ミーナの訓練1
ジークとシャフリを送り出した私は心配しつつも、黙々と母に押しつけられた仕事をこなしていた。
数十分ほど時間が過ぎたとき、扉がノックされる。
「誰?」
「ミーナ様。ソフィアです」
突然のソフィアの訪問に疑問を抱きつつも、私はソフィアを部屋の中に入ることを許した。
「入りなさい」
「失礼します」
「どうしたの? 門番の仕事に飽きたのかしら?」
皮肉交じりの私の言葉に対し、ソフィアは表情を変えることはなかった。
相変わらず感情を表に出さないヤツね。
「門番の仕事には飽きていませんが、ジークさんから話は聞きました。私にお手伝いさせてください」
「アンタが? てっきり私はサラスが来るもんだと思っていたのだけど……」
「確かにサラスは器用で何でも出来ますが、焦るクセがあります。突然違う仕事をするとミスするのは必至。それを見通していたのか、ジークさんはサラスではなく、私に頼んできました」
「そう……でも残念。結構片付けたし、あと1時間程度で終わっちゃうわ」
するとソフィアは声のトーンを落とし、少し残念がる。
「分かりました。それでは何かありましたら気軽に呼んでください」
手伝うことがないと知ったソフィアは部屋から出て行こうとするが、私は彼女を引き留める。
「待ちなさい。ソフィア」
「……何でしょうか?」
ソフィアは表情を崩すことなく、ゆっくり振り向く。
「待ってくれるなら少し付き合いなさい」
◇◇◇
残っていた仕事を何とか終わらせ、ソファーに座って待っているソフィアに声をかける。
「待たせたわね」
「ミーナ様。これから何をするおつもりで?」
私は「フフン!」と笑い、ソフィアにある頼み事をする。
「私に護身術を教えなさい!」
流石のソフィアもこの唐突な頼みに驚くと思っていたが、表情は崩れることなく、ソフィアは顎に手を当てる。
「理解しがたいです……護身術ですか。ミーナ様には私やサラス、ジークさんがついています。護身術を覚えるのは無意味だと思います」
「あー、違う違う。私を守るためじゃなくて……」
ソフィアは首を傾げ、言葉の続きを促してくる。
「……シャフリや他の人を守るために」
ソフィアは真剣な眼差しで私の目を見つめてくる。
「……先刻のバルディゴ様の件からですか?」
私はコクリと頷き、ソフィアは数秒程口を閉じる。
「……良い心掛けですが、ミーナ様。失礼ながら、ミーナ様は運動が得意そうじゃないと見受けるのですが……」
「本当に失礼ね。こう見えても体を動かすのは好きなのよ」
まあ、少し前に調子に乗って準備運動もせずに体動かしたら怪我したけど……。
「そうですか。私は構いませんが、よろしいのですか?」
最終確認の返答をする前に、シャフリの泣き顔を思い出し、私はギュッと拳を作って覚悟を決める。
「くどいわよ。やるって言ったからにはやるわよ」
私の覚悟が伝わったのか、ソフィアはスッと瞼を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。
「動きやすい服をお持ちですか?」
「ええ。少し前にジークからもらった物があるわ」
「分かりました。それでは10分後、門の前でお待ちしております」
待合場所を指定したソフィアはゆっくりと出口へと向かっていき、ドアノブに手をかける。そして、部屋から出る際に、ある言葉を残す。
「今の内に言っておきます。教えるからにはミーナ様と言えでも手加減はしませんので」
その一言を口にした際のソフィアから何かを感じ、体全体が鳥肌立つ。
ゆっくりと扉が閉ざされ、私はその場にしゃがみ込みながらも、笑みを浮べてしまう。
「上等じゃない。やってやるわよ!」
◇◇◇
「……いたぞ! ターゲットだ」
王宮市街地にて、人混みに紛れながら、バルディゴを手にかけた3人の男はある人物を目で追っていた。
「あ、ちょっと失礼します。すみませ~ん。少し前を通っていきますね~」
複数の茶封筒を抱え、人と人の間を縫うように駆け抜けていくその人物は。
「……あれがサロミア・スカイ・ミストレーヴか」
「ヒールを履いているクセに、結構走り回るな……まったく止まる気配がない」
「だが、ヤツは吸血鬼だ。どういう原理で日光の下にいられるかは不明だが、力は出せないはずだ。それに護衛もいない。やるなら今しかない」
「そうと決まれば……行くか。上手く路地裏に追い込むぞ」
男たちは一斉に動き出し、サロミアの後を追っていく。しかし、サロミアとの距離は縮まらず、仕舞いにはサロミアの姿を見失ってしまう。
路地裏で合流した3人は息を切らして、思いを口にする。
「な……なんて足の速いヤツだ」
「どうする? このままだと仕事が進まないぞ?」
「かといって真正面から行って殺せる相手じゃないぞ」
3人は呼吸を整え、悩んだ末、一時撤退を選択し、その場から姿を消す。
その様子を陰で見ていたサロミアは目を細める。
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