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ジークの企み3

 ずっと笑みを浮かべて、話そうともせず、椅子に座ろうともしない母に対して、ついに苛立ちが限界を迎えた私は、奥歯をギリッと鳴らして睨みつける。


「いつまでそこに突っ立っているつもり? 用件があるなら早く言って」


「そんな辛辣なこと言わないでよ~。私もミーナちゃんと遊びたくて来たのに~」


 その緩い口調、やめろ。頭が痛くなる。


「遊ぶ? 仕事放り出してまで私と遊びたいの?」


「放り出してないわよ~。ようやく仕事が一区切り付いたから、一息つきに来たのよ~」


「だからって、私と遊んだところで休憩にならないでしょ?」


「そんなことはないわ。娘とのスキンシップは、何にも替え難い至福の一時よ」


 頭の悪そうな言葉をよくもまぁ、ベラベラと話せるものね。

 

 今まで散々、「仕事だ~、仕事だ~」って言って、私のことなんか見てくれなかったのに。急に親面されてもウザいだけなんだけど……。


「話にならないわ。出て行って」


 私は母から目を逸らし、手であっち行けとジェスチャーする。

 

 しかし、母は部屋から出て行かず、背後にいたジークが横から口を出す。


「ご無礼承知の上で口を挟ませてもらいます。ミーナお嬢様」


「言ってみなさい」


「奥様を恐れているのですか?」


「恐れる? 私が? どうしてそう思うの?」


「傍から見た感想を率直に述べますと、お嬢様は奥様を嫌っていて避けているのではなく、恐れ逃げているようにしか見えません。指先が……手が震えているのが良い証拠です」


 ジークに指摘された私はスッと視線を自分の手に向ける。私は無意識に震えていた手を机の下に隠し、「止まれ!」と念じる。


「これは苛立ちで震えているだけ」


「そうですか」


「もう良いでしょ!? 遊ぶ相手を選んで何が悪いの? コイツとは絶対遊びたくないッ!!」


 ジークは眉をハの字にして、軽くため息をつき、ある提案をする。


「そこまで言ってしまうのであれば、ご自分の力で奥様を退けてみては如何ですか?」


「何?」


「お嬢様が言っていることは勝手事。そして、ミーナお嬢様と遊びたい奥様も勝手事。勝手を言い合うもの同士、自分の勝手を貫きたいのであれば勝負が1番手っ取り早いです」


 くだらないと感じた私は、呆れ顔を浮かべて言葉を吐き捨てる。


「何が勝負よ。結局は遊ばせるように仕向けているだけじゃない」


 すると、ジークは深くため息をつく。


「……逃げるのですか?」


 その一言は私の逆鱗に触れ、私は勢いよくジークの胸ぐらを掴む。


「さっきから偉そうなことを言ってんじゃないわよッ!! 誰に向かって口を利いてるのッ!? いい加減にしないと……」


 その時、ジークの胸ぐらを掴んでいる腕に圧力を感じ、私は腕に目を向ける。


「やめなさい……ミーナ」


 母が私の腕をがっちりと掴んでおり、ジークから私を引き離そうとする。


「ミーナちゃんは私たちのことを親として認めていないかもしれない。私たちも親として認められるようなことは出来なかったわ。だけどね、従者に手を出すような教育はした覚えがないわ」


 久しぶりに見た、母の鋭い眼光に一瞬怯んだ私は掴まれている腕の自由を、振り払って取り戻す。


「座りなさい。ミーナ」


 掴まれた腕をさすりながら、私は椅子に座り直し、母が対面に座る。


「オセロ……ね。丁度良いわ。オセロで勝負しましょうか」


「良いわよ。私が勝ったら、もう口出ししないでくれる?」


「分かったわ。それじゃあ、私が勝ったら……」


 母はチラッとジークに目を向け、少し悲しげな表情を浮かべた後、勝利後の願いを口にする。


「ジークくんに掴みかかった事に謝罪しなさい」


 するとジークは驚きを隠せず、思わず「え?」と声を漏らす。


「……分かった。それじゃあ、始めよう」


 私と母はゲームを始めるための準備を行う。




 ◇◇◇




(サロミアちゃん……上手くやっているかなぁ?)


 エディックは自分のデスクで、悶々とした気持ちのまま仕事に取り組んでいた。


(サロミアちゃんが失敗するとは思っていないけど……ミーナは結構、僕たちのことを嫌っているしなぁ……)


「……なさま?」


(よくよく考えたら、結構リスキーな企みじゃないか? 勝負に挑んでもらって、勝ったら言うことを聞いてもらうって。挑んでくれるかも分からない上に、勝てるかどうかも分からないし、何で勝負するつもりなんだろう?)


「だん……さま」


(でも、サロミアちゃんが勝って、親として認めてくれなんて、ちょっと変だよね? いや、大分変だよね? やっぱり他の手段があったんじゃないかな?)


「旦那様!」


「え? あ、どうした?」


 メイド長、カーリーの声に気づいたエディックは、彼女の顔を見つめる。


「いや、集中していたのか、寝ていたのかは分かりませんが……」


 カーリーがデスクの上のあるものを指さし、エディックは指されているものに目を向ける。なんと、書類がペンから滴ったインクによって汚れてしまったのだった。


「わあぁぁぁ!! どうしよう……大事な書類なのに……サロミアちゃんに怒られる」


「大丈夫ですか? 旦那様?」


 エディックの口から魂が抜けようとしていた。それに気づいたカーリーは、必死にエディックの口に魂を押し戻そうとしていた。


「あ……なんか、近い未来が見えた。僕、数時間後にはこの世にいない……かも」


 ガクッとエディックが項垂れる。


「だ、旦那様ッ!! 気をしっかり!!」

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