……迷惑なスキルよ」
するとシャフリはシュンとなって、私に謝ってくる。
「そうだったの……ごめんね」
「謝ることはないわよ。アンタは私のスキルを聞いて感想を言っただけ。何も悪くないわよ」
数秒程シャフリは私から視線を逸らすが、スキル説明の冒頭を思い出し、私に視線を戻す。
「ねえ……2つあるって言ったよね? 嘘を見抜くスキル以外に何があるの?」
シャフリの質問に答えようとした瞬間、誰かが部屋の扉をノックし、私とシャフリは同時に扉に視線を向ける。
「誰?」
「遅くなりました。ジークです」
扉の向こうにいるジークに「入りなさい」と返答し、ジークはゆっくりと扉を開ける。
「遅かったじゃない。それで? シャフリのお父さんを襲った犯人は?」
ジークは残念そうな表情を浮かべて首を横に振る。
「申し訳ございません。顔や身なりは判明したのですが、奥様の判断により、今日の捜索は中止となりました」
あのクソババァ……まあ良いわ。恐らく、何か案があって中止の命令を出したんでしょうね。
「分かった……それで? 他に分かったことがあるの?」
「犯人の明確な狙いは分かりませんが、今後の方針は決まりました」
「……言ってみなさい」
珍しく真剣な表情を浮かべるジークに、私は目を細めて言葉の続きを促した。
「しばらくは屋敷外に出ることは禁止となりました」
あのクソババァが出したであろう方針に私は文句を言うことなく、スッと瞼を閉じる。
「……その他には?」
「申し訳ございません。この先はまだ決定していませんので、お話しすることは出来ません」
ジークが言葉を言い切った瞬間、私はゆっくりと立ち上がって、口元を軽く吊り上げる。立ち上がる私を見て、シャフリはジークに目を向ける。
「初めてね。ジーク」
ジークは表情を崩すことなく私を見つめ、私はジークの前に立つ。
「嘘……つかないで。ちゃんと全部話なさい」
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