ミーナの強行2
お互いの背中を流し、ゆっくりとお湯に浸かるソフィアとサラスは肩まで浸った後、天井を見つめる。
「……ソフィア。私たち2人だけで大きなお風呂に入ったのって初めてじゃない?」
「そもそも大きい浴場に入ったことがない」
「だよね……これからどうなると思う?」
「ミーナ様は怒っている感じじゃなかった……」
「そう? 私は怒っているように見えたけど?」
お湯を手で掬ったソフィアはそのまま顔にお湯を流す。
「ふぅ……音は優しかった。口調も、微かに聞こえる心臓の音も、怒っているっていうよりも、心配しているように感じた」
サラスはソフィアを横目に、数秒ほど潜水する。
「……子供じゃないんだからやめて。他人の垢を飲んでも知らないよ?」
勢いよく浮上してきたサラスは頭を抱え、ソフィアに視線を向ける。
「まあ、どうなろうと、私はソフィアと一緒にいられれば良いよ」
恥ずかしかったのかソフィアは顔を赤くし、サラスから目を逸らす。
「い、いきなり何を言うの……」
「嘘偽りない私の本心だよ。ソフィアがいたから王宮で近衛が出来て、お試しだけどミストレーヴ家で勤めることが出来た。ありがとう」
「……私もだよ。一人ぼっちで誰も相手をしてくれなかった私に、音楽で手を差し伸べてくれたサラスには感謝している。今の私がいるのはサラスのお陰。だから……これ以上、何も言わないで」
ソフィアの顔面が真っ赤になっているのを見て、ニヤニヤと笑みを浮べるサラス。
そして、サラスから逃げるようにソフィアは顔をお湯に沈ませる。
◇◇◇
「大変お待たせしました」
風呂上がりで艶々な肌を見せるサラスが扉を開けて、私に声をかける。
「意外と早いわね……まだ30分しか経ってないわよ?」
「いえいえ、逆に長湯しすぎて……」
「さ、サラス~。部屋が回ってる……」
後から入ってきたソフィア顔を見て、私は苦笑いを浮べる。
「真っ赤っか……のぼせるほど熱かった?」
「いえいえ、湯加減は丁度でしたけど、ソフィアが途中で潜ってしまいまして……」
何で潜ったのかは訊く気はないが、無理に立たせるわけにはいかない。
「ソフィア。ソファーに横になりなさい。フラフラじゃない」
今にも倒れそうなソフィアに横になるのを勧めるが、ソフィアは頑なに横になろうとしなかった。
「い、いえ……ミーナ様の前で横になるのは少し……」
私はため息をついて、ソファーを指差す。
「仕方ない……命令よ。ソフィア。横になりなさい」
命令という言葉には流石に逆らえなかったのか、ソフィアは渋々ソファーに腰を下ろし、背もたれに背を付ける。
「この状態でも大丈夫なので……お許しを」
まあ、少し楽になるのならそれもでも良いか。これ以上、何を言っても聞き入れなさそうだし。
「分かったわ。サラスも座りなさい」
「はい」
ソフィアの横にサラスは腰を下ろす。
私は大きく背伸びをした後、ゆっくりと立ち上がり、クローゼットからある物を持って2人の前に立つ。
「ミーナ様……それは?」
私が手に持っているものを見て、サラスが口を開ける。具合の悪そうな顔をしながらも、ソフィアも私に目を向ける。
「これ? レインコートよ。特注の」
白いレインコートを広げて2人に見せるが、2人は理解が追いついていなかった。
「レインコート……ですか?」
「これ凄いのよ。職人が魔法を付与させているから雨が染みこむことはないし、周りの温度に合わせて保温、冷却機能も付いているわ。本当はカーリーや他のメイドたちに支給する予定だったけど、2人にあげるわ」
すると2人は驚きの表情を浮かべ、サラスが突っ返そうとしてくる。
「そ、そんな高価なもの受け取れませんッ!」
「あら? 何で高価だと思うの?」
「察することは容易ですッ! 高性能で見栄えも良いものが安価なわけがありませんッ!」
「右に同じです……私たち程度に……気を使う必要はありません」
私は眉をハの字にし、ため息をついて2人から視線を逸らす。
「……しな……よ」
「え?」
聞き取れなかったサラスは私にもう一度尋ねてくるが、ソフィアはケモ耳をピンと立てて、私を見つめてくる。
「察しなさいよッ!! お試し期間が始まって間もないけど、アンタたちを認めてあげるって言っているのッ!!」
サラスは目を丸くし、内容の確認が取れたソフィアは天井を見つめ、満足げな笑みを浮べる。
「え? ……あの、状況を飲み込めないのですが……」
「ありがとうございます……ミーナ様。それでは、お言葉に甘え、大切に使わせていただきます」
頭の中が混乱しているサラスは私とソフィアを交互に見る。私はソフィアの目を見て、コクリと頷いて、窓の外を見る。
「……日が沈んだら雨が止むそうだけど、着て行きなさい。それと、ソフィアは具合が良くなるまで休憩小屋で休んでいなさい。これは命令よ。命令無視は容赦なく罰を与えるからね」
ソフィアは笑みを浮べたまま立ち上がり、レインコートを受け取ろうとする。
「分かりました。ミーナ様」
「……それじゃ、持ち場に戻りなさい」
ソフィアは軽く頭を下げ、フラついた足取りで部屋を後にする。数秒遅れでサラスもレインコートを手に取り、私に頭を下げて部屋を後にする。
1人になった私は雨が降り続く外を見て、ゆっくりと瞼を閉じる。
「……何やってるんだか。私」
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伊澄ユウイチです。
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