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王宮での食事4

 他愛もない会話でワイワイと騒ぐ上座に対し、私とシャフリは黙々と料理を口に運んでいた。


「美味しいね。ミーナちゃん」


 満面の笑みを浮かべて私に声をかけてくるシャフリ。そんなシャフリに目を合わせることなく、私は料理を口に運ぶ。


「そうね……」


 私の薄い反応が気になったのか、シャフリは手を止める。


「どうしたの? ミーナちゃん?」


 私はナイフとフォークをハの字に置き、紙ナプキンで口の周りを拭う。


「食事中に会話をするのはマナー違反よ。それに、周りで盛り上がっているときに別の会話をするのは混乱を招くわ。今私たちがとるべき行動は静かに食事を済ませて、静かに待っていること」


 するとシャフリは露骨に嫌そうな表情を浮かべ、だだをこね始める。


「え~ッ!! 食事は誰かと会話しながらするものだよ~。会話無しなんて耐えられないし、楽しくないよ~」


 アンタの辞書にマナーって文字はないの?


「あとで話し相手になってあげるから我慢しなさい。私は静かに食事したいタイプなの」


「ぶ~……」


 頬を膨らませながらも、シャフリは私の意思を尊重し、食事を再開した。


 正直マナーとかはどうでも良いし、好きなように食事をすれば良いんだけど……気づいたのは私だけかな?


 私は霜降り肉を切り分け、フォークを突き刺して眺める。


 前菜、スープ、肉料理、オードブル、そしてメイン料理……全ての料理の味が濃すぎる気がする。


 正直、口に合わないし、完食する気にもならない。でも、ここは王宮。ワガママを言うわけにはいかない……どうすれば。


「お嬢様……お嬢様」


 テーブルの下から声が聞こえ、私はテーブルクロスを捲って下を覗く。


「ジ、ジーク!?」


 何故かテーブルの下にいたジークは鼻先に指を当てて、小声での会話を要求してきた。


「お口に合わないのでしょう?」


「なんで分かるのよ」


「対面からお嬢様の様子を伺わせていただきました。一口料理を食べたとき、お嬢様の顔が曇ったので、そうなのではないかと」


 ポーカーフェイスを保っていたつもりだったが、ジークは僅かな変化を見逃していなかった。


「正直……美味しくない。素材の味が全くしない。温かいけど、焼き方も甘い。とてもじゃないけど、具合が悪くなりそう」


「お嬢様は敏感ですからね。お気持ち察します。代わりに、同じ材料でお嬢様好みの味付けで作り直してきました」


「作り……え?」


 よく見るとジークの横には、私が今食べている料理と全く同じ料理が並んでいた。


「お料理をお渡ししますので、出ている皿をこちらにください」


 ジークは一品ずつ私に料理を手渡し、私は食べられない料理をジークに渡す。周りにバレないように慎重に入れ替え、全ての料理がジークの手料理に変わる。


「食事を中断させてしまい申し訳ございません。それでは続きをお楽しみください」


「あ、ちょっと」


 呼び止めようとしたが、既にジークの姿はなく、ため息をついて料理に目を向ける。


 見た目は完全に出ていた料理と一緒だけど……。


 恐る恐るスプーンでスープをすくい、固形物を噛むように味わう。舌が味を検知した瞬間、体に電流が走り、思わずスプーンを落としそうになった。


 う、美味すぎるッ!! とても同じ食材を使ってるとは思えないほど食べやすい! 食材の味も引き出しているし、臭み等は一切無い。


 他の料理にも手を出してみるが、やはりジークが作り直した料理の方が数倍美味しく、私の手と口は慌ただしくなった。


「ミーナちゃん……」


 シャフリが私に声をかけてくるが、私は構うことなく食べ続ける。しかし、あることがきっかけで私の手と口が止まる。


「むぐッ!?」


「あーあ。やっぱり詰まっちゃった」


 私の食道が詰まってしまい、私は懸命に胸を叩き続ける。


「大丈夫? 水飲んで」


 シャフリが私の前に水を置き、藁にもすがる思いで私は水を飲み干す。


「プハーッ。あー助かった。ありがとうシャフリ」


「急に食べ進めるからだよ。気をつけてね」


「はいはい」


 くだらないことで笑い合う私たちを余所に、給仕が1人1人に声をかけ始める。そして、私たちの近くにいた給仕も声をかけてくる。


「お嬢様方、お食事の途中失礼します。これよりアルカディア音楽団による演奏を行うのですが、よろしいでしょうか?」


「演奏?」


 シャフリが首を傾げ、給仕に言葉を返す。


「国王様は音楽が大好きで、お食事の最中はいつも音楽を聴いておられます。この度は皆様にも音楽の素晴らしさを知ってもらおうと、音楽団の方々を呼んでおります」


「すごいすごい!! ミーナちゃん!! 音楽団だって!!」


 はしゃぐシャフリに一瞬だけ目を向け、私は顎に手を当てる。


 食事が終わったら馬車に戻ろうと思っていたけど、演奏会が始まるなら話は別。国王とは気が合うわね。私も音楽は大好きよ。特に生演奏はね。


「私は構わないわ」


「私も大丈夫です! 是非聴きたいですッ!!」


「それでは他の方々の了承を得次第、音楽団の方々が広間に入ってきます。少し騒がしくなるかもしれませんが、ご了承ください」


 給仕は颯爽と下がっていき、他の給仕に私たちが了承したことを告げる。


 そして、国王が席を立ち、注目を集める。


「食事中失礼! これよりアルカディア音楽団による生演奏を行ってもらう。腹だけではなく、心も癒やしてもらいたい。是非楽しんでくれ! それでは、音楽団。入ってきてくれ」


 国王の声と共に、広間の入り口から奏者が続々と入ってきて、演奏用のスペースに整列し始める。


「あれ? 思ったより少ないね」


 人数の少なさに、思わずシャフリが声を出してしまう。指揮者合わせて12人という少人数に、私も一瞬首を傾げそうになったが、理由はすぐに察した。


 あくまでも食事をしながらの音楽。食事の妨げにならない程度の音量で演奏しなくてはならない。そうなると、人数が少なくなるのも納得できる。


「国王様。本日は会食での演奏を許可していただき、ありがとうございます」


 指揮者が深々と頭を下げ、国王は笑みを浮かべて、指揮者に言葉を返す。


「頭を上げてくれ。私が君たちの演奏を聴きたくて呼んだのだ。畏まらなくてもいい。それじゃあ、ファルトマン。よろしく頼む」


「はッ!!」


 ファルトマンと呼ばれる指揮者が指揮棒を奏者たちに向け、準備が完了しているかを確認する。


 その時、私はある奏者に目が行き、目を細める。

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