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フォルテ3

「アンタたち。試しに私の前でフォルテを使ってみて」


「フォルテ……ですか?」


 サラスは首を傾げ、ソフィアは真っ直ぐ私の目を見てくる。


「私はそのフォルテってヤツを見たことがないわ。見たこともないものにアドバイスもできないわよ」


『お嬢様……』


 ソフィアとサラスは顔を見合わせ、ゆっくりと立ち上がり、首に吊るしている笛を咥えようとする。


「アドバイスを求めます。よく見ていてください」


「部屋の中なので性能はお見せできませんが、どうかご理解を」


「構わないわ。さっさと見せて頂戴」


 2人は笛を吹き、甲高い音が響き渡る。吹き終わった瞬間、白い魔法陣が2人を包み、2人の体が白い光を纏う。


「ほうほう……」


「これが私とサラスが生み出した身体向上護符演奏魔法・フォルテです」


 2人の姿を眺めているとジークが口を開ける。


「これがまた手強いんですよ。普通の兵士じゃ止められないスピード、パワー、防御力。笛一つでここまで強化されるとなると、少々厄介ですね」


「アンタがそこまで言うのに2人は納得していないわよ?」


「そうですね。自分もソフィアさんとサラスさんの立場なら同じことを思いますね」


「よく言いますよ。サラスを一瞬で無力化して、私を拳一つで吹き飛ばして……何が厄介なんですか?」


「僕は例外ですよ。決してフォルテが弱いわけではありませんよ」


 ジーク……それ結構ムカつくヤツだよ。天然で言っているからタチが悪い。


「それで? 現在試しているフォルテの上の状態を見せてもらおうかしら?」


『分かりました』


 再び2人は笛を咥え、力強く息を吹きつける。


『多重護符魔法・フォルティッシモ』


 2人の体が白く発光し、フォルテの限界を越えようとする。

 しかし、光は次第に弱くなっていき、2人は膝と手をついて息を切らす。


「はぁ……はぁ……す、すみません。ご覧の通り……一瞬だけ維持できるのですが」


「力が強大すぎて……今の私とソフィアじゃ……」


 苦しそうに息を切らしている2人に歩み寄り、2人に視線を合わせるため、しゃがみ込む。


「フォルティッシモの笛を吹いた時、2人は何を思って吹いた?」


「何を……」


「思って……ですか?」


 2人はやっとの思いで顔を上げ、私は笑みを浮かべて言葉の続きを口にする。


「さっきまで楽しくフルートとクラリネットを吹いていたけど、その笛を吹く時の2人は楽しくなさそうだった。辛そうだった」


『ッ!?』


「普通の演奏でも、フォルテとフォルティッシモの笛の演奏も、同じだと思うよ。演奏が……音楽が大好きなら、楽しくやらないと良い結果は出ないよ」


 立ち上がった私はピアノの前に立ち、笑みを浮かべて鍵盤を弾く。


「演奏は人の心を映し出す。昔の人はよく言ったものよ。私もその考えには賛同している。どんなに明るいテンポ、曲調でも、心が落ち込んでいたら音も暗くなる。さっきの2人の演奏は心のどこかに陰りがあった。だから失敗した。言いたいことがあったら言っても構わないわよ。だけど……少なくとも今の演奏じゃ、成功できるとは思えないわ」


「ミーナ……」


「お嬢様……」


 2人は私を見続け、私は再び鍵盤に触れる。


「自分も同じ意見です。技は心から。魔法も精神力からと言います。今一度、お2人は技の試行錯誤、肉体の不安よりも気持ちの整理が大切だと思います」


 私とジークからもっともなことを言われてショックだったのか、2人は視線を落とし、やっとの思いで立ち上がる。


「ミーナお嬢様の仰る通りです。一度頭を冷やし、考えてみます」


「的確なアドバイス。ありがとうございました」


「頑張りなさい」


 2人は私に背を向けて部屋から出ようとする。


「……ソフィア」


「何でしょう?」


 私はソフィアを呼び止め、以前から気になっていたことを口にする。


「私に一生仕えるって言葉……あれは本当?」


 ジークとサラスは驚きの表情を浮かべ、ソフィアは表情を崩すことなく、私を見続ける。


「お嬢様?」

「ミーナお嬢様? 一体何を?」


 ジークとサラスが声をかけてくるが、私はソフィアを目を見続け、答えを待った。


 ソフィアは瞼を閉じて、思いを口にする。


「……すみません。分かりません」


「ソフィアさん……」

「ソフィア……」


「そう……」


「ミーナお嬢様に仕えたい……その気持ちは嘘ではありません。ですが……あの時も今も分からないんです。自分はこのままで良いのかと……」


 ソフィアの答えで私は確信した。


 私はソフィアを咎めることなく、笑みを見せて言葉を返す。


「最終的に決めるのはソフィア自身よ。私が口を挟むことはないわ。だけど……これだけは覚えていて」


 サラスにも視線を向けて、私は思いを口にする。


「私は2人を家族……いや、それ以上に大切な存在だと思っているわ。だから、貴女たちが信じていることを尊重し、私も信じる」


『ミーナお嬢様……』


 2人が声を重ねた瞬間、ジークの肩に通信バットが降り立つ。


「はい。ジークです」


『緊急事態よ。ジークくん』


 声の主はカーリーだった。


『見張りのメイドからアルカディア兵士が屋敷に向かっているそうよ』


「アルカディア兵士が? 数は?」


『目視で確認できた数は100以上。それも重装備よ。私と貴方が出ても、時間がかかるわ』


 カーリーの報告を聞いた瞬間、私の体は動いていた。


「ん? ちょっと待ってくださいメイド長。お嬢様! 一体何を!?」


「話は聞いたわ。私も行くわ」


 吸血鬼の姿に変わる薬を飲んで、私は窓辺で翼を広げる。


「お待ちくださいッ!!」


「先に行ってるわよ……3人とも」


 私は翼を羽ばたかせ、上空を舞う。

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伊澄ユウイチです!


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