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イチゴは何処の?

「ねぇ……お願いだから少し遊ぼうよ~」


 私は真剣な眼差しで魔道書を見ているシャフリに、猫なで声で懇願する。


「ダメだよ。まだ勉強し始めて1時間しか経ってないじゃない」


 厳しい口調でシャフリは私の提案を拒否する。


 勉強熱心且つ真面目なシャフリは、私みたいに遊び欲が沸かないらしい。


「そんなこと言わないでさ~。遊びがダメならお茶にしようよ~」


「……ミーナちゃん」


 シャフリは魔道書を静かに閉じ、かけている眼鏡を外して、私を見つめてくる。


「魔法の基礎も出来ていないのに、休憩をせがむのは間違っているよ。初級の魔法が素速く唱えられたら休憩にするよ」


「す、素速くッ!?」


 私が魔法苦手なのを知っていて言っているの!? 休憩させる気ゼロじゃん!!


「絶対無理だよ~」


「また無理って言う。ミーナちゃんはやれば出来るんだから、もう少し頑張ろうよ」


「シャフリの意地悪ッ!!」


「文句は自分のお母さんに言ってよ。私は厳しくしても良いから魔法を使えるようにしてって頼まれているだけだから」


 あのクソババァ!! 何が厳しくだ!! 子供は厳しくすると、やる気失せるのよ!!


 私が心の中でブチ切れている最中に、部屋の扉がノックされる。


「誰よ!!」


「私です。ジークです。お嬢様」


「入りなさい」


 ジークはワゴンを押しながら部屋の中に入ってくる。私はワゴンを見て、少し笑みを浮かべてしまう。


 あのワゴンは……間違いない。私が待っていた紅茶セット!! 流石ジークね。私が欲していたときに持ってくるなんて。


「ジークさん。折角なんですが、まだミーナちゃんは及第点まで達してません。お茶は控えてくれますか?」


 余計なことを言うな!! シャフリ!!


「存じております。シャフリ様。ですが、急激に脳や体を動かすのは良くありません。適度な休憩も必要ですよ」


 ナイスジーク!! シャフリを上手く丸め込んだ!!


「ジークさんはミーナちゃんに甘いですよ」


「自分は甘くしているつもりはございません。お嬢様の成長のために行動しているだけです」


 シャフリは呆れた表情を浮かべて、椅子の背もたれに背を委ねる。


「はぁ……ミーナちゃん。折角用意してもらったし、休憩しましょうか」


「やったぁ!!」


「ただし!! 20分だけだよ!!」


 20分でも10分でも休憩できるのは嬉しい!!


「分かったわ」


 私の了承の言葉を聞いたジークは、素速く紅茶の用意を始め、私とシャフリの前にお菓子を置く。


「今日のお菓子は何かしら?」


「今日はイチゴタルトでございます。甘さの中に少し酸味もあって、紅茶に合うかどうかは不安ですが……」


 構うもんか。いただきまーす。


 私はフォークでイチゴタルトを一口サイズにし、形が崩れない間に口に入れる。


「ん? んん?」


「如何ですか?」


「全然合うじゃない!! 早く紅茶を出しなさい!!」


「御意!」


 シャフリはイチゴタルトを見て、ジークにある質問をした。


「このイチゴタルトのイチゴは何処で手に入れたんですか?」


 するとジークは嬉しそうな表情を浮かべ、私とシャフリの前に紅茶を置く。


「気になりますか?」


 シャフリは無言で頷き、私は紅茶の香を楽しみながら、2人の会話を聞く。


「ここの中庭ですよ」


『中庭?』


 私とシャフリは声を重ね、目を丸くする。


「イチゴは繊細で温度1つ変えてしまうと渋くなったり、腐ってしまいます。ある程度の設備が必要なのに、ここの中庭で作ったって言うのは……」


「シャフリ様の言うとおりです。イチゴを育てるのは他の果物や野菜よりも難しいです。ですが、ここの中庭の土がイチゴを作るのに適している土だったのです」


「へぇ……」


 何気なしにイチゴタルトを頬張る私は、中庭の土が良質なものだったと今気づく。


「設備も簡易的なものではありますが、小さなビニールハウスで育てていました」


「でも、アンタが育てたわけじゃないんでしょ? 誰が育てたの?」


 私は率直な疑問をジークにぶつける。


「奥様ですよ」


「はぁ!?」


 私は自分の耳を疑い、ジークにもう一度尋ねる。しかし、返答が変わることなく、母が作ったイチゴという事実を突きつけられた私は、フリーズする。


「お嬢様? お嬢様~」


「固まっちゃった……」


 絶対嘘。あのババァが美味いイチゴを作れるはずがない!!


「ショックを受けているみたいですね。しばらくソッとしておきましょうか」


「そうですね」


 ジークとシャフリは私を無視して、話を続ける。


「でも、意外ですね。ミーナちゃんのお母さんがイチゴを育てていたなんて……」


「奥様は果物が好きで、生産している隣国から直接購入していたのですが、国同士の仲が険悪になり、値上がりしたのをきっかけに、自分で育て始めたそうです」


「それにしても農家の人、顔負けレベルの美味しさですよ……」


 シャフリは苦笑いを浮かべて、イチゴタルトの感想を述べる。


「そう言って貰えると、作った奥様も喜ばれるでしょう。さて、私は次の仕事がありますので、この辺で」


「お皿やカップはワゴンに乗せておきますね」


「ありがとうございます。それでは、失礼します」


 ジークは颯爽と部屋を出て行き、シャフリは笑みを浮かべて見送る。


「さて、ミーナちゃん。いつまで現実逃避しているの?」


 一生。


「帰ってこないなら、私がタルトもらっちゃうよ~」


「それだけはダメェ!!」

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