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暗躍の従者2

 カーリーが入手した情報を頭の隅に入れたジークは、何も聞くことなく、王宮に視線を向ける。


「奥様や旦那様には話したけど、このことは他言無用でね」


「……分かりました。それではメイド長。王宮にお邪魔しましょうか」


「ちょっと待ちなさい」


 カーリーはジークの腕を掴み、歩を止めさせる。


「どうかしましたか?」


「……アンタ、丸腰のまま行くつもりなの? せめて短剣の1つくらい持って行ったらどうなの?」


 するとジークはニッコリと笑みを浮かべて、カーリーに言葉を返す。


「自分に武器は必要ありません」


「もし兵士たちに見つかったら、素手で戦うつもりなの?」


「そうです。自分の体が何よりの武器です」


 ジークはカーリーの手を振り払い、足早に王宮へと駆けていった。


 カーリーはため息をつき、呆れた表情を浮かべながら後を追った。




 ◇◇◇




 事前に警備が手薄な場所を調べていたジークは、自分の思った通りに潜入することが出来、近くの物陰に息を潜める。


 そして、数秒遅れでカーリーが合流し、お互いに周囲を警戒し、小声で話し始める。


「……流石は王宮。平穏な日々が続いているというのに、武装した兵士がウロウロしていますね」


「中央大陸最大の国で、最強の国よ。このくらい当然よ」


「最強……ですか。他の国を攻めれば土地が増えるはずなのに、何故動かないんですか?」


「この王宮が建っている場所自体は奥様が所有している土地だから、昔から国王一族は奥様に頭が上がらないのよ。そして、王宮を建てる際に、奥様はある条件を出したのよ」


「条件?」


「争い事を好まない奥様は、他の国を攻めることを禁じたのよ。他の国にも自分の土地があるから、踏み入られたくなかったんでしょう」


 すると、ジークは顎に手を当てて、何かを考え始める。


「どうしたの?」


「……いえ。自分はまだミストレーヴ家に仕えて日が浅いので分からないのですが、奥様は一体何者なんでしょうか?」


 カーリーは眉をハの字にして、仕方なくジークに説明する。


「中央大陸の不動産屋とでも言っておけば理解できる?」


 適当な説明に苦笑いを浮かべるジークは、視線を周囲に向ける。


「理解は出来ていませんが、追々ちゃんと説明してもらいます。では、内部に侵入しましょうか」


「見つからないようにね……って余計な心配だったかしら?」


 ジークは笑みを浮かべ、カーリーと共に周りの人間から見えなくなる魔法を使い、王宮内部に侵入した。




 ◇◇◇




 サロミアは睨みつけるような目つきで、自分の作業デスクの一点を見ていた。


「……サロミアちゃん。顔怖いよ」


 サロミアの表情を見て、エディックは恐る恐る声をかける。


「え? そんなに怖い顔していた?」


「僕と初めて会ったときの顔していたよ」


「優しい顔の間違いじゃない?」


 エディックは全力で首を横に振り、その反応を見たサロミアは自然と笑みを浮かべた。


「フフフ。そんなに首振らなくても良いじゃない」


「全力で否定させてもらうよ。あの時はお互いに殺気がダダ漏れだったからね」


 エディックの全力否定に再び笑みを溢すサロミアだったが、すぐに表情が変わる。


「……カーリーメイド長の話を聞いてから、おかしいよ」


「……自分でも分かっている。だけど、あの報告を聞いてしまった以上、気持ちを落ち着かせるのは難しくて……」


 すると、エディックはサロミアの手を優しく包み込み、サロミアの気持ちにより添う。


「相変わらず君は優しすぎる。自分の事じゃないのに、そこまで感情を移入してしまうのは長所でもあり、短所でもある。頼りないかもしれないけど、不安になった時は僕に頼って欲しいな」


 サロミアは少し頬を染めて、エディックから視線を逸らす。


「……頼りないと思うなら、もう少ししっかりしてよね」


「手厳しいね」


 エディックは苦笑いを浮かべ、サロミアから離れる。


「少しミーナの様子を見てくる。その間に、気持ちの整理をつけてくれ」


 サロミアはコクリコクリと頷き、エディックは部屋を後にした。


 そして、1人になったサロミアの目から一滴の涙が溢れた。


(手紙が来た時に察すれば良かったわ……アルカディア国王)


 勢いよく立ち上がったサロミアは、遠くに小さく見える王宮を見て、拳を作る。


「……懐かしいわね。みんなで語ったあの日を思い出すわ。918年生きてきた中で、1番楽しかったわよ」




 ◇◇◇




 王宮内部に侵入し、食料庫に身を隠しているジークとカーリーは、食材の保存状態を確認していた。


 確認作業中、2人に会話はなかったが、真剣に食材を見つめているジークに、カーリーは数分前の疑問をぶつける。


「……ねえ、私の調査結果を聞いて、アンタはどう思ったの?」


「突然どうしたんですか?」


 カーリーはツカツカとジークに詰め寄り、思いを聞こうとする。


「どうなの?」


 ジークは手に取っていた食材を元に戻し、少し落ち込んだ表情を浮かべて、言葉を口にする。


「アルカディア国王……57という歳で余命宣告を受けてしまうとは……非情に残念な気持ちでいっぱいです。恩人の1人ですし、あの人の友でしたからね」


「あの人?」


 ジークはスッと目を閉じて、ある人物の名前を口にする。


「ヒビキ・コーラミア。鬼神と言われた女軍人で、自分の育て親。そして、現アルカディア国王のヨハネス・アルカディアは、彼女が信頼していた友の1人です」

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