ミーナの成長1
「では、バルディゴ様。何かありましたら何でもお申し付けください」
「ありがとう。ジークくん。それじゃあ、お休み」
「ごゆっくりお休みください」
バルディゴをゲストルームに案内し、頭を下げながら退室したジークは真剣な表情を浮かべて、カーリーが待つメイド長室へと足を運んだ。
◇◇◇
「失礼します。メイド長」
メイド長室の扉をノックし、カーリーの返事をもらったジークはゆっくりと扉を開ける。そこには部屋着姿のサロミアの姿もあった。
「奥様? お休みになったのではなかったのですか?」
「休むつもりだったけど、事が事だったからもう少し起きてるの」
「取り敢えず座りなさい」
カーリーがジークにソファーに座るよう命じ、カーリーとジークはサロミアの向かうようにソファーに座る。
「……今は何時?」
突如、時間を尋ねてきたサロミアにジークは冷静に言葉を返す。
「23時40分26秒です」
「そうね……まだ日付が変わらない時間よね」
「そうですね……それなのに、何故」
ジークは膝の上で拳を作り、思いを口にする。
「ミーナお嬢様が吸血鬼化しているのでしょうか?」
カーリーとジークが疑問に思っていたことを再度受け止めたサロミアは、ため息をついてワインを一口飲んでから言葉を返す。
「人間と吸血鬼のハーフ。奇跡の混血と呼ばれているくらいだから前例もない。18年間、あの子を見てきて、普段は人間と変わらない姿だけど、午前0時から5時までは吸血鬼の力が目覚め、吸血鬼の姿に変わる。これは2人も知っているわよね?」
カーリーとジークは無言で頷き、サロミアはさらに口を開ける。
「疑問に思わなかった? ハーフなのに吸血鬼でいる時間が短いことに……」
「確かに……24時間あって、たった5時間しか吸血鬼の姿にならないのはおかしいですね……」
カーリーが顎に手を当て、疑問に対し真剣に考える。
「18年間、1秒も遅れることなく、ましては早まることなく吸血鬼化しているにも関わらず、今日に至っては1時間早い23時に吸血鬼化した。私の結論はミーナちゃんが子供から大人に少し成長したんじゃないかと思っているの」
『成長……』
2人は声を重ね、サロミアは微笑を浮べる。
「18年。人間にとっては成長しきったと言っても良い年月。だけど、吸血鬼にとっては生まれてまだ間もないほどの年月。まだまだ成長途中。そして、年月だけじゃ吸血鬼は成長しない」
「年月だけじゃ? ……それじゃあ、お嬢様が成長するに至って必要なものとは?」
サロミアはスッと目を閉じて、ジークの質問に応える。
「自分という存在を認め、他人を敬う、または憎み、ありとあらゆる知識を身につけ、体験する。そうやって吸血鬼は心身共に成長していく。知識はこの屋敷にある本や資料を熟読しているから世間一般よりも知識はあると思っているわ。ただ……今までミーナちゃんは自分を否定していて、他人を敬うよりも、否定し、憎んでいる方だった」
「憎……む?」
ジークは目を丸くし、徐々に体が震え、額から汗が流れる。
「自分を認める以外は成長できる条件だったけど、肝心の部分が抜けていたから成長は起こらなかった。だけど、今日はっきりと確認できた。ミーナちゃんは自分を認め始めたのだと」
サロミアが言いきった瞬間に、ジークは勢いよく立ち上がり、机を思いっきり叩く。ジークに叩かれた机は衝撃に耐えられず、メキメキと音を立てて破損する。
「ジ……ジークくん?」
「自分は認めません。お嬢様が自分を受け入れたのは納得します。ですが、あんなに優しく真っ直ぐな心を持っているお嬢様が他人を憎んでいるなんて考えられませんッ!!」
珍しく感情的になるジークを目の当たりにしたカーリーは、ジークの肩に両手を置き、鎮めようとする。
「ジークくん!!」
カーリーの声で我に返ったジークは、袖で汗を拭い、サロミアに頭を下げる。
「し、失礼しました。感情的になってしまい、つい暴言を……」
「いや……貴方が感情的になるのも無理はないわ。私こそ、言葉を間違えたわ。気を悪くしないで」
お咎めはなく、落ち着いたジークは再びソファーに腰を下ろし、落ち着かせてくれたカーリーに感謝を述べる。
「メイド長、ありがとうございます」
カーリーはニッコリと笑みを浮べる。
「話を戻すけど、前のミーナちゃんだと他人を憎んでいた。だけど、ジークくん。貴方が来てからミーナちゃんは変わった」
「自分が……ですか?」
「そうよ。貴方が来てからミーナちゃんは笑顔が増えて、まだシャフリちゃん1人だけど友達も出来て、人前に堂々と立つことも出来るようになった。そして、他人を憎むよりも、敬っているんじゃないかなって思ってるの。全部、貴方のお陰よ」
ジークはゆっくりと首を横に振り、サロミアの言葉を否定する。
「それは自分ではなく、本来あるべきミーナお嬢様の姿です。私はただ傍にいただけです。寧ろ、ミーナお嬢様の成長を阻害してしまうのじゃないかと思っていたのですが……」
「それでも……ね?」
サロミアはニッコリと笑みを浮べ、つられるようにジークも笑みを浮べる。
しかし、サロミアの笑みはすぐに消え、表情が変わったのを確認したジークは、再び表情を強ばらせる。
「ミーナちゃんが成長するのは嬉しいことなんだけど、ここで問題が1つ浮上するわ」
『問題?』
するとサロミアはカーリーに目を向け、あることを口にする。
「5年前と2年前。そして、つい数週間前。カーリーちゃんは覚えているでしょう?」
するとカーリーは頭を抱え、体をブルブル震わせた上、呼吸が荒くなる。
「メイド長?」
「……奥様。ジークさんにお話ししても大丈夫なのですか?」
「ミーナちゃんの傍にいるジークくんだから話すのよ。それに、遅かれ早かれ知ってもらう必要はあるわ」
サロミアはジークに目を向ける。
「良い? 今から話すのは冗談でも脅しでもないわ。心して聞きなさい」
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