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恋しい紅茶

 カーリーの用意してくれた料理をたらふく食べた私とシャフリは、私の部屋で寛いでいた。


「ふひぃ~、いや~、美味しかったね。ミーナちゃん」


「久しぶりに食べたけど、悪くなかったわね」


「その言い方だと、いつも食べている料理の方が美味しいってこと?」


 正直、いつも食べているジークの料理の方が味付けも良く、無言で食べてしまうくらい美味しい。


「まあね。それでも我が屋敷のメイド長。他人に出しても恥ずかしくない料理だったわ」


「そうだね~」


 夕食の感想を述べながら、私とシャフリはメイドたちが用意してくれた紅茶を手にし、一口飲む。紅茶を飲み込んだ瞬間、私とシャフリは顔を合わせ、お互い眉をハの字にする、


「……やっぱり」


「紅茶は、ジークが淹れた方が美味しいわね」


 決してメイドたちが淹れた紅茶が不味いわけではない。ただ……ジークの紅茶には、何か特別なものを感じる。


「はぁ……早く帰ってこないかな」


 思わず本音を口にしてしまい、我に返ってシャフリに目を向けると……ヤツはニヤけていた。


「な、何よ」


「いや~、ジークさんを恋しがる気持ちは分かるよ~」


 一気に体が熱くなり、私は懸命に弁明する。


「べ、別に恋しいわけじゃないわよッ!! ただ、ジークの紅茶が飲みたいだけッ!! それ以外の理由もないし、アイツの事なんて……」


 シャフリは再び紅茶を飲み、軽く息を吐いてから私に言葉を返す。


「ミーナちゃん。別に人を好きになるのは自由だよ」


「だから、好きって訳じゃ……」


「素直になりなよ。少なくとも、ジークさんはミーナちゃんのことが好きだよ」


「え?」


 私は目を丸くし、ピタッと動きを止める。


「だってそうでしょ? 好きじゃない人に尽くすなんて無理だよ。しかも笑顔で。命令に忠実で最後まで仕事をやり遂げる。これを見て好きじゃないって言える?」


 シャフリの言葉を聞いて、私は焦りを隠しつつ、笑みを浮べる。


「あ、アハハ……そ、そうよねッ!! 主人が嫌いな従者なんていないよね~」


 やっぱりそうよね!? 好きって主人としてよね? あー、良かった……。


「だから……」


 シャフリはティーカップを静かに置き、眼鏡を外して私を見つめる。


「自分は恋愛対象として見ているんだぞって教えてあげなくちゃ。そうしないと、一生意識してくれないよ?」


 なッ!? 何よそれ。そんなこと……。


「出来るわけないでしょッ!!」




 ◇◇◇




「クシュンッ!!」


 暗闇の中、林道を歩いている最中、ジークが不意にくしゃみをし、サロミアとエディックが声を掛ける。


「珍しいな。ジークくんがくしゃみをするなんて。具合でも悪いのか?」


「結局私の護衛に付き合わせてしまって疲れているのよ。ごめんなさいね」


「いえ……たまたまくしゃみをしてしまっただけですよ。お気になさらず」


「いえ。無理は禁物よ。今貴方に倒れられるのは困るもの。今日はゆっくり休みなさい」


「サロミアちゃんの言うとおりだ。殺し屋も策を練るためにしばらくは手を出してこないだろう。来たる日のために、体調を管理しておくのも大切だぞ」


 心配の言葉を受け止めたジークは苦笑いを浮べて、心の中で2人に言葉を返す。


(心配は嬉しいんですけど、カーリーメイド長にも優しい言葉を掛けてくださいよ)


 その後、他愛もない会話をしながら3人は林道を歩き、出口付近の到達する。屋敷が近いことを確認したサロミアは、自らの手で肩を揉み、あくびをかきながら思いを口にする。


「やっと屋敷の戻れたわね……こんなに疲れるなら馬車を待てば良かったわ」


「仕方ないよ。全台出払っていて3時間待つくらいなら、歩いて帰った方が早いんだから」


「それはそうだけど……」


 頬を膨らませて納得がいかない表情を浮かべるサロミアを、エディックが懸命になだめる。


 そんな2人の会話を聞いて笑みを浮べるジークだったが、背後から何かを感じ取り、即座に反応して振り向く。


「ん? どうしたの? ジークくん」


 突然振り向くジークに気づいたサロミアが声を掛ける。


 ジークは数秒程、歩いてきた林道を睨みつけるが、変化がないことを確認すると、表情を和らげ、サロミアとエディックに言葉を返す。


「いえ。小動物が横切っただけでした。お気になさらず」


「気を張りすぎよ。そんなことをしていたら疲れてしまうわよ?」


「はい……失礼しました」




 ◇◇◇




 ジークたちが通った林道の茂みが微かに動き、ある男が顔を出す。


(……何者だ? あの執事。気配を消して近づいているのに気づかれた?)


 遠くに居るジークたちにバレないように、男は気の背後に身を隠す。


「殺し屋たちのことは警戒しているようだが、これも想定内。あとは奴等が屋敷に籠もってくれれば……」


 男の近くの茂みが揺れ、男は腰に携えている剣に手を掛けながら尋ねる。


「誰だ?」


「調査部隊の部隊長です」


「待っていたぞ。それで? どうだった?」


「貴方様の予想通りでした。主治医を問い詰めたところ、もう長くはないとのことです」


 男は必死に声を漏らさないように笑い、片手で顔を覆い隠す。


「なるほど……分かった。それで、継承式の日程などは分かったか?」


「申し訳ございません。まだ未定とのことで……」


「そうか……」


「我らはいかなる時でも貴方様のお力となります……」


 月の光が男の姿を照らし出し、部隊長と名乗った男が深々と頭を下げる。


「リギル様」

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