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2人の王子

「義兄様……」


 悲しげな表情を浮かべるクロノに対して、リギルは舌打ちをし、深くため息をつく。


「おいおい。さっきまでの目つきはどうした? 毎度、俺の顔を見て泣きそうな顔になるのはやめろ」


「義兄様……どうして兵士に手を出すのですか?」


「どうしてって……俺の命令に背くヤツには罰が必要だろ? 俺は罰を与えただけだ」


 するとクロノはリギルから見えない位置で拳を作り、力強い口調で言葉を返す。


「義兄様は人の命を軽視しすぎです! 身体は魔法ですぐ回復できますが、精神は時間をかけないと元には戻りません!」


「説教かよ。ガキのくせに生意気だな」


 クロノの相手をするのが面倒になったリギルはユラリと立ち上がり、クロノに背を向ける。


「義兄様……」


「前から思っていたが、俺はお前に兄呼ばれる筋合いはない。もう二度と俺のことを兄と呼ぶな」


 クロノが懸命にリギルを呼び止めようとするが、リギルは足を止めることなく、中庭から去って行く。


 待機していた兵士はどうして良いか分からず、数秒ほど困惑したのち、王宮の中へと入っていった。


 中庭で1人佇むクロノはスッと瞼を閉じて、リギルが座っていたリクライニングチェアに背を向ける。


「クロノ様」


 誰もいないはずの背後に目を向けるクロノ。そこには兵士3人が跪いて、深々と頭を下げていた。


「畏まらなくていい。どうした?」


 クロノの許しを得た兵士3人は顔を上げ、頭を下げた理由を述べる。


「先ほどの兵士……我が友を助けていただき、ありがとうございます!」


「クロノ様の回復魔法がなければ、今頃この世に居座ることが出来なかったでしょう」


「人一倍優しいが故に、リギル様の逆鱗に触れてしまいましたが、何卒リギル様を責め立てるようなことは……」


 するとクロノは優しい笑みを浮べて、3人に目線を合わせる。


「気にする必要は無い。義兄様の暴君は今始まったことじゃない。だけど、お主らの友には申し訳ないことをした。義兄様の代わりに私が責任をとる」


 兵士3人は慌てて頭を下げ、額を地に付ける。


「めめ、滅相もない!! 寧ろ王家に対する進言。一兵士が発するなど本来は恐れ多いこと。こちらとしては命があるだけ有難いことです!!」


 あまりの必死さに思わず呆気にとられたクロノだったが、すぐに笑みを取り戻し、兵士3人にある提案をする。


「お主たちの気持ちは良く分かった。責任取りなど大人の真似事はやめておこう。だが、友大切にし、残虐な行為をした義兄様を守ろうとしたお主たちのことが気に入った。どうだ? 私の護衛として仕える気はないか?」


 兵士3人は顔を見合わせ、答えに戸惑う中、クロノはさらに口を開ける。


「安心しろ。義兄様には手出しはさせない。お主らが私を守るように、私もお主らを守る。もちろんお主らの友も引き入れるつもりだ」


 クロノの一言が心に響いたのか、兵士たちはコクリと頷き、クロノに使えることを決心する。


「ありがとう。これから頼むぞ」


『はい!』


「さあ立て。共に戻ろう」


 兵士3人を連れ、王宮内に戻ろうとするクロノだが、ある声によって足を止めることになる。


「クロノ様」


 クロノが振り向いた先には、セミロングの金髪にケモ耳が生えた女性が楽器ケースを片手に佇んでいた。


「人外種!?」


「どこから入ってきた?」


 兵士たちがクロノを守ろうと剣を抜き、女性に刃を向けるが、クロノが腕を横に伸ばして抑止する。


「待ってくれ。私の護衛をしてくれた1人だ」


 クロノは女性に歩み寄り、女性はクロノと視線を合わせるためしゃがみ込む。


「ソフィア。サラスはどうした?」


「熱発により先に帰路に立ちました」


「熱発? それだと演奏会は中止か?」


「いえ、演奏会は予定通り進行しました。会食に参加されていたミストレーヴ家のご令嬢がサラスの代わりにピアノを演奏してくれたお陰です」


 無表情を保つ女性の瞳を見つめるクロノは微笑を浮べる。


「どうかなさいましたか?」


「いや。久しぶりにソフィアの瞳が輝いているのを見て、つい……」


「……仰っている意味が分かりませんが、このやりとりも最後です」


 すると微笑を浮べていたクロノの表情が曇っていき、眉をハの字にして低いトーンで女性に尋ねる。


「……やはり、留まることは出来ないのか?」


「はい。音楽団は解散し、クロノ様の護衛契約も今日で終わりです。今日中に王宮から出て行きます」


「そうか……お主の意思を尊重し、これ以上引き留めはしない。だが、1つだけ約束してくれないか?」


「何でしょう?」


「落ち着く場所を見つけたら……またお主の演奏を聴きに行っても良いか?」


 女性はスッと瞼を閉じ、クロノに背を向けてゆっくりと歩み始める。そして、背を向けたままクロノに言葉を返す。


「ええ。いつでもお待ちしております。そして……収まる場所は既に決めております。後日、文を送らせていただきます」


 女性はクロノの元から去って行き、クロノは袖で目元を軽く拭う。


「決めてる……か」


 その時、女性の言葉をふと思い出したクロノは、ある人物に興味を持つ。


「ミストレーヴ家の令嬢……いつか会ってみたいものだな」

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