秘密話
王宮に残ったジークたちは、国王の執務室のソファーに腰を下ろしていた。
「良いのですか? 奥様。自分まで座ってしまって」
「屋敷に戻るまで執事ジークじゃなく、ジーク・アルヴェルドとしていなさい」
「しかし……」
ジークが続きを述べようとしたその時、サロミアの鋭い目つきがジークの瞳を貫き、ジークは言葉を失った。
「……承知しました」
「分かれば良いのよ」
「ところでサロミアちゃん。ヨハネス国王に仕事の話って何? 僕は何も聞かされてないんだけど……」
サロミアの横で静かに座っていたエディックが周囲に疑問符を浮べる。
「ん? ああ。あれは広間にいた大臣を誤魔化すのと、ミーナちゃんたちを先に帰す口実」
「口実? 本当の目的は?」
ソファーの端に座っていたバルディゴがサロミアに視線を向ける。サロミアは視線を合わせることなく、バルディゴに言葉を返す。
「それは……国王が来てからのお楽しみよ」
「待たせたな」
入り口の扉がゆっくりと開き、国王が顔を出す。
会食の時の正装と打って変わって、ラフな服装で執務を行うデスクに国王は腰を下ろす。
「周りの者を退けていたら時間が掛かってしまった。周囲には誰もいない。要望通りにしたぞ……サロミア」
するとサロミアはゆっくり立ち上がり、迷いがない足取りで国王のデスクに近づく。
「手を煩わせて、すまないわね。感謝するわ。早速だけど、本題に入らせてもらうわ」
ジークを含め、サロミアの背中を見ている全員が固唾を呑む。
国王は真剣な表情を浮かべているサロミアを見て、目を細める。
◇◇◇
「すっかり遅くなってしまったな……」
帰りの馬車の中、外の景色を眺めながらエディックは呟く。
ミーナたちが帰った数時間後。外は完全に闇に包まれ、空には無数の星と月が輝いていた。
「サロミア殿……未だに信じがたいです。ヨハネス国王の命が……消えかけているなんて」
「事実よ。私も最初は信じたくなかった。だけど、執務室で話していたことは全部本当の事よ」
サロミアはジークが用意した紅茶を飲みながら、バルディゴに言葉を返す。バルディゴは目を白黒させ、頭を抱える。
「まあ、私やヨハネス、そしてジークくんや貴方の奥さんの過去を知ってしまった上に、恩人とも言える人間の余命を耳にしたらそうなるわよね」
◇◇◇
「まずは事実確認をさせて頂戴。ヨハネス……貴方、死ぬの?」
低めの口調でサロミアは国王に問いかけ、国王はスッと瞼を閉じ、一息入れてから言葉を返す。
「……ああ。王宮に仕える名医の診断だ。間違いは無い。私の余命は……持ってあと1年。どこから嗅ぎつけたんだ?」
「ウチの優秀で無鉄砲なメイドが仕入れたの。素晴らしいでしょ?」
「全く……油断も隙もあったもんじゃない」
話がそれそうになったその時、サロミアの背後で机を叩く音が発せられる。
「……顔色が悪いわよ。バルディゴ」
「今の話……本当ですか?」
国王の代わりにサロミアがバルディゴに言葉を返す。
「事実よ。ヨハネスは嘘をついていないわ」
「そ、そんな……因みにどこが……」
すると国王は自分の左胸に手を当てる。
「心臓だ」
するとバルディゴはヘナヘナと座り込む。
「もう手遅れらしい。齢を重ねるごとに苦しくなっていたが、数ヶ月前から急変してな。検査した結果、かなり弱っているらしい」
「それもそうよ。あんな味の濃い食事を毎回食べていたら体を壊すに決まっているわ」
すると国王は眉をハの字にして、トーンを落とす。
「実は10年前から味が濃いことは知っていたんだ」
「何ですって?」
サロミアとサロミアの背後で聞いていた3人は驚きの表情を浮かべる。
「だが、シェフたちが腕によりをかけて作ってくれた料理を無駄には出来ん。我慢というのは失礼だが、自分を押し殺して食べていたんだ」
するとサロミアは目を細め、やがて瞼を閉じる。
「……少々口を挟んでも宜しいですか?」
その場にいる全員の視線が一斉にジークに向けられる。
「良いわよ。ジークくん」
ゆっくりと立ち上がったジークはサロミアの横に立ち、国王の目を見て口を開ける。
「あの料理は……意図的に味を濃くされたものです」
ジークの言葉に全員目を丸くする。
「ど、どういうこと? ジークくん」
「誰が指示したのか分かりませんが、シェフたちは仕方なく味を濃くしていたようです。ヨハネス国王の料理だけ味が濃かったら気づきませんでしたが、ミーナお嬢様が料理を口にした瞬間、顔を険しくさせていたので気づきました。お嬢様に料理を作り直すついでに、シェフたちを問いただしました。肝心なところは聞き出せませんでしたが、誰かに脅されていることだけは分かりました」
「そう……か」
国王は背もたれに寄りかかり、少しだけ天井を見つめる。
「気になるわね……一体誰が」
「余計なことを考えるな。サロミア。シェフたちを脅した犯人を見つけたとしても、私の体が健康体になるわけでもない」
「しかし……」
その時、入り口の扉がノックされ、国王は扉に目を向ける。
「来たか……今日残ってもらったのは私の余命を知ってもらうためでもなく、仕事の話でもない。入りなさい」
扉がゆっくりと開き、ある少年が執務部屋に入ってくる。その少年を見て、全員が呆け顔を浮べ、サロミアは国王に目を向ける。
「王族衣装……そしてこのタイミングで入ってくるってことは……」
「相変わらず察しが良いな。この子こそが次期国王のクロノ・アルカディアだ」
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