2人は笑い合う
サロミアとバルディゴは、ミーナとシャフリの様子を見るため、ミーナの部屋の前まで足を運んでいた。
「バルディゴ。様子を見るのは許可したけど、あの子は本当に繊細だから、中に入るのは遠慮してもらいたいのだけど……」
「分かっています。見るだけです」
(エディック……言ったこと嘘だったら承知しないんだから)
サロミアは恐る恐る部屋の扉を少し開け、バルディゴに中の様子を見させる。
(お願いッ! シャフリちゃん居て頂戴!!)
「ほぉ……」
中の様子を見たバルディゴは、顎に手を当て、感心している様子だった。サロミアも中の様子が気になり、バルディゴの顔の下から様子を見る。
◇◇◇
「ミーナちゃん。もう一度やってみて」
「分かったわ」
私はシャフリの説明の元、上級魔法の練習を繰り返し行っていた。
「そう……焦らないで。ゆっくりで良いから」
私の掌に小さな青い球体が現れ、徐々に密度が大きくなっていく。球体の大きさを保つために、私は全集中し、球体から目を離さなかった。
「……もう少し」
自分の魔力が暴走しないよう注意を払い、近くに居たジークに目を向ける。
「今だよッ!! ミーナちゃん!!」
「じぃぃぃぃくぅぅぅぅ!!」
「準備万端です! お嬢様!!」
「上級水魔法・アクアトルネードッ!!」
青い球体が水の渦に変わり、ジークが持っている大きなバケツに向かって飛んでいく。最初は小さかった渦が、徐々に大きくなり、ジークを飲み込むほど大きな渦となった。
「成功だよッ!! ミーナちゃん!!」
「お見事です!! お嬢様!!」
ジークは冷静にバケツを上から下に振ると、一瞬にして水の渦は消え、バケツの中に収まってしまった。
「おっと……危うくカーペットに溢すところでした」
バケツがいっぱいになるほどの水を生成した私は、疲労で動けなくなり、机に顔を伏せる。
「あー……疲れる。シャフリは上級魔法を唱えてもケロッとしているし」
「慣れだよ。ミーナちゃん。疲労が一気に蓄積されるって事は、まだ何か効率化できていないって事だよ。何度でも教えるから、頑張ろうッ!!」
「……はぁ。しっかり頼むわよ。先生」
シャフリはニッコリと笑みを浮かべ、私もつられて微笑んでしまう。
「一先ず成功したということで、ここでお茶にしましょうか」
ジークが拍手をしながら、私たちに近づき、ティータイムを提案してくる。
「良いわね~。シャフリ。ジークの紅茶は、その辺の紅茶とは比べものにならないくらい、美味しいわよ」
すると、シャフリは目を輝かせて、ジークが用意する紅茶に期待する。
「そう言われるとプレッシャーが掛かりますが、シャフリ様のお口に合えば、嬉しいです」
ジークは2つのティーカップに紅茶を注ぎ、私とシャフリの前に置く。シャフリは、紅茶に対して軽く頭を下げて、「いただきます」と呟く。
「……ん? んんッ!?」
一口飲んだ瞬間、シャフリの語彙力が急激に落ち込み、興奮した状態で、紅茶とジークを交互に見る。
「え? 何これ!? 本当に!? 美味しいんですけどッ!! どういうこと!?」
この反応、なんか分かる。
「気に入っていただけましたか?」
シャフリは何度も首を縦に振り、ティーカップに残っている紅茶を飲み干す。
「ぷはぁ……ジークさん。とても美味しい紅茶、ご馳走様です!!」
「そう言って貰えると嬉しいです」
「どう? シャフリ。病みつきになりそうでしょ?」
「なるなる!! ならない人の味覚を疑うよ!!」
シャフリと私は笑い合い、私たちを見守っていたジークも微笑む。
ああ。他人と居るのも悪くないわね。何だか、モヤモヤしていた気持ちが晴れていく。
勇気出して、良かった。
◇◇◇
「良い笑顔で笑ってますな~」
ドアの隙間から覗き見ていたサロミアとバルディゴはニッコリと笑みを浮かべて、静かにドアを閉める。
「ミーナちゃんが、あんなに笑うなんて……久しぶりに見た気がする」
「ウチのシャフリもです。あの子は私に心配させまいと、作り笑顔を浮かべていましたが、心の底から笑っている顔を見たのは久しぶりです。サロミア殿。良いものを見させていただき、ありがとうございます」
サロミアは静かに首を横に振り、バルディゴに言葉を返す。
「いいえ。私にお礼の言葉を述べるのは間違ってるわよ」
「と、言いますと?」
「ミストレーヴ家の最高にして完璧の執事。ジーク・アルヴェルドが居たからこそ、あの子たちが笑ってくれたんです。お礼を言うなら、彼に言うべきよ」
バルディゴは再び顎に手を当て、興味深そうな表情を浮かべる。
「ほう……さっきの青年か。サロミア殿が惚れ込むほどの従者とは……一体何者ですか?」
サロミアはバルディゴに、ジークの過去を明かすか、明かすまいか悩んだ末、ヒントだけ口にした。
「友が拾った人間の子供よ」
「友……と言いますと?」
「フフフ。これ以上の詮索は、あなたの亡き妻も許さない事よ」
妻というワードが出た瞬間、バルディゴは仕方なさそうな表情を浮かべ、詮索を諦める。
「妻の知り合いでもあるのですか……なら、やめておきましょう」
「賢明な判断ね。謎は謎のままが、良いことだってあるのよ」
「……肝に銘じておきます」
その後、2人は背を向けて、それぞれが戻るべき場所へと向かっていった。
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