向き合い始めて
大浴場から自室に戻った私は、パジャマに着替え、ベッドの上で濡れた髪をタオルで拭く。
その時、入り口の扉がノックされ、私は言葉を返すことなく、視線を向ける。
「お嬢様。ジークです」
「入りなさい」
「お風呂上がりのお手入れと、飲み物をお持ちしました」
「そう……ありがと」
私は手を止め、ジークに背を向けて髪を差し出す。慣れた手際で手入れを始めるジークは、優しく私の髪に触れる。
「……お母さんから聞いたよ」
「何をお聞きになったのですか?」
「アンタのお陰で、両親は私と向き合う機会が出来たって言ってたわ」
「そうですか」
私はキュッとパジャマの上着を握り、思いを口にする。
「……ありがとう。お陰で、私も両親に向き合うことが出来たわ」
「お礼には及びませんよ。寧ろ、一執事が出過ぎたことをしてしまい、申し訳ございません」
「……アンタって本当、不思議ね」
「何か仰いましたか?」
囁くような私の声はジークには届いておらず、その後はお互いに話すことなく時間は流れ、私の髪の手入れを終えたジークは、手入れ道具を片付けた後に、私に飲み物を渡す。
「冷たい飲み物でございます。今夜はアイスレモンティーです」
手渡されたグラスを見つめながら、私はジークに言葉を返す。
「知ってる? 私、紅茶に入れるレモンは大丈夫だけど、レモン単体の飲み物は苦手なの」
ジークは笑みを浮かべて、私に言葉を返す。
「メイド長から聞いております。ですが、そのレモンティーは普通のレモンティーとは違います。騙されたと思って飲んでみてください」
恐る恐るグラスに視線を戻し、私は覚悟を決めて一口飲む。
「ん!?」
「如何ですか?」
「スッキリしてる!! 酸っぱくもないし、甘すぎない! 冷えているから喉越しも良い! 昔飲んだものとは比べものにならないくらい美味しい!!」
思ったことを全部口にし、レモンティーに対して笑みを浮かべている私を見て、ジークは微笑む。
「気に入っていただけて、何よりです」
再びグラスに口を付け、レモンティーを半分ほど飲み干した私は、フーッと一息つく。そして、ジークの方に目線を向け、口を開ける。
「つい数日前はアンタを追い出してやろうと思っていたけど、今となってはアンタ無しじゃ、私は何も出来ないわね」
「そんなことはありませんよ。お嬢様は、お嬢様に出来ることをすれば良いだけです。ジークはそのお手伝いをすることしか出来ません」
ジークが言葉を言いきる前に、私はジークの腕に抱きつく。
「今日も行くわよ。見晴台に。さっさと準備しなさい」
「はい!」
ジークは笑みを浮かべて、私と一緒に部屋を後にする。
◇◇◇
「ふぅ……良いお湯だった~」
自室に戻って、お風呂の感想を述べているサロミアを、エディックは涙目で見つめていた。
「サロミアちゃん~。僕が悪かったから許してよ~」
エディックのデスクの前には大量の書類が散らばっており、サロミアは笑みを浮かべて、エディックに言葉を返す。
「あらあら~。自分の仕事は自分で終わらせるものでしょ? 第一、30分だけって言っていたのに1時間以上もサボっていたあなたが悪いんでしょ? 自業自得よ」
「それは……そうだけど……」
気落ちしているエディックは、書類に視線を落とし、渋々作業を再開する。すると、サロミアはエディックの背後から優しく抱きつき、耳元で囁き始める。
「じょ・う・だ・ん。あなたの困っている顔が可愛すぎて、つい意地悪しちゃった」
「冗談がきついよ~。サロミアちゃん」
「でも、あなたが頑張ってくれたお陰で、またミーナちゃんと遊べる時間が取れたわ。ありがと。あなた」
「サロミアちゃん……」
「あなた……」
2人の唇が重なろうとしたその時、入り口の扉がノックされ、サロミアは一瞬でエディックから離れる。
「誰?」
サロミアが扉の向こうにいる人物に話しかける。
「夜遅くに失礼します。カーリーです」
「カーリーちゃん? 入って」
「失礼します」
部屋に入ってきたカーリーはサロミアとエディックを交互に見て、あるものを差し出す。
「先ほどポストに入っていた手紙です」
「手紙? 誰からかしら?」
サロミアは手紙を開封し、文章を目で追う。
「……なるほどね」
「差出人はどなたですか?」
カーリーが率直に尋ねる。サロミアは少し笑みを浮かべて、エディックとカーリーに手紙を見せる。
「2人とも……2週間後、王宮に行くわよ」
『王宮!?』
2人は声を重ね、マジマジと文章を黙読する。
「日頃の感謝を込めて、ミストレーヴ家と王族で会食したいだって」
「会食……かぁ」
「私が同行しても宜しいのですか?」
サロミアは不安がるカーリーにウインクし、言葉を返す。
「勿論よ! 私たちのボディーガードとして付いてきてもらうわよ」
カーリーは明るい笑みを浮かべ、完全に上の空になる中、サロミアとエディックはある問題に悩んでいた。
(ヤバい……ミーナちゃん絶対嫌がる)
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