平和な夜と動く影
「おや? お嬢様。もう話はついたのですか?」
先に見晴台で小鳥に餌をあげていたジークが私に尋ねる。
「もうって……30分掛かっているのよ?」
「正直、今日はこっちに来ないのかと思っていました」
流石にそれはない! 話を頓挫させてでもこっちに来てたわ!
「この子たちに会うのは私の楽しみの1つ。来ないわけないでしょ?」
私はジークから餌を受け取り、小鳥を手の上に招く。
「あれ? 今日はパンの耳じゃないのね? これは……小エビ?」
乾燥された状態の小エビを見て、私はジークに入手経路を尋ねる。
「それはシャフリ様からいただいたものです。何やらバルディゴ様の知人が送ってきたようで、お裾分けでいただきました」
シャフリという人物名を聞いてすぐに察した。
「ちょっと……もしかして、ネプカトゥーレから送られてきたんじゃないでしょうね?」
苦笑いを浮べるジークの返答は想像できた。
「恐らくそうでしょうね」
「小鳥の前に私に少し出しなさいよッ!! 私も食べたいわよッ!!」
「しかし、お昼の紅茶にはとても合いませんし、本日の夕食のメニューにお出しするわけには……」
ああ言えばこう言う……面倒くさい!!
私の手に乗っている小鳥2羽と小エビを窓際に置き、私はジークから小エビが入っている袋をもぎ取る。
「あッ!!」
「少しくらい良いじゃないッ!!」
袋の中の小エビをつかみ取りし、私は躊躇うことなく口に運ぶ。奥歯で小エビを噛み砕くと、味わったことがない風味が口の中に広がる。
「んん~ッ!! 肉とは違う風味……意外と好きかも」
「お嬢様……勿体ない上に、お行儀が悪いですよ」
「まだいっぱいあるから良いでしょ? それに好奇心が上回って行儀なんて気にしてられないわ」
ジークはため息をつき、少量のエビを窓際に置いて、背後のベンチに座り込む。
「私よりも先に座るなんて良い度胸しているじゃない」
「立ってても、座らせるおつもりでしょう?」
流石ジーク。先を読んでるわね。
「それで、お二人と何を話していたのですか?」
分かってるくせに何故聞く?
「認めてあげたのよ。たった1日だけど、私はあの二人を門番として認めたわ」
「流石です、お嬢様。お二人も喜んでいられたでしょう?」
「片膝ついて頭を下げていたわ。アンタにも言えることだけど、私が認めた以上、従者といえども家族みたいなものだから畏まって欲しくないの。カーリーが1番良い例ね。自然体で気は使ってこないけど、仕事はちゃんとする。その方が私としては接しやすい」
(メイド長は気を使わないのではなく、お嬢様を玩具にしているだけのような気がしますけど……)
ジークは苦笑いを浮べて、私に言葉を返す。
「お嬢様のお気持ちは理解できました。しかし、自分たち従者はあくまでも雇われている身です。立場上、お嬢様ファーストなので、ご理解いただけると有難いです」
横目でジークを見て、これは改善できそうにないと判断した私はため息をつく。
「まあ、そうなるわよね。無理にしろっていっても気分が悪いしね」
するとジークは笑みを浮べ、しれっと小エビを口に運んだ。
「……ん? あーッ!! ジークッ!! 何しれっとエビ食べてるのッ!?」
「すみません。お嬢様が食べてたのを思い出して、自分も食べたくなりまして……」
私はジークの肩を掴んで、前後に揺さぶる。
「ついに欲望を抑えきれなかったわねッ!! 罰として今から遊び相手になりなさいッ!!」
「構いませんけど、揺さぶるのはやめていただけませんか?」
ダメ。これ結構楽しいからやめない。
◇◇◇
アルカディアのとある飲み屋のVIP部屋にて、異様な雰囲気と黒いスーツを纏った3人の男たちが酒を酌み交わしていた。
「では、今宵も命に感謝して……」
『乾杯』
決して3人から会話が飛び交うこともなく、酒と料理が減っていく。
その時、3人は部屋の外から感じる気配に気づき、内ポケットに手を伸ばす。1人が扉に近づいたその時、壁に斬撃が走り、数秒経った後に壁が崩壊し、白い煙が部屋中に漂う。
「何者だ!?」
「まさか……衛兵か?」
3人は内ポケットに忍ばせていた小型銃を手に取り、崩れる壁に銃口を向ける。コツコツと靴の音が聞こえ、煙の奥から1人の男が現れる。
「構うことなく銃口を向けるとは、やはり野蛮な奴らだな」
扉に近かった男が男の顔を見て、驚愕する。
「お、お前は……アルカディア国王子、リギル!?」
リギルの名前を耳にした2人も驚きの表情を浮かべ、銃口を下げる。
「なんで王子がここに!? まさか、今日の仕事を見られていたのか!? ならば、始末するしか……」
「待て……よく見たら兵士を連れていない。剣も納めている」
リギルは騒ぐ3人に構うことなく椅子に座り、足を組む。
「お前たちがアルカディアで荒稼ぎしている殺し屋3人組か?」
リギルを観察していた男が銃を内ポケットにしまって、言葉を返す。
「何の用だ? 王子よ。他人の食事を邪魔しておいて、詫びも無しか?」
「質問を質問で返すな。まあ、銃の構え方を見たら間違いなさそうだな。こんな安っぽい食事なら後でいくらでも用意してやるよ。因みに言っておくが、俺はクライアントで来たんだぜ? もう少し言葉に気をつけろよ」
殺し屋3人は再び驚きの表情を浮かべ、1人がリギルに聞き返す。
「く、クライアント?」
「そうだ。お前たちの腕を見込んで頼みに来た。報酬も言い値でくれてやる」
『言い値!?』
3人はアイコンタクトで受けるか受けないかを相談し、数秒経った後、銃を持っていた2人も武装を解く。
「銃口向け、失礼した。今の騒動で店の奴らが来る。場所を変えて……」
「心配は無用だ。店のヤツには口止め料を払っているし、壁を壊す許可も得ている。突っ立ってないで座れ」
3人はリギルに言われるがまま椅子に座り、リギルが放すのを待つ。
「単刀直入に言う。お前たちに消してもらいたい人物は、この5人だ」
リギルが差し出した写真を3人は覗くように見る。
「言い値を出す以上、失敗は許さん。確実に消せ」
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