ミーナの強行3
雨は上がり、夜が訪れ、吸血鬼の姿に変わった私はある場所を訪れていた。
「……何かご用ですか? ミーナ様」
私に背を向けたまま、門の前で見張りを続けるソフィアが私に尋ねる。
私は言葉を返すことなくソフィアに近づき、近くの外壁に背を付ける。
「振り向かないで。そのまま業務を続けなさい……サラスはどうしたの?」
周囲を見渡し、サラスの姿を見つけられなかった私はソフィアに尋ねる。
「私の体調が戻るまでの間、1人で門番をしてもらっていたので、勝手ながら早めに業務を終えさせました」
「そう……で? なんでアンタはまだ業務を続けているの?」
「夜間に忍び込んでくる者も少なくないので見張っています。それに、休養はたっぷり取りました。ご心配は無用です」
休めと言いたかったが、彼女なりに考えた末の行動だと察した私は咎めるのをやめた。
「……失礼ながら発言よろしいですか?」
「堅苦しいわね。一々許可は取らなくても良いわ。話してみなさい」
「かしこまりました。もうすぐ日付が変わります。お嬢様は何故ここに?」
「……分からない」
ソフィアは追求することなく、ただ前だけを見る。その時、ソフィアのケモ耳がピクピクと動き、私に尋ねてくる。
「吸血鬼のお姿ですか?」
振り向いていないのに何故分かる?
「少し鼓動が早くなりましたね。一度お目に掛かりたいのですが……」
「それは許可できない。認めたと言っても業務面でのお話よ。まだ全てを認めてはいないわ」
「……そうですか」
ソフィアの声のトーンが下がり、私は少しだけソフィアに目を向ける。
「アンタ……雨降っていないのにレインコート着ているの?」
「ええ……降っていないとはいえ、夜風は冷たいので着させてもらっています」
再び声のトーンが上がり、ソフィアが喜んでいるのを感じた。
「気に入ってくれたのならこっちも嬉しいわ」
その後、私とソフィアは会話をやめ、静寂の時間が流れる。風の音だけが聞こえ、夜特有の空気が私の肺を循環する。
これ以上ソフィアの傍にいても会話がないと判断した私は、スカートのポケットに手を入れ、屋敷の中に戻ろうとするが、再びソフィアのケモ耳が動き、ソフィアが口を開ける。
「ミーナ様」
「何?」
「戻られる前に……一曲だけ聴いていきませんか?」
背を向けたままソフィアに目を向けると、彼女の手にフルートが握られていた。
私は踏み出した一歩を戻し、腕を組んで壁にもたれる。
「……聴くわ」
返答を聞くなり、ソフィアはフルートに口を付け、瞼を閉じて息を吹きかける。
優しいフルートの音色が響き渡り、その音色を望んでいたかのように私の瞼が勝手に閉じる。
耳にしたことがない曲……ソフィアが自分で作った曲だとすぐに分かった。
入りは弱々しいが、中盤に差し掛かって段々勢いづき、終盤は堂々とした音色に変わっていた。もっと聴いていたいと思っていた矢先、フィーネが訪れ、フルートの音色が途切れたのと同時に私は瞼を開ける。
「……聴いたことがない曲ね。自作の曲かしら?」
「はい。今の気持ちをそのまま音色に託しました」
私は思わず驚きの声を上げてしまう。
「今の気持ち……もしかして、即興で作った曲?」
「はい。楽譜もなく、自分の感性で生み出された曲です。如何ですか?」
感想を求められた私は夜空に目を向け、率直な思いを口にする。
「悲しく、辛い……だけど、何か希望を見つけたような曲だったわ」
「流石ミーナ様。ただ曲調だけを評価している専門家とは大違いですね」
「それは専門家に失礼よ。私はただ感じたことを口にしただけ。そして……アンタの思いを受け止めただけ」
「私……知っての通り、口下手で思いを表現するのは苦手で、音楽で思いを表現してきました。ですが、私の思いに気づいてくれたのはサラスと、音楽団の指揮者、ファルトマンさんだけでした。唯一の居場所だった音楽団ですが、状況が一変し、音楽団が解散することが決まり、私とサラスは音楽を失いかけました。そして、最後の演奏会。信頼していたサラスが熱発で倒れたときは運命を憎みました。自分自身を憎みました。この世界には……私は受け入れられない存在なんだなと」
いつも無表情で無愛想なソフィアが思いをさらけ出しているのを見て、私は視線を落とす。
「そんな時でした。ミーナ様がサラスの代わりにピアノを弾いて、演奏会を続行させてくれました」
「あれは私がただピアノを弾きたかっただけ。それ以外の理由はないわ」
「そうですね。ですが、ミーナ様のピアノを聴いて、私は心を奪われました。どう表現すれば良いか分かりませんが、これだけは確実に言えます」
ソフィアはフルートを強く握り、続きを口にする。
「私が仕えるべき人はこの人だと」
当時のソフィアの思いに偽りがないと感じた私は覚悟を決め、大きく息を吸う。
「……ソフィア。こっちを向きなさい」
「え?」
「もたもたしない。さっさとこっち向きなさい」
ソフィアは恐る恐る振り向き、私の姿を視界に入れる。そして、吸血鬼状態の私を見て、目を見開く。
「ミーナ様……」
「これが吸血鬼状態の私。こんな私だけど、本当に付いてくる気なの?」
ソフィアも覚悟を決め、その場で片膝をつき、フルートを私に差し出す。
「命の次に大切なフルート。このフルートに誓ってミーナ様に一生付いていきます」
最後まで堅い言葉を並べるソフィアに呆れるが、思いに応え、休憩小屋に目を向ける。
「サラス。コソコソと盗み聞きしていないでこっちに来なさい」
「やっぱりバレていましたか……」
休憩小屋の陰からサラスが姿を現し、私の前に立つ。
「アンタも……誓える?」
するとサラスも躊躇うことなく片膝をつく。
「はい。私もソフィアと同じ気持ちです」
2人の覚悟を受け取った私は、屋敷に向かって歩き出す。
「早く休みなさい。これからよろしく頼むわ」
私の言葉を理解したソフィアとサラスは活気のある声で返事をする。
『はいッ!』
2人の返事に後押しされるように私は屋敷の中に入り、自然と笑みを浮べるが、ソフィアとの会話で1つ気になったことを思い出し、足を止める。
仕えたいという思いに嘘はなかったが、過去話でソフィアは……私に嘘をついていた。
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