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ジークの企み4

 特に会話を交わすことなく、私と母は黒と白の石を交互に置いていった。序盤のテンプレートに近い動きが終わり、重要な中盤へと差し掛かっていた。

 

 私は母の戦法を見て、心の中でニヤリと笑う。


 さっきの私と同じ。多く取ろうと思って、攻めて攻めて攻めまくってる。それだと、後半戦でカウンターを受けると立て直しにくくなる。


 ジークと違って、母はオセロを熟知していない。これは……もらった!!


「……うーん」


 母が顎に手を当てて、考え始める。


「何悩んでるの? さっさと置いてよ」


「急かすのはマナー違反じゃない? そうよね? ジークくん」


 母は私の後ろにいるジークに目を向け、ジークはニッコリと笑みを浮かべる。


「そうですね。ですが、奥様。長考する場合は相手に断りを入れるのもマナーですよ」


「あ、そうね。もう少しだけ時間を頂戴。ミーナちゃん」


 長考の申し出を断りたかったが、それだと大人げない。


 盤面を見ても、私は母より石を置く場所が多く、カウンターもしやすい。一方、母は置く場所が限られており、最悪の場合置けない可能性もある。


 どれだけ悩もうと、私の有利が覆る可能性はゼロに近い。


「納得いくまで考えても良いよ」


「ありがとう」


 母は真剣な眼差しで盤面を見つめ、石を置く場所を慎重に検討する。


 それにしても、真剣モードの母を見るのは久しぶりのような気がする。


 多分……仕事しているときも、こんな顔しているはず。私が見ていないだけ……見ようとしていなかっただけ。私が一方的に嫌っていただけ……何で嫌いになったんだっけ? 何で私は……母や父から遠ざかろうとしていたんだっけ?


 母は慎重に検討した結果、ある場所に石を置き、私の黒石を白にひっくり返す。


「お待たせしたね。ミーナちゃん」


 私は黒と白の石が交差している盤面の一点を、ボーッと見つめていた。


「あれ? ミーナちゃん?」


 我に返り、一点から視線を逸らすことが出来た私は、慌てて横にあった石を摘まむ。


「あ、ごめんごめん! ちょっとボーッとしてた」


「ごめんね~。長く考えてしまって」


 再び盤面に目を向けた私は、先ほどの母の一手を確認する。


 ……あれ? さっきまで枚数重視の縦横攻めだったのに、2つ取りの斜め?


 さては日和ったね。これ以上攻めすぎると取り返しがつかないと思ったのね。流石は母。このオセロという遊戯の真髄を理解し始めたわね。


 だけど、その一手だと……。


「角はもらったぁッ!!」


 私の黒石が4つしかない角の1つに入る。「どうだ見たか!」と言わんばかりの表情を浮かべて、私は母の顔を見る。角を取られて、さらに不利な状況に陥った母なのだが……何故か笑っていた。


「な、何が可笑しいの?」


「いや……ミーナちゃんはやっぱり素直だなぁって思って」


「どういうこと?」


「私はわざとあなたに角を取らせたの。そして、あなたは私の仕掛けた罠に引っかかった」


 私は母の頭が壊れたと思ってしまった。


「何それ? 角を取られて気が動転してるんじゃないの?」


 母はクスクスと笑って、石を摘まむ。


「私は至って普通よ。そして……」


 再び真剣な眼差しになった母を見て、私は思わず唾を飲み込む。


「あなたの負けよ。ミーナちゃん」


 さっきの長考が嘘のように、母は即座に石を置く。


 また斜め狙い? しかもひっくり返った数は3つ。何を根拠に私の負けって言っているの?


 背後でジークが「ほぉ……なるほど」と呟く。


「何? どういう状況なの? 私が有利なはずなのに?」


「まだ気づいていないようね。まあ、終盤になれば分かるでしょう」


 悶々とした状況の中、私は石を置き続け、私の一手を嘲笑うかのように母はノータイムで石を置く。


 そして、終盤に差し掛かったとき、私は顔を青くする。


「どう……して? どうして押されているの? 残っていた角も……全部取られた」


「どうしたの? ミーナちゃん。考えるほど置く場所残ってないじゃない」


 急かしている母の言葉は私の耳に届かず、私は震える指で石を盤面に置く。そして数枚の石をひっくり返して、母に手番が移る。


「気づいたようね。だけど、これで終わり」


 母が石を置いた瞬間、私は悟った。どう頑張っても私が勝つことは出来ないと。


「ま……負けた?」


「ミーナちゃんが22枚。私が42枚。勝負ありね」


 敗北を受け入れることが出来ず、頭を抱える私を尻目に、母はゆっくりと椅子から腰を上げる。すると、控えめな拍手が部屋に響き渡り、私は拍手をしている人物に目を向ける。


「良い勝負でした。お二人とも良い作戦でした」


「……ジーク。どうして私は負けちゃったの? 展開的には私が有利だったはずなのに」


「それはね、自分が有利だと思っているからよ」


 ジークの代わりに母が私に言葉を返した。


「意味わかんない。根性論みたいなこと言わないで」


「こういう遊びは良いわね~。人の心を一手で表してくれるから」


 母は数枚の石を手に取って、マジマジと眺め始める。


「お嬢様は自分が有利だと思い込み過ぎたため、勝負所で早めに動いてしまったのです」


 ジークが冷静に母の言葉を補足する。


「動いてしまった?」


「正確には、動かされたのです。奥様がお嬢様に角を取らせるために」


「流石ねジークくん。よく見てるね」


「角は確かに有利です。ですが、角を取っただけで増長し、その後の一手が鋭くなかったら、角を取っても負けてしまいます。有利だと思っていても、油断してはいけません。油断大敵とはよく言ったものです」


 私はため息と共に顔を伏せる。


「さあ、約束よ。ジークくんに謝りなさい」


 敗者である私は、母の命令に従うため、視線を下に向けたまま、ジークに謝ろうとする。


 その時、ジークが片膝をつく。


「そのことですが、奥様。お嬢様は何も悪いことはしていません。謝罪されても何のことか分かりません」


 私は顔を上げ、母は目を丸くする。

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