ミーナとお風呂1
鼻歌を奏でながら、私は部屋でお風呂に行く準備を行っていた。
「おっふろ。おっふろ。楽しいおっふろ!」
毎日の楽しみである、食事とお風呂。
特にお風呂は1人になれて、気持ちが落ち着く。それに、少なからず汚れがついている自分の体を綺麗にするのは楽しい。
今日は少しだけど、汗も掻いちゃったし、砂のところに座っちゃったし、綺麗にしなくちゃ。
すると、部屋の扉がノックされ、私は扉の向こうにいる人物の入室を許可する。
「どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのはジークだった。
「お嬢様。お待たせしました。お風呂のご用意が出来ました」
待ちに待ったお風呂の用意が出来たことを聞いた私は、用意していた物を抱きかかえ、ジークに言葉を返す。
「分かったわ。それじゃあ、私はお風呂に入ってくるから」
「分かりました。お背中を流す際は、呼んでくださいね」
絶対呼ぶもんか。何しれっと変態発言してんだコイツは。
「良い? 絶対入ってこないでよ。入ってきたら八つ裂きにするから」
すると、ジークは頭上に疑問符を浮かべ、首を傾げる。
「お背中、全部洗えるのですか?」
こんな時に天然発動するんじゃない! 絶対、私の肌なんか見せてやるもんですか!
「良いからッ! 絶対入らないでよね!」
「……かしこまりました」
なんで納得してない顔するんだよ。
頭を下げているジークに構うことなく、部屋から出て行き、浴場へと向かった。
◇◇◇
「ふぃ~……気持ちいいぃぃ」
私は浴槽に浸かり、体の芯まで温まろうとする。
「おっと、入浴剤。入浴剤っと」
粉状の入浴剤を大量に入れ、気分までリラックスしようとする。
……この匂いはラズベリーか。ジークが用意した入浴剤だけど、悪くはないね。人によっては嫌がるかもしれないけど、私はラズベリーの匂いは嫌いじゃないわ。
「やっぱりお風呂は最高!!」
……だけど。
十数人ほど入れる大浴場で、私1人だけ。水面に落ちる水滴音が浴場全体に響き渡る。
……何でだろう。今まで寂しいとか思ったことないのに……今日ばっかりは少し……寂しいなぁ。
ため息をつき、湯煙によって薄らとしか見えない天井を見つめる。
「……フン!」
浴槽のお湯で顔を洗う。そして、寂しいと思っていた気持ちを流そうとする。しかし、気持ちはそう簡単に流れなかった。
その時、浴場の入り口に人影らしき物が動き、思わず身構えてしまう。
「……え?」
誰だ……私が入っているっていうのに。
もしかして……ジーク? いやいや、呼んでもないのに来るわけないか。
それじゃあ、メイドたち? メイドの入浴時間は私より後だし、メイド用の浴場を使うはず。
じゃあ、アレは一体誰だ?
自分の体にバスタオルを巻いて、近くにあった洗面器を手にする。そして、扉が開き、その人物は浴場に入ってくる。
「だああぁぁ!!」
私はその人物の頭部めがけて、洗面器を振り下ろす。手応えはあり、私は追撃態勢に入ろうとする。
……しかし。
「いったああぁぁい」
「ふぇ?」
聞き覚えのある声に、私は思わず目を丸くし、洗面器を床に落とす。
「何するのよ~。痛いじゃない~」
「お、お母さん!? 何で入ってきているの!?」
私が洗面器で殴った相手は、バスタオル姿の母だった。母は殴られた頭を何度も撫で、薄らと目に涙を浮かべる。
「何でって……入りたいと思ったときに入っちゃダメなの?」
「いや、いつも深夜に入るじゃない。何で今日は夕飯前に入るの? しかも私が入っているのに」
「知らなかったのよ~。怒らないで~」
別に怒ってはないけど……まあ、いいや。
「……良いよ。入れば。私はもう上がるから」
「あら? もう少しだけ入りましょうよ」
「はぁ? 一緒に入るメリットがないわよ」
すると母はスルッと私の背後に回り、肩に手を当てる。
「……全然背中洗えてないじゃない。来なさい。しっかり洗ってあげるから」
「えッ!? ちょっと!」
母は強引に私をシャワーの前にある椅子に座らせ、タオルにボディーソープを付けていた。
「良いってッ!! 私、もう出たいんだけど!!」
「ジッとしてなさい」
泡立ったタオルで優しく擦り始める母の声は、真剣な時に出す声色に近かった。
「……ミーナちゃん」
「何?」
「ありがとう」
突然、母からの感謝の言葉に戸惑う私は、背中を洗ってもらいながら顔を赤くする。
「何言い出すの?」
「そして……ごめんね」
「何で急に謝るの?」
母は丁寧に私の背中を洗いながら、思いを口にする。
「今まで仕事を理由に、あなたに寄り添えなくてごめんね。信用なんてしてないよね? 私たちのこと……嫌いだよね。生まれたときから『奇跡の混血』って呼ばれて、重荷を感じていたよね? いじめられていたのに相談出来なかったよね? 全部……私たちが不甲斐なかったから、あなたは苦しんでいたね?」
私の背後から鼻をすする音が聞こえ、私は母の言葉に対して何も言わなかった。
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