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ミーナと仕事3

 黙々と書類の確認を行い、集中力を途切れさせる事なく、手と頭を動かし続ける。


「お嬢様。そろそろ休憩にしませんか?」


 現時刻を確認したジークが私に休憩を勧めてくる。いつもなら休憩という言葉に抱きつく私だが、今日だけは違った。


「いや……もう少し。今流れに乗っているからやめたくない」


 ジークから「お?」という声が聞こえたが、私は構うことなく書類に目を通す。


「お気持ちは分かりますが、休憩は大切です。ミスしないためにも取るべきです」


 ミスという言葉が私の手と頭を停止させる。


「何? 私がミスするとでも思うの?」


「失言、失礼しました……と言いたいところですが、お嬢様も人間です」


 半分人外種だけどね。


「誰しもミスをしたくてミスをするわけではありません。気づかない間に疲労が蓄積され、無意識に間違いを犯してしまいます。ですので、どうか……」


 軽く頭を下げるジークを見て、私はため息をつく。


「……はぁ。仕方ないわね。丁度お昼過ぎだし、昼食にしましょうか?」


「かしこまりました。ご用意しますので、10分程時間をいただけますか?」


「分かったわ。待ってるから紅茶だけ置いて行きなさい」


 ジークは笑みを浮べ、数秒もしないうちに紅茶を机の上に置く。


「準備していたのかしら?」


「ご想像にお任せします」


 自然と笑みが溢れ、私はソッと目を閉じて紅茶を味わおうとする。


 その時、扉が勢いよく開き、ジークと私は同時に目を向ける。


「ふえぇ~……部屋が多すぎるよ~。あ、ミーナちゃん見つけた!!」


 疲れ果てた姿を見せていたシャフリが、部屋に入るなり私の姿を見て、元気を取り戻し、駆け寄ってくる。


「シャフリ? アンタ、今日は店番するって言ってなかった?」


「いや~、それがね。開店準備をして、小一時間ほど店番していたら、お父さんが行ってきなさいって言ってくれたから遊びに来ちゃった」


「来ちゃったじゃないわよ!」


「で、でも……私だって昨日の罪悪感があったから断ったんだけど、お父さんちょっと怖い顔で言ってきたから反論できなくて……」


 シャフリの父親、バルディゴの強面を思い出しただけで私は納得できた。あの顔は誰だって逆らえない。


「理由は分かったわ。それにしても良くここまで来たわね。まさか、しらみつぶしに全部の部屋回ったんじゃないでしょうね?」


 シャフリは顔を引きつらせ、目を泳がす。


「そ、そんなことないよ~。私のミーナちゃんセンサーが反応して、最速最短できたよ~」


 見え見えの嘘つくんじゃないわよ。吸血鬼の状態じゃなくても見破れるわ。というか、ミーナちゃんセンサーってなんだよ。気持ち悪い。


「部屋に入ってくるとき、部屋が多すぎるって呟いていたわよ」


「あ、あぅ……」


「お嬢様。折角、来ていらしたんです。頼まれた仕事も大事ですが、シャフリ様と戯れるのも大事ですよ」


「頼まれた仕事?」


 シャフリが首を傾げ、机の上に広がっている書類を1枚手に取り、目を通し始める。しかし、書類全体に目が行き届く前に、ジークがシャフリから書類を取り上げる。


「あッ!!」


「シャフリ様。大変申し訳ございませんが、これらの書類は個人情報なので、勝手に目を通すのはお断りさせていただきます」


「え~ッ!!」


 残念そうにするシャフリ。しかし、ジークの言っていることは正しかった。シャフリはチラッと私を見てくるが、私にはどうしようもなかった。


「諦めなさい。ジーク、早く昼食の準備をして。集中していたときは何も感じなかったけど、お腹空いたわ」


「そうでしたね。申し訳ございません」


 ジークは素速く書類を集め、部屋の隅に置いてある巨大な金庫に書類をしまう。


「さっそく準備に取りかかります。シャフリ様の分もご用意しますが、よろしいですか?」


 私が許可を出す前に、シャフリが元気溢れる声で喜びを露わにする。


「ありがとうございます!! はぁ~、今日は何が出てくるんだろう?」


 メニューの予想を脳内で始めているシャフリに、温かい視線を送りながらジークは部屋から出て行き、私はソファーに腰を下ろす。


「……ふぅ」


「珍しく疲れてるようだね?」


 背後からシャフリが抱きつくが、私は咎めることなく静かに紅茶を飲み、シャフリにあることを尋ねる。


「……シャフリ。アンタはお父さんのお手伝いとか結構やってるの?」


「急にどうしたの?」


「いや……今日初めて親2人の仕事を手伝うことになったんだけど、結構楽しくてね。時間も忘れちゃうくらい没頭してしまったの」


「へぇ……確かに私も最初の頃は手伝ってて楽しかったよ。だけど、繰り返し仕事ばかりで、飽きてきたけど、お父さんが少しでも楽できるなら私は手伝えて良かったって思うよ」


 私の体から離れたシャフリは向かいのソファーに座り、ジークが用意していった紅茶を飲む。


「でも、私ドジだからミスばっかりして、お父さんの足引っ張ってばっかりだけど、お父さんは怒りもせず、自分の仕事を止めてでも優しく教え直してくれるの。だから、私も期待に応えられる仕事はしたいと思っているの」


「……シャフリ。アンタ今日は帰りなさい」


「えッ!?」


 シャフリは露骨に嫌そうな顔を浮べ、帰りたくないと主張する。


「少し言葉が悪かったわね。1日くらい、お店の手伝いに専念しなさい。私も今日は遊べないから悪いけど、昼食食べたら帰りなさい。そして……お父さんを支えてあげなさい」


「……ミーナちゃん?」


 自分が何を言っているのか理解した途端、顔が熱くなり、私はシャフリから目を逸らす。


「か、勘違いしないでよ。私は今日忙しいから相手に出来ないだけ。アンタの店が心配で言ったわけじゃないからね!」


 するとシャフリはクスクスと笑い、再び紅茶を飲む。


「分かったよ。それじゃあ、今日は仕事に専念させてもらうよ。あ、あとこれ」


 シャフリがポーチから二つ折りになっている紙を取り出し、私の前に置く。何だろうと思いながら私は紙を開け、書かれている分に目を通す。


「なんだって……せいきゅうしょ? カーリー・ステイルの解熱薬調合代を請求します?」


「出張調合は本来割高だけど、ミーナちゃんのメイドさんって事で安くしておいたよ」


 金額を見るが、薬の調合代の相場が理解できていないから、安いのか高いのか分からん。


「……まあ、あとでクソババァに渡しておくわ」


「ありがとう!」


 2人同時に紅茶を飲もうとしたその時、扉が勢いよく開き、血相を変えたジークがシャフリの前で片膝をつく。


「ジーク?」

「ジークさん?」


「シャフリ様……お父様がッ!!」

いつもご覧になっていただき、ありがとうございます!

伊澄ユウイチです。


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