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安心したい

「むぅ……」


「お嬢様。お気持ちは察しますが、涙でファンデが落ちています。直しますので失礼させてもらいます」


「……ありがとう」


 馬車に揺られながら、ジークは私の化粧を直し始める。


「折角の会食なんですから、カリカリせず、楽しくしましょう」


「分かってるわよ……でも」


「理想を目指すあまり、焦ってしまうかもしれませんが、お嬢様はお嬢様。もっと自分に自信を持ってください」


 あっという間に化粧を直したジークは、私の向かいに座る。


「紅茶でも飲んで気持ちを落ち着かせてください」


 予め用意していた紅茶を私の前に置き、私は躊躇うことなく口をつける。


「それにしても、お嬢様は他人の身だしなみをチェックするのが鋭いですね」


「まあね。昔からだらしないのを見ると口が出ちゃって……短所だよね」


「言葉の選び方がイマイチなだけで、立派なことだと思います」


 褒められた私はジークから視線を逸らし、紅茶を一口飲む。


「話は変わりますが、お嬢様。これを」


「え?」


 私はジークがテーブルの上に置いた物を手に取り、マジマジと見つめる。


「これは……髪飾り?」


 ルビーのような輝きを放つバラの髪飾りに目を奪われている私に、ジークは言葉を添える。


「先日給与が出まして、いつもお嬢様にはお世話になっていますので、お礼と言いますか、プレゼントと言うことで……」


 ジークの言葉が耳に入った私は、そっと髪飾りをテーブルに置いて、ジークに言葉を返す。


「逆よ。お世話になっているのは私の方よ。ジークが来てから楽しいことがいっぱいあったし、興味が沸いたこともあったわ。ちょっとだけど、あの2人を親として見られるようになったし……本当なら、私がアンタに……」


 その後の言葉を述べようとしたが、ジークは私の前に人差し指を差し出して遮る。


「そう言って貰えると仕え甲斐があります。ですが、私は従者。お嬢様のためなら何だってする覚悟です。気を使う必要はありません」


「……そうね。気を使う必要は無いわね」


 再び髪飾りを手に取って、私は笑みを浮かべる。


「大事に使わせてもらうわ。ジーク」


 ジークは満面の笑みを浮かべ、私はジークに髪飾りを手渡す。


 ジークは慣れた手つきで私の銀髪に触れ、振り落ちないように髪飾りをしっかりつけてくれた。


「どう……かな?」


「思った通りです。似合ってますよ」


 鏡で自分の姿を確認し、私は無意識にジークに抱きつく。


「お、お嬢様!?」


「ジッとしなさい。いつも私を嵌める罰よ。しばらくこのままでいさせなさい」


 それに……ジークに触れていると安心する。


 するとジークは優しく私の頭を撫で、一緒に椅子に座る。


「髪飾り。気に入っていただけて、何よりです」


 正直な話、髪飾りがメチャクチャ可愛いわけでもないし、自ら進んで購入するかと聞かれたら恐らく購入しないと言うだろう。だけど、ジークが私のためにと……そう思うとすごく嬉しい。


 自分の中ではずっと否定し続けていたけど……私はジークのことが好きなのかもしれない。


 ジークは私のこと好きなのかな? 好きなはず……間違いない。そうじゃなくても、私だけしか見えなくしてやるんだから!


「覚悟しなさい!!」


 突然の言葉にジークは呆け、首を傾げて言葉を返す。


「……何をです?」




 ◇◇◇




 小一時間ほど揺られ、馬車は予定通り王宮の前に到着する。


 到着したのを確認したジークは、素速く出口に立ち、ゆっくりと扉を開ける。


「お嬢様、到着しました。足下にお気をつけください」


「ありがとう」


 毅然とした態度で馬車を降りる私だが、内心怯えまくっていた。


 ついに来ちゃった……どうしよう。他人の目線が怖すぎる……馬車の中に戻りたい。


「奥様たちの馬車は既に到着されているようです。恐らく中で待たれています」


「そう。それじゃあ、私たちも行くわよ」


「はい」


 王宮へと足を踏み出そうとするが、中々前に出すことが出来ない。それどころか、足や手は震え始め、呼吸もしづらくなり始めた。


「お嬢様?」


「だ、大丈夫……」


 呼吸を整えようとするが、上手く落ち着けられない。


 やっぱり私に外出は早すぎたし、王宮での会食なんて、ハードルが高すぎた……。


 その場にしゃがみ込もうとしたその時。


「相変わらずお前はおっちょこちょいで、慌て者だな!! もう少し余裕をもたんかッ!! 約束の時間が迫っているのだぞ!!」


「そう言うお父さんだって私を急かしすぎだよッ!! 急かさなかったら慌てないよッ!!」


 聞き覚えのある声に反応した私は顔を上げ、声が聞こえた方向に目を向ける。


 すると、そこには頬を膨らませているシャフリと、屈強で白髪頭の男性の姿があった。そして、2人が王宮の中に入ろうとした瞬間、私は思わず大声を出してしまう。


「しゃ、シャフリ!?」


 私の声が聞こえたのか、シャフリは周囲を見渡し、私を見つけた瞬間、手を振って近づいてくる。


「ミーナちゃん!! やっぱり私が選んだ服を着てくれたんだね!!」


 能天気なことを言っているシャフリに対して、私は率直な思いをぶつける。


「何でアンタがここに居るの? そして何で中に入ろうとしていたの?」


 シャフリは「エヘヘ」と笑みを溢し、ポーチから1通の手紙を取り出す。


「実は、私とお父さんも会食に招待されていたの」


 その言葉を聞いた瞬間、私は目を丸くし、シャフリに寄りかかろうとする。


「え? あ、ミーナちゃん?」


 シャフリは私を受け止め、状況が飲み込めないのか、困惑した表情を浮かべる。


 良かった……知り合いがいると安心する。

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