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ミーナと遊戯2

 捻挫を起こした私は、ベッドの上で天井を見つめていた。


 ジークは私を自室に運んだ後、どこかに行ってしまい、メイド長のカーリー・ステイルが、私のお世話をしてくれた。

 

 露出少なめのメイド服を着ていて、容姿は母と同じ……とまではいかないが、胸が大きく、くびれもちゃんとあり、脚もスラッとしている好体型。オマケに顔立ちも整っていて、色白。その色白の肌に金髪ブロンドがまた映えること。目尻はやや垂れているが、彼女が優しい人であると感じさせる。


「ミーナお嬢様。足は痛みませんか?」


「大丈夫。気にしないで。紅茶はあるかしら?」


「はい。ただいま」


 メイド長であるカーリーは当然仕事も出来るが、1つだけ欠点がある。それは……40代にもなって未だに未婚。人間の40代で未婚は、流石の私でも心配してしまう。


 決してカーリーが悪いわけではない。ただ近づいてくる男が、ろくでもないヤツばかり。

 

 噂程度でしか聞いたことがないけど、数年間ほど振り回された挙げ句、捨てられ。お金をせびってくるヤツもいたとか。


 心身共に傷心したカーリーが屋敷に来たのは、30代の頃。私がまだ7・8歳の時に、私のお世話係として雇われた。


 当時は精神が病みかけていて、私と衝突することもしばしば。数え切れないほどの衝突の末、私はカーリーを信じ、カーリーも私のことを慕うようになった。


 そして、カーリーは働きが認められ、ミストレーヴ家のメイド長になり、私のお世話をする機会はグッと減ってしまった。


 そのカーリーが、再び私のお世話をしてくれて嬉しいのに……嬉しいはずなのに。


「……ジークくんのことが心配なんですか?」


「な、何を言い出すの!? 適当なことを言わないで。まったく……昔から変わらないんだから」


 カーリーはクスクスと笑いながら、テーブルの上に紅茶を置く。


「お嬢様こそ。悩み事を抱えると、天井を見ている癖は昔から変わってませんよ」


「よく見てるわね」


「長い時間、お嬢様に仕えていましたから」


 ドヤ顔しつつ、腰に手を当てるカーリーだが、少し悲しそうな表情を浮かべる。


「ですが、ジークくんは1日でお嬢様の癖や習性を見抜いてしまいました」


 私は驚きの表情を浮かべる。


「は? どういうこと?」


「昨日、感想を聞いてみたら、事細かにお嬢様の癖や習性を述べていました。悔しいですね。私は10年かかってようやく理解できたのに……」


 私は動物か何かか? 癖や習性って何だ?


「私はまだ信じていないわよ。まだ来て2日目。いずれはボロが出てくるわよ。それに私の癖や習性を理解したって口では言えるけど、本当に理解できるわけないじゃない」


「そうでしょうか?」


「何が言いたいの?」


「彼は恐ろしいほど完璧に業務をこなし、お嬢様に忠を尽くしています。お嬢様の命令であれば、命を捨てることも躊躇わないでしょう」


 真剣な眼差しで、私の瞳を見つめるカーリー。急に寒気が走った私の体は鳥肌が立ち、気持ちを落ち着けるために紅茶を飲んだ。


 バカバカしい。たった1日仕えただけでそこまでするヤツがいるか。いたらソイツは狂っているか、私のストーカーのどちらかだ。


 しかし、前日の夜に見たジークの瞳は間違いなく、私に忠誠を誓っている目だった。


「それに今ごろ……」


「今ごろ何よ?」


「奥様たちに謝罪しに行ってるではないのでしょうか?」


「謝罪? 何で?」


 カーリーは一呼吸置いてから、口を開ける。


「お嬢様に怪我を負わせてしまったからです。私の想像ですが、自決してでも許しを乞おうとするはずです」


 それを聞いた私は勢いよく立ち上がり、痛む足を引きずりながら部屋を出ようとする。カーリーは素早く私を支え、肩を貸す。


「大丈夫ですか?」


「カーリー……久しぶりの命令よ。母のところまで……ジークのところまで連れて行きなさい」


 カーリーは微笑みながら、強い口調で私に言葉を返す。


「御意!」



 ◇◇◇



 ミーナに怪我を負わせてしまったジークは、仕事中のサロミアとエディックに、包み隠さず全てを話した。


「……なるほどね」


 事の顛末を理解したサロミアに、ジークは深々と頭を下げる。


「自分の注意不足です。大変申し訳ございませんでした」


「まあまあジークくん。君1人の責任ではないよ」


「いえ。お嬢様あっての自分です。お嬢様に怪我を負わせるなんて執事失格です。どんな罰も受ける覚悟です」


 その時、勢いよく入り口の扉が開き、3人は同時に目を向ける。


「み、ミーナちゃん?」


 サロミアは目を丸くして、カーリーに肩を借りながら立っているミーナを見つめた。


「ジィィィィクゥゥゥゥ……」


 ジークも驚いた表情を浮かべ、ミーナはジークに歩み寄る。


「死ぬなんて許さないんだからッ!!」


「え? お、お嬢様!?」


 ミーナはジークに抱きつき、抱きつかれたジークは困惑し、オドオドし始める。


「私はあんたの紅茶が飲みたい~。いつまでも傍にいなさいって言ったじゃない~」


 涙声でミーナはワガママを口にし、その様子を見ていたサロミアとカーリーがニヤニヤし始める。


「お、落ち着いてください! どうしたんですか? お嬢様?」


「私が怪我したから……あんたは負い目を感じて自決するんじゃないかって」


 ジークは目を丸くし、全力でミーナの言葉を否定する。


「イヤイヤ!! 流石に自決はしませんよ! お嬢様のためなら命は捨てる覚悟はありますけど、無駄死にする気はありません」


「え?」


 ミーナはキョトンとした表情を浮かべ、ジークの目を見つめる。


「……ホントに死なないのね?」


「約束します。このジーク、お嬢様の前で自決することは致しません」


 ミーナは明るい笑みを浮かべて、さらにジークを抱きしめる。


「良かった……あんたがいないと……あんたがいないと……」


「お嬢様……」


「あの美味しい紅茶が飲めなくなるじゃん」


 一瞬静寂が訪れ、感動的な空気から一変し、笑い声が部屋の隅々まで響き渡った。

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