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お父さんも遊びたい2

 ジークと父エディックは上着を脱いで、静かに対峙する。そして、父がポケットからコインを取り出し、ジークに問う。


「裏が良いかい? それとも表かい?」


「では裏でお願いします」


 父の指によって弾かれたコインは宙を舞い、父の掌の上に落ち、表を示していた。


「表だ。僕が先手でも良いかい?」


「分かりました。ではルールです。先にシュートを10本入れた方が勝ちということで宜しいですか?」


 ジークが提案するルールに父は無言で頷き、ジークはボールを父に渡し、守りの姿勢へと入る。真剣な眼差しを浮かべる2人を見て、私は少し興奮していた。


 自分が体験して楽しむのも悪くないけど、見るのも楽しい。


 なんでも出来ちゃうジークと、運動神経が違った意味でイカれている父との1対1。それを間近で見られる私はひょっとしたら幸運? 私を楽しませてよね。2人とも。


 さあ、始めなさい。


「それじゃあ、行くよ」


「いつでも」


 父はゆっくりとボールをつき始め、ジークの隙を狙おうとする。しかし、見ている私でも分かるほど、ジークの守りに隙はなかった。


 明らかにジークは父を左側に誘い込もうとしている。アイツはすんなりと左側に行きたいだろうけど……絶対罠だ。


「どうしました? どうぞ攻めてきてください」


 ジークは笑みを浮かべ、父は少し苦笑いをうかべる。


 その時、父のドリブルが甘くなり、ジークは目にも止まらぬ速さでボールを弾こうとする。しかし、父はそれを待っていたのか、反対側の方にボールを移動させ、ジークを抜き去ろうとする。


 その切り返しの速さに、私は思わず驚きの声を上げてしまう。


「速ッ!?」


 あっという間にジークと体が並び、躱し去ろうとする父。


「まずは1本もらった」


 流れるような動きでシュートを行う父だが、打つ瞬間にボールが明後日の方向に飛んでいき、得点を阻止される。そこには父に躱されたはずのジークが、何故か父の真横におり、薄らと笑みを浮かべていた。


「え?」

「マジか……」


「良いドライブでしたよ。ですが、ドリブルの位置が高すぎますね。トップスピードで抜かされていたら間に合わなかったかもしれませんね」


 出た! 本当に余裕がある人間が出来るアドバイス!


 何が間に合わなかったかもよ。余裕ですよって皮肉言ってるもんじゃない。


「参ったなぁ~。ちょっと手を抜きすぎたね」


 こっちもこっちで訳分からないこと言ってるぅ~。


 素人が経験者に立ち向かう場合、本気でプレイするのが普通じゃないの? それとも経験者であるジークを見くびっているの? バカなの?


「では、攻守交代で」


「分かった。君の動きをしかと見させてもらうよ」


 転がっているボールを拾い上げた父は、ジークにボールを渡し、守りの体勢に入る。ジークと違って、一見隙だらけで、いきなりジークとの距離をを詰めていた。


 あのままだと抜かれてお終い。もっと距離を取って相手の動きを予想して守らないと……ってなんで私は父を応援しているの!?


「良いのですか? 旦那様」


「構わないよ。さあ、攻められるのなら攻めてみて」


 再びジークは笑みを浮かべ、一瞬右に移動しようと体を動かす。それにつられた父は大きく右にシフトする。しかし、ジークは素速く反対側を進み、父を置き去りにしようとする。


「フェイント!?」


 ジークの動きを見て、私は思わず声を上げる。しかし、フェイント1つでは父を置き去りにすることは出来なかった。


「甘いね。ジークくん」


 素速く体勢を立て直していた父は、ジークの横に立つ。しかし、父の姿が視界に入っているはずなのに、ジークは強引にシュートモーションに入った。


「強引よッ! それだと防がれる!」


 そして、2人は地面から足を離し、宙に体を預ける。


 ジークが持っているボールに父の手が襲いかかろうとする……が、ジークの視線の向きが変わり、それを察した父は「しまった!」と言わんばかりの表情を浮かべる。


 ジークの持っているボールが、父の脇付近から抜けていき、そのままゴールへと向かっていく。ゴールへと放たれたボールは、板や輪っかに触れることなくネットを潜る。


 そして、2人が同時に着地する。


「な、何? 何が起きたの!?」


 空中で色んな動きをしたジークに思わず尋ねてしまう。


「気づいたけど遅かったかぁ……」


 父は仕方なさそうな表情を浮かべ、ジークを見つめる。見つめられたジークはニッコリと笑みを浮かべ、爽やかに言葉を返す。


「まだ1本ですよ。旦那様。どうぞ攻めてください」


「いいねぇ……僕も燃えてきたよ」


 想像していた以上に、異次元の勝負を繰り広げる2人を、私は唯々呆然と見ていた。


 どっちが勝とうが負けようがどうでも良い……だけど、一進一退の攻防を繰り広げる2人に私は惹かれてしまった。


 攻守を交代しようとする2人に、私は意を決して声を掛ける。


「あ……あのさッ!」


「お嬢様?」

「どうした?ミーナ?」


 突然の大声に、2人はキョトンとした表情を浮かべる。


「が……頑張って。もっと見せて」


 ジークは嬉しそうに微笑み、父は満面の笑みを浮かべる。そして、2人は私に言葉を返すことなく、プレイを続行する。

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