馬車に揺られて
ジークが手配してくれた馬車に揺られる私は、自分でも分かるくらい不機嫌な顔をしていた。
「み、ミーナちゃん。どうしたの? さっきまで楽しそうな顔していたのに……」
私の対面に座っているシャフリが苦笑いを浮べて、私に話しかけてくる。
「気にしないで。勝手に私が機嫌悪いだけだから。シャフリは何も悪くないから」
◇◇◇
遡ること数十分前。
ジークが手配した馬車に乗り込むシャフリを追うように、私も馬車に乗り込もうとする。その時、背後にいるジークに目を向けると、ジークが満面の笑みを浮べて私に手を振っていた。
「何しているの? さっさと来なさいよ」
するとジークは眉をハの字にして私に言葉を返す。
「申し訳ございません。お嬢様。自分はもう少し王宮に用事がありますので、奥様たちと一緒に帰ります」
「は? 何言ってるの? アンタは私の執事でしょ? 私の傍にいるのが仕事でしょ? アホなこと言ってないで、さっさと乗り込みなさい」
私が馬車から降りようと一歩踏み出した瞬間、扉が勢いよく閉まり、馬車が進み始める。
「は? え?」
「だ、そうなのでお嬢様。私がジークくんの代わりに一緒に帰ります」
いつの間にか馬車に乗り込んでいたカーリーをチラッと見て、私は窓の外で手を振り続けているジークを睨みつける。
「ざっけんじゃないわよッ!! クソ執事ぃぃッ!!」
◇◇◇
「……お嬢様。申し訳ございません」
ミーナを見送ったジークは、背後にいた国王に目を向け、軽く笑みを浮べる。
「本当に良いのか? ジーク。自分が仕える主君に過去を教えなくても」
「今のお嬢様に私の過去を受け止める余裕はございません」
「だが、いずれは受け止めてもらう必要があるだろう?」
するとジークはポケットに手を突っ込み、真剣な表情を浮かべて国王に言葉を返す。
「お嬢様が……もう少し淑女として成長なさった時に明かす予定です。人を気にしすぎる性格はヒビキさんがいたときから変わってませんね。ヨハネスさん」
すると国王は苦笑いを浮べ、王宮内に戻ろうとする。
「お前も昔と変わらず生意気だな」
「そうでもないわよ~」
突如、国王とジークの間に入るように姿を現したサロミア。2人はサロミアを見て、驚きの声を上げる。
「いきなり背後から話しかけるな! サロミア!」
「奥様……せめて気配を出して忍び寄ってください」
「あら? ごめんなさいね。昔話が始まりそうだったから部屋から出てきちゃった」
2人はため息をつき、サロミアは笑みを浮べたまま2人を交互に見る。
◇◇◇
「全く……主人である私の傍にいない執事なんて必要ないわ。あ~、イラつきすぎて喉が渇いたわ。カーリー、紅茶」
「承知しました」
手際よく紅茶を用意するカーリー。ものの30秒程で私とシャフリの前に紅茶を置く。
「私の分まで用意してもらって申し訳ないです」
「いえいえ。私こそ勝手に用意してしまして、申し訳ございません。あまり気が進まないのであれば下げますが……」
シャフリは首を横に振り、紅茶を一口飲む。
「うーん! 美味しい」
シャフリは満面の笑みを浮べて、カーリーに味の感想を述べるが、私は紅茶を飲んでため息をつく。
「お嬢様。お気に召しませんでしたか?」
「……いや。大丈夫。美味しいわよ」
カーリーが用意してくれた紅茶は間違いなく美味かった。だけど、私の舌が求めていた紅茶の味ではなかった。
「ミーナちゃん」
シャフリがカップを持ちながら私に声をかける。私は頬杖をつき、紅茶を飲みながらシャフリに言葉を返す。
「何?」
「ジークさんがいなくて寂しいのは分かるけど……」
シャフリが唐突にジークの話を始め、私は思わず紅茶を吹き溢す。
「汚いよ! ミーナちゃん!」
「アンタが唐突に変なこと言うからでしょ!? それに寂しくなんかないし!!」
床に溢れた紅茶を雑巾で拭き始めるカーリーが優しい口調で話し始める。
「隠さなくても良いじゃないですか。お嬢様」
「別に隠してないし……」
私は視線を天井に向け、ぶっきらぼうに言葉を返す。するとカーリーは笑みを浮べて、口を動かす。
「ジークくんと出会ってから、お嬢様は笑顔が増えました」
「え?」
「私が専属で仕えていた頃よりも活発になって、少しずつではありますが、成長を感じております。こうして外出できるようになったのも、ジークくんのお陰だと理解されているのでしょう?」
今回の外出はジークに騙された感はあるけど……正直なところ、私もジークのお陰だと思っている。
「シャフリ様は感じていると思うので口にしますが、お嬢様がジークくんに好意を寄せているのも存じています」
「なぁッ!?」
私は顔を真っ赤にして反論しようとするが、カーリーは間髪入れずに話を進める。
「嬉しい限りです……」
「え?」
カーリーは手を止め、真剣な表情を浮かべて私を見つめてくる。
「恐らく彼もお嬢様に従者としてではなく、一男性として好意を抱いております。ですが、従者という立場である以上、自分から口にすることはないでしょう。彼は人間です。お嬢様はあと何十年生きるか分かりませんが、人間の寿命はあっという間です。何もせずに後悔だけはしないでくださいね」
言い返そうにも返す言葉が見つからず、シャフリに助けを求めようとするが、シャフリも同意見なのか表情から笑みを消し、真剣な表情で私を見つめる。
私は逃げるように窓の外に視線を向ける。
「……仕方……ないわね」
冷め始めている紅茶を一口飲む。
「馬車が動き始めた時間からジークは休暇扱いにして」
「お嬢様」
「ミーナちゃん」
「人間は脆いからあんまりワガママ言いすぎると壊れるもんね。私が子供だったわ。休みも必要ね」
カーリーは一瞬だけ目を丸くするが、すぐに笑みを浮べて頭を下げる。
「ありがとうございます」
「あ、それと……」
私はゆっくりと立ち上がり、カーリーとシャフリの首を掴む。
「お、お嬢様!?」
「み、ミーナちゃん!?」
「ジークのことが好きだってこと、誰にも言わないって約束しなさい。さもないと、ここで息の根止めるから」
『ひぃぃぃぃッ!!』
2人は涙を浮べながら私に許しを乞い、私は他言無用することを肝に銘じさせた。
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