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ミーナと執事5

 ベッドの上で気持ちよく寝ている私を起こしたのは、カーテンの隙間から漏れた太陽の光だった。


「……んあ? ふぁ~、もう朝か……」


 寝癖で撥ねている髪を手で撫でながら、私はカーテンを少し開ける。行き交う人々の声が耳に届き、心が乱れそうになったが、深呼吸をして自分を保つ。


 その時、扉がノックされ、私は扉の向こうにいる人物の入室を許可する。


「どうぞ」


「ミーナお嬢様? 起きていたのですか?」


 部屋に入ってきた執事ジークが、私の顔を見て不抜けた顔になる。


「体の構造上、3時間しか寝られないのよ」


「それは失礼しました」


「で? 用件は何? まさか、私の寝顔を見に来たわけじゃ……」


「いえいえ。カーペットのシミ抜きが完了したので、変えに来たのです」


 カーペット? ……あ。私が舌火傷して、紅茶を溢したからだ……。


「どうかなさいましたか?」


 ジークが私の顔を覗き込んでくる。

 不意に視線が合った私は、赤面してしまった顔を見せないようにそっぽを向き、ジークに言葉を返す。


「さ、さっさと変えなさい。邪魔なら出て行くけど?」


「お気遣いありがとうございます。入れ替えるだけですので、ご安心を」


 ジークはせっせとカーペットを取り替え始め、数秒もしないうちに作業を終える。


「は……早ッ!?」


 え? あっという間だったんだけど? しかも、私カーペット踏んでいたよね? どうやって変えたの?


「このくらい素速く出来ないと、お嬢様の執事失格です」


 私が呆気にとられているのに対して、ジークは満面の笑みを浮かべて私を見る。


「それはそうとお嬢様」


「あ、え? 何?」


「日光を浴びても平気なのですね」


 私が窓越しに日光を浴びていることに気づいたジークは、素で思ったことを口にする。


「今の私は人間が表に出ている状態。日光を浴びても平気よ」


「そうですか。安心しました」


 ぶっちゃけ、吸血鬼が日光に弱いっていうのは、人間が勝手に作った吸血鬼の弱点。実際は日光を浴びても平気だし、力が弱くなることもない。


「母も日光浴びても大丈夫よ。間違った知識は正しなさい」


「ありがとうございます」


「話は変わるけど、30分後に朝食を持ってきて。メニューは任せるわ」


「かしこまりました。では後ほどお持ちします」


 忠実に行動するジークを見送った私は、数秒ほど扉を見つめてしまった。前日の数々のシーンが、私の脳内でフラッシュバックし、私は顎に手を当てて、考え事をする。


 “何故仕える”という問いに対しての答えが運命……いや、意味分からん。


 炎の剣を投げてもビビらなかったし、過去話も途中でやめるし、突然手品を披露してくるし、アイツは謎すぎる。でも、仕事は出来るし、呼んだらすぐ来てくれるし、執事としては文句ないんだけど……天然すぎる。


 だけど……ちょっとだけ可哀想だなって思っちゃった。


 過去話の続きは気になるけど、決して楽な人生じゃなかったのは分かる。追い出すのは非情かな……。


「もう少しだけ様子を見てみようか」



 ◇◇◇



 明るい笑顔で机に向かっているサロミアに気づいた夫エディックは、数百枚もの書類を抱えながら声をかける。


「サロミアちゃん。今日はご機嫌だね。何か良いことでもあった?」


「ん~? 日付が変わる頃に良いもの見ちゃってね~。お陰でワインが美味しかったの」


「へぇ~。そんなに良いものなら僕も見たかったな~」


「フフフ。近々、また見られるかもね」


「旦那様、奥様」


 不意に背後から声をかけられた2人は、体をビクつかせて声が聞こえた方向に目を向ける。


「ジークくん!? いきなり背後にいるとビックリしちゃうわよ~」


「おわッ!! あ、ああ!!」


 エディックは床に書類をばらまいてしまう。


「やってしまった~」


「ご安心を。旦那様」


 ジークは床に散らばっている書類全てを拾い上げ、エディックに手渡す。


「お待たせしました。どうぞ」


「おお! ありがとう!!」


「流石ね。それも旧友が教えたスキル?」


「いえ。隣国で狩人たちのクエスト受付をしていた頃に自然と」


 それを聞いたサロミアはクスクスと笑い、口に手を当てる。


「と言うことは、何度も書類をばらまいていたってことね」


「お恥ずかしながら」


 再びサロミアはクスクスと笑う。


「ところで、どうしたのかな? ミーナがまた癇癪でも起こしたのか?」


 ジークは笑みを保ちつつ、エディックの言葉を否定する。


「いえ。ミーナお嬢様は落ち着いておられます。朝食を希望してきたので、旦那様と奥様の分もご用意すれば良いのかと思いまして」


「あら~。気を遣ってくれたのね。私たちは大丈夫よ。先輩メイドさんたちが後で用意してくれるから、ミーナちゃんの分だけ用意してあげて」


「ジークくん。よろしく頼む」


「分かりました。お仕事の邪魔をしてしまいました。それでは、失礼します」


 ジークが立ち去った後、サロミアとエディックは顔を見合わせて微笑む。


「珍しいわね~」


「ミーナが朝食を取るなんて。10年ぶりくらいじゃないか?」


「そうね~。早くもジークくん効果かしら? 即効性の効果ね」


2人は声を上げて笑い合う。



 ◇◇◇



「ふぇッ……ふぇくちッ!! 何だろう? 鼻がムズムズする……」


 誰か私の噂でもしているのかしら? ……噂されるほど人脈ないけど。


 あ~それよりも早く朝食来ないかな~? 紅茶が楽しみ~。


「失礼します」


 お、キタキタ~。


 ジークがワゴンを押しながら部屋に入ってくる。そしてテーブルにテーブルクロスを敷き、料理を並べる。


「時間通りね」


「お待たせしました。卵サンドとハムサンド。そしてツナサラダと紅茶になります」


 ほおぉ……重くもなく、軽すぎないこのメニュー。中々、良いセンスしているわね。


 それではまず、紅茶から……。


「わひゃあぁぁ!!」


「お嬢様!?」


 舌火傷してたの忘れてた……またカーペット汚しちゃった。

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