サロミアの父3
祖父を待つこと30分。
身だしなみを整えた私は、ジークに紅茶のおかわりを求める。
「お風呂、入ってるんだっけ? 結構な長湯ね」
「さっきメイド長から通信バットが来て、もう少ししたらこっちに来ると言っていたけど……」
カーリーの報告通り、扉がノックされ、向こう側にいる父が入室許可を求めてきた。
「ミーナ。ちょっと良いかい?」
来たわね。
「どうぞ。入って」
ジークがゆっくりと扉を開け、ようやく祖父との初対面を迎える。
ジークが何かを感じとり、表情をこわばらせ、私もジークが感じているものを受け止める。
肌がピリつく……まるで身体中、針に刺されているみたい。
「お前が……サロミアとエディックくんの娘か」
黒のスーツを完璧に着こなし、ミストレーヴ家の紋章に似たバッチを右胸につけており、ケチのつけようがない身だしなみに、思わず感心してしまう。
「初めまして、お祖父様。私がお母様とお父様の娘、ミーナ・アリスト・ミストレーヴです。初めての会話にしては無愛想ですね」
毅然とした私の態度が気に入ったのか、祖父は笑みを浮かべる。
「ほう。サロミアの娘の割には肝が据わっている。初めまして。お前の祖父に当たる……」
「ジアス・エフ・ミストレーヴですね?」
「む?」
「門番とメイド長から名前を聞いています。私は一度聞いた名前と顔は覚えています」
「フフ……実に面白い」
祖父がゆっくりと私に歩み寄り、危険だと判断したジークが動こうとしたが、私はアイコンタクトで静止させる。
さあ……私に見せてよ。お祖父様。
「わ……わ、我が孫よ!! お爺ちゃん会えて嬉しいよ!!」
「え?」
「は?」
ふぁ?
私含め、ジークと父も声を漏らして目を丸くする。
「長らく会いに来れなかったことは本当に申し訳ない!! しかし、私も忙しくて……」
「ちょ! ちょっと待って!!」
一方的に話し続けようとする祖父の口を止めた私は、吸血鬼の姿に変われる薬を服用し、偽りでないかを確認する。
「おお……噂通り、人間と吸血鬼の二面性か。それにいつでも変われる薬も持っているとは……いやはや、長く生きるものだな」
びっくりするくらい嘘をついていない。
この状態がお祖父様の通常?
「あ、もしかして嘘を見抜こうとしたか? 残念ながら、私は嘘をつくのが苦手な上に、嫌いでな。余計なことは気にしなくて良い」
さっきの威圧的な姿も嫌だけど、今のデレデレ姿も引くぐらい嫌だ。
「ん? 君がジーク・アルヴェルドくんか。今日という日まで孫を支えてくれて感謝する」
半ば強制的にジークに握手をする祖父。
戸惑いながらも、ジークは笑みを浮かべて、言葉を返す。
「あ、はい……あれ? どうして自分の名前を?」
「おお。君は知らなかったんだったな。君を拾ったヒビキ・コーラミアを陰ながらサポートしていたのは、私だよ」
ヒビキという名を耳にしたジークは目を見開く。
「あまり驚かないでくれ。サロミアの友を私が知っていても不思議ではないだろう?」
何か言いたげな表情を浮かべるジークだが、思いを口にするのをやめて、祖父から視線を逸らす。
雰囲気が悪い。しんみりした話は他所でやって欲しい。
「お祖父様。私の執事を困らせないでください。今日は私とお話しするために訪問されたのでしょう?」
祖父の会話対象を私に変え、祖父は私の対面に座る許可を得てきた。
拒むことなく私は祖父に座ってもらい、ジークに紅茶を出すように指示する。
父にも座ることを勧めたが、父は祖父の背後に立つことを選んだ。
「それで? 孫の顔を見に来ただけじゃないでしょう?」
「いや、本当に顔を見にきただけだ。孫と……娘の」
「お母さん……いや、お母様の?」
「もう良いぞ。猫を被る必要はない。話しやすい方で話してくれ」
バレてた。まあ、猫を被るのも嘘の一つだからバレるのは当然か。
「ありがとう」
差し出された紅茶を飲んで、祖父は深く息を吐く。
「さっき浴場でエディックくんとも話していたが、中々サロミアの手を焼かせていようだな」
私は瞬時に父を睨みつけ、ヤバいと判断した父は私から目を逸らす。
「勘違いしないでくれ。決して悪いことではない。子が親の手を焼かせるのは当然のことだ」
祖父が父を庇い、私は頬を膨らませ、紅茶を啜る。
「そのお陰か、サロミアはさらに成長したよ」
「え?」
カーリーたちから聞いていた話と違う。
祖父は母に対して冷たかったって。
「私が思い描いていた以上に素晴らしい主となった。心の底から安心……いや、尊敬している」
「お祖父様……それなら、何故お母さんに冷たく接するのですか?」
「やれやれ。先ほどのメイドと門番から聞いたのか? 確かに妻に先立たれた私は、今のミーナちゃんくらいの歳のサロミアに対して、私は冷たく接してしまった。だけど、私はサロミアに立派な主となってもらうためにやったことだ」
「立派な……主?」
「もちろん後悔はしている。もっと他にも方法があったはずだ。自分でも不器用な奴だと思っている。だけど、私にはそれしか出来なかったんだ。恨まれても仕方ないと思っている。だが、サロミアは歯を食いしばり、血が滲むような努力、熱を上げるほど悩み、成長していった。サロミアが500歳を迎えた頃、1人前だと判断した私は、経験を積ませるためにもこの屋敷を託した。何度も思った……本当に酷い父親だと思う」
そう……だったんだ。
「だから信じてくれ。私は娘を愛していない父親ではないと」
「お義父様……」
父が呟いた瞬間、扉が勢いよく開き、私たちは一斉に視線を向ける。
「お父様!!」
「サロミア……」
部屋に入ってきた母が祖父に駆け寄り、他人の視線も構うことなく、思いっきり祖父に抱きつく。
「ごめんなさい……私」
祖父が私たちに視線を向け、私は息を吐いて席を立つ。
「ジーク。お父さん。ちょっと外しましょう」
私は2人を連れ、部屋から出て行き、ゆっくりと扉を閉める。
結局、しんみりしちゃった。
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