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ヒビキ・コーラミア2

 雨は止み、日が昇り始めた頃、ヒビキとジークは洞窟から出て、草原を歩いていた。


「……お姉さん。どこに行くんですか?」


「取り敢えず、近くの街でお前の服と日用品を買う」


「服……ですか」


 ヒビキは並んで歩いているジークに少し視線を向け、腰に携えていた酒瓶に口をつける。


「そんな身なりじゃ、どこに行っても煙たがられるぞ。第一印象が人との友好関係を左右すると言っても過言じゃない」


「でも……お姉さんに迷惑じゃ」


「そのお姉さんって言うのはやめろ。気持ちは嬉しいが、これから一緒に旅をする仲だ。ヒビキと呼べ。私もお前のことはジークって呼ぶから」


 ジークは少し戸惑い、恥ずかしそうにヒビキの名前を呼ぶ。


「ひ……ヒビキお姉さん」


「……まあ、良いか。慣れるまで我慢してやるよ」


 ジークは再び酒瓶に口をつけるヒビキをジッと見つめる。視線に気づいたヒビキは目を細めて、酒瓶から口を離す。


「何だよ」


「お酒って……そんなに美味しいんですか?」


「急に何を言い出すんだよ」


「少し歩いては飲んでるのを見て、興味が沸いちゃって……」


 するとヒビキはジークの額に、軽くデコピンをする。


「イタッ!!」


「興味を持つことは良いことだが、酒を飲みたいだなんて考えてないだろうな?」


「ギクッ!?」


「そんなことだろうと思った。確かに私からしたら酒はこの世の中で1番美味い飲み物だと思う。だがな、これは子供のお前が飲んだら気持ち悪くなる飲み物なんだ。下手すりゃ息が出来なくなるかもしれない」


 ヒビキの言うことを想像してしまったジークは顔を青ざめさせ、酒が自分にとっては危険なものだと思い込む。


「……プッ! アッハッハッハ!!」


 突然笑い出すヒビキに驚いたジークは、思わず足を止めてしまう。足を止めたジークの頭をガシガシと撫でたヒビキは、ジークにあるものを手渡す。


「ほらよ」


「何ですか……これは」


 ジークは手渡された筒状の物を見つめて、ヒビキに説明を求める。


「そいつは水筒って言うんだ。中に水が入っている」


「お水が?」


「そうだ。酒は飲ますことは出来ないが、水ならどんだけでも飲ませてやる。中身がなくなったらちゃんと言えよ。遠慮なんかしたらケツ叩くからな」


「あ……はい」


 ジークは勿体なさそうにチビチビと水を飲む。その様子を見たヒビキは口角を少し上げて、笑みを浮かべる。




 数十分ほど歩いた末、2人は人が行き交っている街の入り口に辿り着き、ジークは街の至る所に目を向ける。


「ここが……街」


「そうさ。これが街だ」


 見たことない光景に思わず呆けてしまうジーク。そして、とある場所に目線を向け、ある光景を目の当たりにしたジークはヒビキに尋ねる。


「あの女性の人が物を貰った代わりに渡したのは何?」


「あれはお金だ。食べ物や服を買うときに必要になる物だ」


「お金……」


「物が欲しい人は商人にお金を払って物を貰う。商人はお客の欲しいものを想定し、事前に準備する。商品がなくなれば、別のところから商品を仕入れ、お金を払う。人や人外種が生きていく上で発生するサイクルだ。よく覚えておけ」


「でも……僕はお金なんか」


「子供がそんなこと気にするな。ほら、手を出しな」


「手?」


 いきなり手を出せというヒビキの言葉に、ジークは首を傾げる。


「また1人になりたいのか? 私と一緒に居たいなら手を出せ」


 一人ぼっちを想像したジークは、即座に手を出し、ヒビキはその手を優しく握った。初めて他人に手を握られたジークは少し戸惑いながらも、ヒビキの手を握り返す。


「これでよしっと。私の手をしっかり握ってろよ」


 ジークはヒビキに引かれながら、賑わっている街の中に入っていく。


 1時間ほど買い物し続けた2人は、とある飲食店の中に入り、体を休める。


「はぁ~、たくさん買った~。どうだ? 自分専用の服や食器は?」


「……しいです」


「聞こえない。もう少し声を張れ」


「う、嬉しいです……自分専用の服や食器なんか持ってなかったから嬉しいです」


 嬉しそうな表情を浮かべるジークを見て、ヒビキも嬉しそうな表情を浮かべる。


「そうか! そりゃあ良かった! 大事に使えよ?」


 その時、ジークの目から涙が溢れた。


「お、おい! 大丈夫か?」


「ご、ごめん……なさい。なんか……目が熱くなってしまって」


 ヒビキはジークの心境を察して、優しい口調で頭を撫でながら声をかける。


「服や食器よりも自分を大事にしろ。自分でどうにか出来ないときは他人を頼れ。今のお前には他人を信用する気持ちが必要だ。ゆっくりで良い。今までが不運だったんなら、これからは幸せを感じて生きていけば良い。難しいことを言っても分からないかもしれないが、今は泣きたいだけ泣け」


 ジークは声こそ出さなかったが、大量の涙を流し、ヒビキに撫でられ続けた。




 ◇◇◇




 王宮の食品倉庫で身を隠しながら、ジークの過去話を聞いていたカーリーは、ジークに話の続きを促す。しかし、ジークはそれ以上頑なに話そうとしなかった。


「どうして話すのやめちゃうの? これから面白そうだったのに!」


「声が少し大きいです。魔法で第三者から見えないようにしているとは言え、声まで消すことは出来ないんですから」


 声量を指摘されたカーリーは、仕方なく声量を落とす。


「最後まで話しなさいよ。アンタの親代わりの人と、ヨハネス・アルカディア様の関係も謎のままだし」


「知らない方が良い事もありますよ。今話せるのはここまでです。続きは機会があれば、お話します。それに、王宮の下見途中です。ダラダラとしているわけにはいきません。さっさと終わらせて、屋敷に帰りますよ」


 もっともなことを言われたカーリーは納得しがたい表情を浮かべるが、ため息をついて過去話を聞き出すのを諦める。


「分かったわ。ただし、今度は最後まで教えなさいよ」


 ジークはクスクスと笑って、了承することなく、カーリーに背を向ける。


「さあ、次に行きますよ」


「あ、ちょっと! 濁さないでよ!」


 その後、侵入できなかった国王執務室と寝室以外を調査した2人は、痕跡を残すことなく、王宮の敷地から抜け出した。

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