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ミーナと音楽団2

「ダメです!! まだ足取りがおぼつかないじゃないですか!!」


 扉が開いた向こうには熱発で倒れた女性ピアニストの姿があった。


「大丈夫です……心配は無用です」


 制止する給仕たちの手を払いのけ、女性ピアニストが私に歩み寄ってくる。


 私は目を細め、彼女が目の前まで辿り着くのを待つ。しかし、足に力が入らないのか、倒れ込みそうになる。その時、私の背後で跪いていたフルート奏者が彼女に駆け寄る。


「サラスッ!! 大丈夫?」


「ふぅ……大丈夫よ。ソフィア。それよりも、私をその人の前に……」


 フルート奏者が女性ピアニストに肩を貸し、やっとの思いで私の前まで辿り着く。


「恐れ入るわ。フラフラの状態なのに戻ってくるなんて」


 すると彼女は微笑を浮かべて私に言葉を返す。


「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが、お察しの通り、今の私はピアノを弾くことは出来ません。私の代わりに1曲演奏していただいたこと、感謝します」


「勘違いしないで。アンタの代わりに演奏したつもりはない。私はただピアノを弾きたかっただけ」


「それでも……ありがとうございます」


 笑みを浮かべたまま、私に感謝の言葉を贈る彼女から私は目を逸らす。


「別室から演奏を聴いていました。あなたのピアノの演奏は私とは比べものにならないほど他人を魅了し、現実を忘れさせるような演奏でした。私からもお願いです。どうか、私の代わりにあと数曲演奏していただけませんか?」


 はい出ました。やっぱり他の奴らと同じ事を口走ったわね。


「だ~か~ら~。それは出来ないし、私はもう帰りたいの! 自己管理も出来ていないヤツに頼まれてもやらないわよッ!」


「お嬢様」


 私が必死に断っている最中、ジークが私の横に立って母と国王に目を向ける。


「何よ!! 人が断っている最中に話しかけてこないでよッ!!」


「いえ、奥様と国王様がお呼びのようですが……」


「え? 私を?」


 私も母と国王に視線を向ける。視線の先には優しく笑みを浮かべた母と国王が、私に対して手招きしていた。2人の笑みを見て、直感的に嫌な感じがし、面倒だが仕方なく近づくことにした。


「何? 手招きなんかして」


「フフフ。まずは演奏お疲れ様。良い感じだったわよ」


「どーも」


「ヨハネスから詳細を聞いてね~。今日限りでアルカディア音楽団は解散するらしいのよ」


 母の一言で私は思わず目を丸くし、咄嗟に国王に目を向けた。


「色んな場所で演奏し、音楽で人々を勇気づけてきた音楽団だが、訳あって今日の演奏会で最後になるんだ」


 国王は仕方なさそうな表情を浮かべ、私は背後にいる音楽団に目を向ける。


 だからピアニストが倒れたときに悔しそうな表情を浮かべていたのか……でも。


「理由が聞きたい。これほどまでに団結力があって、音楽を愛している団体が解散するのは納得いかないわ」


「理由を話せば、再びピアノの前に座るの?」


 珍しく母が真剣な表情を浮べ、思わず体が震えてしまう。


「ミーナちゃん。1曲だけ気まぐれでピアノを弾いたかもしれないけど、音楽団の人たちは今日という日のために、血の滲むような努力を積み重ねてきて、あの場にいるの。あなたは演奏は完璧で最高だったけど、覚悟は他の人たちより劣るわ」


「ぐぅッ!」


「だけどね……」


 母はゆっくりと立ち上がり、私の頭を優しく撫でる。


「嬉しいわ。ミーナちゃんが自分から行動するなんて。ちょっと感動しちゃったわ」


 いつもは恥ずかしくて、撫でている手を払いのけるのだが、心なしか母の手が温かく、もう少し撫でてもらいたいと思った。


「あなたのお陰で演奏は続けられた。あなたも音楽団の人たちも、演奏しているときの顔は楽しそうに見えたわ」


 私はスカートの端をギュッと握って、視線を下に向ける。


「ミーナちゃん!!」


 シャフリが大声で私の名前を叫び、私はゆっくりとシャフリに視線を向ける。


「ピアノを弾いていたときのミーナちゃんは……とっても良い笑顔だったよ!」


「シャフリ……」


「もっと笑顔を見せて! もっと楽しんで! もっと自分に素直になって! もっと困った人を助けて! もっとピアノを弾いて! そして……もっと私に色んなミーナちゃんを見せて」


 言いたいことを全て出したシャフリは座り込み、私が演奏するだろうと言わんばかりに視線をステージに向ける。


 その時、横から紙が差し出されていることに気づき、私は視線を移動させる。


「ジーク……これは何?」


「演奏予定の楽譜です。指揮者の方からいただきました」


「どうして?」


「それは……今お嬢様が望まれたからです」


 私は無意識にジークから楽譜を受け取る。


「私も……お嬢様が楽しんでいる姿が見たいです」


 ジークは笑みを浮べ、その笑みにつられて私も表情を緩ませる。


 全く……そんな顔されたら気分が変わっちゃうじゃない。


 そして、私はピアノに向かって歩を進める。


「あら? 理由は聞かないの?」


 背を向けたまま、私は母に言葉を返す。


「聞かない。だって……私がピアノを弾きたいって思っちゃったから」


 再びピアノの前に座り、呆然としている音楽団に声をかける。


「何ボサッとしているのよ! 続行よ! 続行!」


 すると音楽団全員が笑みを浮べ、それぞれの楽器の調整を始める。


「あの……ありがとう……ございます」


 女性ピアニストが力を振り絞って、私に感謝の言葉を述べる。私は笑みを浮べて、優しい口調で言葉を返す。


「ちゃんと寝てなさい。それと感謝するのは私の方よ」


「え?」


「だって……アンタが倒れなかったら、ピアノが弾けなかったからね」


 すると女性ピアニストは笑みを浮べ、給仕たちによって退出させられた。


 ありがとう……そして、受け取ったわ。アンタの思い。

いつもご覧になっていただきありがとうございます!

伊澄ユウイチです。


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