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立ち直り

 シャフリとジークはバルディゴがいるであろう診療所に辿り着き、なりふり構わず待合室を駆け抜けようとする。


「ちょ、ちょっとッ!! 診療所内では走らないでくださいッ!!」


 シャフリとジークの行く手を遮る女性看護師が怒鳴り声を上げる。


 普段は怒鳴り声を聞くと萎縮してしまうシャフリだが、聞こえていなかったかのように看護師の両肩を掴む。


「お父さんは大丈夫なんですかッ!? どこにいるんですかッ!?」


 鬼気迫るシャフリの表情を見て、看護師は思わず怯み、腰を抜かしてしまう。


「シャフリ様。落ち着いてください」


 様子を見ていたジークがシャフリをなだめ、看護師から引き離す。


「い、一体何なんですか!?」


「看護師の方、大変申し訳ございません。こちらにバルディゴ・クリスティさんが運ばれたと伺ったのですが……」


 ジークは冷静に用件を述べ、看護師にバルディゴの居場所を尋ねる。


 看護師は乱れた服装を正し、大きく息を吸う。


「バルディゴ・クリスティさんのご親族ですか?」


「いえ、自分は付き添いです。親族は……」


 ジークはシャフリに目を向け、シャフリは今にも溢れそうな涙をこらえながら、その場に佇む。


「……少々、お時間をいただけますか? 処置は既に終わっていますが、非常に危険な状態です。意識も回復しておりませんので、面会は先生の許可が必要になります」


「だそうですけど、シャフリ様。如何なさいますか?」


 シャフリの目を見るためにジークはしゃがみ、返答を待った。シャフリは言葉を返すことなく、待合室のソファーに腰を下ろし、手で顔を覆い隠す。


 その姿を見たジークは瞬時に察し、シャフリの代わりに答えを述べる。


「是非お願いします。何分でも何時間でも待ちます」


「分かりました。それでは、しばらくお待ちください」


 看護師は診療所の奥に向かっていき、ジークは顔を隠しているシャフリの横に座る。


「……全く。ここが診療所であり、公共の場であることを忘れていないか?」


 背後から話しかけてきた人物に目を向けたジークは即座に立ち上がるが、シャフリは相変わらず手で顔を隠していた。


「旦那様」


「まあ、心配するのも無理はない」


 エディックはずっと泣き続けているシャフリを見て、仕方なさそうな表情を浮かべ、ジークとシャフリの向かいにあるソファーに腰を下ろす。


「僕がバルディゴさんのお店に寄ったときには、人集りが出来ていた。人と人の間をくぐり抜け、ようやく目にした光景は……酷いものだった。争ったのか店の中はメチャクチャ。血が床に広がっていて、店の少し奥でバルディゴさんが倒れていた」


 エディックの話を聞いて、体を震わせるシャフリを見たジークは、話を強制的に終了させようとする。


「旦那様! それ以上はおやめください! シャフリ様が……」


 しかし、エディックは目を細めて、ジークの訴えを無視する。


「ここのお医者さんと看護師さんが現場に到着したとき、バルディゴさんの意識はまだあった。そして……僕の存在に気づいたのか、意識が途切れる寸前に、あることを伝えたんだ」


 ジークは唾を飲み込み、顔を隠していたシャフリは指と指との間隔を少し開ける。


「シャフリが遊びに行っている……しばらく、面倒を見てくれ……ってね」


 震えていたシャフリの体はエディックの言葉によって自然と落ち着き、手を顔から離す。


「バルディゴ様が……そんなことを。このことは奥様は?」


「何回か通信を試みているが、反応がないんだ」


「そう……ですか」


 すると2人の会話を強制的に終わらせるかのように、シャフリの泣き声が響き渡る。


「シャフリ様!?」


「お父さん……うぇぇ、私……いっつも迷惑かけているのに……何で……何で、私のことを……」


 ジークが声をかけようとしたその時、エディックが即座に言葉を返した。


「シャフリちゃん。気の毒だが、当然のことだよ」


「うう……うえぇぇ?」


「親が子供のことを気にかけるのは当然だよ。たとえ自分が死ぬかもしれないという状態だとしても。僕がバルディゴさんの立場なら、ミーナの事を第一に考えるよ」


「……旦那様」


 エディックはシャフリの前で片膝をつき、優しく声をかける。


「バルディゴさんの思いはしっかり受け止めなさい。そして、バルディゴさんが目覚めたら、笑顔で迎えなさい。バルディゴさんは、君の笑顔しか望んでないよ」


 エディックの真っ直ぐな瞳を見たシャフリは、何度も何度も涙を拭い、やっとの思いで笑みを浮べる。


「はい!」


 シャフリの笑みを見て、エディックとジークも笑みを浮べる。


「あの~……」


 話しかけてきた看護師に、3人は一斉に目を向ける。


「大変申し訳ございません。一命は取り留めている状態ですが、意識が戻るまでは面会禁止だと先生が仰っていますが……」


 申し訳なさそうな表情で面会禁止を告げる看護師に、言葉を返したのはシャフリだった。


「分かりました。それでは、父……バルディゴの意識が戻りましたら、ミストレーヴ家に一報ください」


 泣いていた数秒前とは打って変わって、凜とした振る舞いでシャフリは診療所を後にしようとする。


 完全に立ち直ったシャフリを見て、ジークは笑みを浮べてシャフリの後に続こうとするが、エディックがジークの肩に手を置き、引き留める。


「旦那様?」


「ジークくん。シャフリちゃんを屋敷まで送った後、話がある」

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