サロミアの父4
ジアスに抱きついたサロミアはジアスのスーツをがっしりと掴み、ひたすら涙を流していた。
「コラコラ。主のお前が泣いてばかりでどうする?」
いつもの冷たい口調ではなく、優しい口調で宥めるジアス。
数分間泣き続けたサロミアは落ち着きを取り戻し、ミーナが座っていた場所に腰を下ろす。
「すみません……お父様」
「構わん。寧ろ謝るのは私の方だ。900年もよく我慢した。サロミア」
「お父様が自分の思いを押し殺して私に接していたのは最初から知っていました。だけど、見抜けたとはいえ、本心が分からなかった以上、恐くて……恐くて」
涙を流しながらジアスに思いをぶつけるサロミア。
表情を柔らかくしたジアスは紅茶を飲み干し、瞼を閉じる。
「サロミアよ。ゆっくり話でもしようか」
◇◇◇
部屋を開け渡した私は執務室のソファーに座り、思いっきりダラける。
「あー……ちょっと調子が狂っちゃった」
「立派な対応でしたよ。ささ、紅茶でもどうですか?」
ジークが紅茶を勧めてくるが、私は首を横に振って断る。
「今はいいわ。それにしても、あの肌に刺さるようなプレッシャーからして、お祖父様は頑固な性格かと思っていたけど、まさか孫に溺愛するタイプだったとは……」
「あの姿がお義父様の本当の姿さ。僕も初めて2人っきりになった時、同じように……」
父は苦笑いを浮かべて私の対面に座る。
「だけど……サロミアちゃんと同じで、怒るとものすごく恐いよ」
でしょうね。おおよそ怒る場面は目に浮かぶわ。
あそこまで家族に感情移入して、家族に何かあったら手がつけられないでしょうね。
「お父さんは私やお母さんに何かあったら、感情剥き出しになるの?」
冷やかす感じで私は父に尋ねる。
父は笑みを浮かべながら、言葉を返す。
「剥き出しにはしないかな? だけど、そんな場面になったら、僕はきっと感情を押し殺して、ミーナやサロミアちゃんの仇を討つかな?」
笑顔でとんでもないことを言ってますけど?
しかも嘘じゃないし……。
正直、両親の裏の顔が恐くて、想像したくないわ。
「ああ……そう? ありがとう」
会話が一段落した瞬間、薬の効果が切れ、私は吸血鬼の姿から人間の姿に戻る。
「あら? もう10分? 長いようで短いわね」
効力の評価を口にした瞬間、扉が勢いよく開き、シャフリが部屋に飛び込んでくる。
「お待たせ!! ミーナちゃん!!」
待ってないし、相変わらずノックしないわねこの野郎。
「なんで私がここにいると思ったの?」
「いや。部屋に行こうと思ったら、ミーナちゃんの声が聞こえたからこっちに来ただけだよ」
だからと言って扉を壊す勢いで入ってこないでよ。
「それで? 何の用? 今日はお客様が来ていて遊んでいる場合じゃないんだけど?」
「だから言ったじゃん。お待たせって」
「……まさか? まさかなの?」
シャフリは満面の笑みを浮かべて、吸血鬼の姿に変われる薬が大量に入った瓶を私に手渡す。
「完成したよ!」
「いやいやいや!! アンタ仕事早すぎない!? 既存の薬じゃないのに完成までのスパンが短すぎるわよ!!」
するとシャフリは自慢げに胸を張り、眼鏡の位置を修正する。
「甘く見てもらっちゃ困るね。私は夢中になったら、とことん突き詰めるし、寝る間も惜しむよ」
いや、そこはちゃんと寝て。
「それに、自慢じゃないけど、お父さんよりも薬を量産できるし、早く作れるよ」
「ほう……それならずっと店番を任せても問題はなさそうだな?」
シャフリの背後に突如現れたバルディゴ。
声を聞いた瞬間、シャフリは顔を青くさせ、恐る恐る振り返る。
「お……お父さん。いつの間に?」
「私は隣の部屋で療養しているんだ。お前の声が聞こえて様子を見に来たんだ」
「ヒィィィッ!! ご、ごめんなさいッ!!」
「全く……」
すぐ謝るのなら言わなければ良いものを……。
だけど……この薬でやっと。
私はジークと視線を合わせ、ジークはコクリと頷く。
「シャフリ。ありがとう」
率直にシャフリに感謝を述べ、謝っていたシャフリは私に対して笑みを送ってくれた。
「効力時間は1時間。万が一、暴走したとしても、日中なら薬の効力が切れれば安心だよ」
万が一を話さないでよ。
だけど、自分の意思とは裏腹に暴走してしまう可能性はある。
この薬の目的は暴走を克服するため。
そして、本当に万が一の場合……。
「暴走しても、自分が止めます」
ジークが自らの胸に手を当て、暴走阻止を宣言する。
私とジークはお互いに笑みを浮かべて、改めて信頼し合っていることを確認する。
「中々面白い話をしているな」
突如会話に乱入してきた祖父が母を連れて、部屋に入ってくる。
「良いことを教えてやろう。サロミアには既に話したが……ミーナよ」
「はい?」
「安心しろ。もうお前は他人の血を見て暴走することはない」
『え?』
母以外の全員が思わず声を漏らす。
そして、祖父はジークを……いや、ジークの首筋を見つめ、ジークは思わず首筋を手で隠す。
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