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ジークと門番5

 門の近くにある小屋に連れられたサラスとソフィアは、鼻歌を奏でるジークの背中を眺めながら座り続ける。


「あ、あの~。ジークさん」


「はい。何でしょうか? サラスさん」


「どうして私たちを小屋に?」


「ああ……ここは元々ガーデニングの備品が入っていた小屋なのですが、別の場所に備品が移動したため、外仕事の従者の休憩場所になったんです」


「この場所が休憩場所だと言うことは分かりました。ですが、私たちはまだ休憩するつもりはありません。それに、サロミア様やミーナ様に休憩の許可は得ていませんので……」


 冷たい口調でソフィアがジークに言葉を返す。


「その心配は無用ですよ。ここに来る前に奥様には許可を得ましたので。それに、適度に休憩しないと体に悪いですよ」


 もっともなことを言われ、ソフィアは返す言葉が見つからず、目の前のテーブルに視線を落とす。


「そう言えば、気を失っていたから気づきませんでしたが、メイド長さんはどこにいますか? ワガママを聞いてもらったので、お礼を言いたいのですが……」


 ジークは手を動かしながら、苦笑いを浮べて言葉を返す。


「カーリーさんはお庭の手入れをしています」


「て、手入れ!? 外は豪雨ですよ!?」


 ソフィアは庭がある方向に目を向ける。テーブルの中央にお菓子を置いたジークは経緯を説明する。


「無断で外出、無断で従者同士を戦わせたことを奥様は知っていたようで、従者の管理責任者であるメイド長が罰を受けることになったのです」


「それって……」

「私たちの所為じゃん……」


 サラスは顔を青ざめさせ、ソフィアは膝の上に置いていた手を拳に変える。


「大丈夫ですよ。自分たちはお咎め無しだそうです」


「どうしてですか?」


 サラスが率直な疑問をぶつけ、ジークは優しい口調で言葉を返す。


「許可を取らなかったことに奥様はご立腹だそうです。戦ったことについては、怪我しない程度にしなさい……とのことです」


 サロミアの怒りの矛先があまりにも予想外だったため、サラスとソフィアは唖然とする。


「それにカーリーさんが罰を受けるのはいつものことなので、お気になさらない方が良いですよ」


 その時、外から誰かがくしゃみをしていたようだが、3人の耳には届いていなかった。


「さて……そろそろ良いでしょう」


 ジークはカップに紅茶を注ぎ、2人の前に置く。湯気が立つ紅茶を眺める2人に、ジークは言葉を添える。


「お体が冷えているでしょう。自分が作った紅茶とお菓子ですが、よろしかったらどうぞ」


 瞼を閉じながらジークは紅茶を飲み、嬉しそうな表情を浮かべる。


「うん。良い味です」


 ジークの表情を見て、サラスとソフィアも紅茶を一口飲む。すると、固くなっていた2人の表情がみるみる和らぎ、カップに残っている紅茶を見つめる。


「な、何ですかッ!? この紅茶は!?」


「甘い……トロってしている……でも飲みやすい。そして……温かい」


「茶葉は街でも売っている普通の茶葉です。紅茶は温度を調節すれば味が変わります」


「普通の茶葉!? 温度調節だけでここまで味が変わるなんて……王宮で飲んでいた紅茶とは雲泥の差です!!」


「おいしい……」


 2人はあっという間に紅茶を飲み干し、目の前にあるお菓子に手を伸ばす。そして、お菓子も一口食べて手を止める。


「お菓子も……おいしい」


「見た目は普通のバタークッキーなのに味が違う!! 濃厚だけど口当たりが良い!! 紅茶に合う!」


「気に入っていただけて嬉しいです。紅茶のお代わりはまだありますよ」


 2人は同時にカップを差し出し、おかわりを要求する。再び紅茶が注がれたが、2人はあっという間に飲み干してしまい、再びお菓子に手を伸ばす。


 そんな2人を見てジークは笑みを浮べ、2人に言葉を贈る。


「……ご安心ください。暇を出されることはありませんよ」


 2人はピタッと手を止め、お菓子からジークに視線を戻す。


「き、聞いていたのですか?」


「すみません。盗み聞きするつもりはなかったのですが、聞こえてしまって……」


「どうして……暇が出ないと?」


 ソフィアの問いに、ジークは一呼吸置いて言葉を返す。


「まずは奥様のことから。奥様は大変お心が広い方です。自分から辞めると口にしない限り解雇することはないでしょう。現に、カーリーメイド長は解雇されていません」


 再び外からくしゃみが聞こえたが、またしても3人の耳には届かなかった。


「そしてお嬢様は……不確定な部分が多いですが、必ず認めてもらえるでしょう」


 サラスは苦笑いを浮べ、ソフィアは表情を崩すことなくお菓子を頬張る。


「そのミーナ様に認めてもらうことで私たちは悩んでいるのですが?」


「申し訳ございませんが、自分からこれ以上言うことはありません。あとは流れに逆らわないようにしてください」


 ジークはそれ以上口を開くことはなく、ソフィアの追求は虚しく散った。


 それ以降会話はなく、休憩し始めて10分ほど経ち、ジークが席を立つ。


「さて……自分は戻りますが、あと20分は休憩時間です。ゆっくり休んでください。あと……紅茶のおかわりは必要ですか?」


 ジークは紅茶が入ったポットを手に取り、2人に尋ねる。2人は同時にカップを手に取り、ジークに差し出す。


『いただきます』

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