クロノ訪問後
「……お嬢様はどうして機嫌が悪いのでしょうか?」
日が落ち始め、買い出しから帰ってきたジ-クが私の表情を見て、シャフリに尋ねる。
「ジークさん。それがですね……ミーナちゃんが執事服着てたんですけど、着替えちゃって……」
「あ、アンタッ!! それ言わないって約束だったでしょッ!!」
「だって、それ以降ミーナちゃん一言も口きいてくれなかったし、私だって悪気があったわけじゃないし……」
「機嫌が悪いのはアンタのタイミングが悪かったからよ」
「お嬢様が執事服? 一体どういうことなんでしょうか?」
興味持つんじゃないわよ。ジーク。
「それがですね、ジークさんたちが出て行った後、アルカディアの王子様が来たんですよ。それでお茶を出す人がいないからミーナちゃんが代わりにお茶を用意してくれたんですけど……」
「なるほど。だから執事服を着たわけですね」
あー、全部話しやがった……。
「そういうことでしたら呼び戻しても大丈夫ですよ」
いや……羽を伸ばしてこいって言った手前、呼び戻すのは悪いでしょ。
「それにしてもアルカディア王子……突然何故?」
ジークは私の執事姿よりも、アルカディアの王子、クロノの訪問意図が気になっていた。
「今のアルカディア王が退位するらしいわよ」
「退位……ですか」
「そうよ。王子は退位を伝えに来たのと、継承式に来て欲しいって言われたのよ。全く……いくら王族といえどもアポイントは取ってほしいものだわ。まあ、すぐ帰っちゃったけど……」
全てを伝えたにも関わらず、ジークは顎に手を当て、考え事をする。
「ジーク?」
「あ、いえ。何でもございません」
「あら? 迂闊じゃない? 今の私の姿を見て嘘をつく?」
「あれ? お嬢様。吸血鬼の姿になるのは1時間後の6時からだったのでは?」
やっと気づいた。鈍感ジークめ。
「最近は早くなって6時からだったけど……」
シャフリが不気味な笑い声を発しながら、テーブルの上に薬を置く。
「もしかして……」
「そうです!! やっと完成しました!! 効力時間はまだ調整が必要ですが、10分間は吸血鬼の姿になることが出来ます!! 不安な副作用はありません!!」
胸を張って自信満々に薬の説明をするシャフリ。
「1時間の効力を目指しますので、期待していてくださいね」
目を輝かせてジークに説明しているけど、飲むの私だよね?
「それじゃあ、ミーナちゃん。時間も迫っているし、もう1回だけ試したら今日の慣らしは終わってね。私は薬の調節をするからじゃあね~」
声を掛ける間もなく、シャフリは部屋を出て行く。
「嵐のようなヤツね……全く。まあ、この薬を早く完成させたことは流石ね」
「良かったね。完成して」
ジークは私の対面に座り、折られた話の続きをする。
「途中になったけど……現王が退位する理由。ミーナちゃんは分かる?」
「いえ……普通に老いとかじゃないの?」
「現王、ヨハネス・アルカディアは心臓の病を患っていて、先は長くないらしいんだ」
「心臓が? なるほどね……元気な間に王位を継承しようってことね」
「残念な話だけど……退位を公表すると言うことは死期が確実に迫ってきているってことだ」
深刻そうに状況を受け止めるジーク。
他人のことを真剣に考えるジークは優しいと思うけど、そんな顔は見たくない。
「そんな顔しないで。ジーク。重く受け止めるのは良いことだけど、この話はやめよう」
「ミーナちゃん……」
「それに、アンタは笑顔が一番似合ってるんだから。悲しそうな顔をしないで」
「そうですね……すみません。暗い顔をしてしまって」
ジークは笑みを浮べ、それを見た私も笑みを浮べる。
「ところでミーナちゃん」
「何?」
「執事服を着たって本当?」
突然の質問に私は顔を赤くし、否定から入ってしまう。
「違うッ!! いや……違う訳じゃないんだけど、ほらッ! 作業するには丁度良かったし!」
「言いたいことは分かるけど、それならメイド服で良かったんじゃない?」
確かに私は女。作業をするのであればメイド服の方が理にかなっている。
だけど……。
「……なんか、恥ずかしい」
「え? なんて?」
「だから……恥ずかしいのよ。見た目は可愛くて着てみたかったけど……」
モジモジしながらもジークに思いを伝え、私はジークから視線を逸らす。
「で……でも、ジークが見てみたいって言うのであれば……着てみたいかも」
「ミーナちゃん……それならお言葉に甘えようかな?」
「え?」
「夕食まで、まだ時間はあるよ。少しだけ見せてくれないかな?」
着てみたいって言って、着てくれって本当に言う? ええ……どうすれば。
悩んでいる間、ジークはずっと私を見つめ、折れた私はクローゼットの中に逃げ込み、顔だけ出す。
「少し……だけだよ」
クローゼットを完全に閉めた私はメイド服に着替え、ジークにお披露目する。
「に、似合って……いる、かな?」
「とても似合っているよ」
「ほ、ホント!? あ、あとね!! ジークのお陰であの紅茶を淹れられるの!! 飲んでくれる?」
「折角だから、もらおうかな?」
「分かった!! ちょっと待っててね」
火炎魔法を使ってお湯の温度を調節し、茶葉の量に気をつける。決してスムーズにはいかなかったが、ジークの前に紅茶を出し、私は感想が来るのを待つ。
笑みを浮べて香りを楽しんだジークは「いただきます」と言って、紅茶を口にする。
「……どうかな?」
「……美味しいよ。紅茶からミーナちゃんの気持ちが伝わってくるよ」
「本当!? ありがとう!!」
ジークに抱きつき、私は喜びを露わにする。
「良い紅茶だよ。よく頑張ったね。ミーナちゃん」
ジークは優しく私の頭を撫で、私はもっと撫でてくれと頼んだ。
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