クロノ訪問2
「実は先日、アルカディア現王、ヨハネス・アルカディアが正式に退位することになりました」
クロノの言葉を聞いて、私以外全員、驚きの顔を浮べる。
「ヨハネスが?」
母が真偽を尋ね、クロノは何も言わずに首を縦に振る。
「国民への発表は明後日の正午となっています。今は極秘事項ですので、他言は無用で」
クロノの代わりにファルトマンが私たちに口止めする。
「それで? 退位の報告と口止めだけじゃないですよね?」
私は余裕を持った表情でクロノに尋ねる。私に対し、笑みを浮べながらクロノは言葉を返す。
「その通りです。今回はミストレーヴ家の皆様を退位式、並びに継承式に招待するため、訪問させていただきました」
「退位式……継承式……ですか」
浮かない表情を浮かべてしまい、クロノは私を気遣う。
「ミーナ嬢は人前に出るのは苦手でしたね。無理はなさらないでください」
「いえ、以前ほど苦手ではないですが……そうですね。やはり抵抗はあります」
「発表自体は明後日ですが、式の予定は目処が立っていません。時間はありますので、しばらく考えていただけますか?」
私はクロノから目を逸らし、答えを口にしなかった。
「クロノ様……そろそろ」
「もうそんな時間ですか? 仕方ないですね」
クロノとファルトマンは立ち上がり、私たちに頭を下げてくる。
「時間をいただき、感謝します。もう少し時間があれば、ミーナ嬢とソフィアたちの演奏を聴きたかったのですが、残念です。出欠の答えを期待しています」
私と母も立ち上がり、2人に頭を下げる。
部屋を後にしようとした2人だが、突然扉が開き、シャフリが飛び込んでくる。
「ミーナちゃーん!! 結構改良したから試してみて……って、うわああぁぁッ!!」
シャフリはカーペットに躓き、そのまま前のめりに倒れる。
眼鏡と薬が床に転がり、母たちは苦笑いを浮べ、クロノとファルトマンは唖然とする。
「……シャフリ」
私は頭を抱えながら、シャフリに近づく。
「いたた……躓いちゃった。あ、ミーナちゃん!!」
私を見たシャフリは満面の笑みを浮べる。そんな彼女の頭を鷲掴みにし、指に力を込める。
「あ、ミーナちゃん!! じゃないわよ!! こんのバカシャフリッ!! ノックしなさいって何度も言ってるでしょッ!!」
「あだだだだッ!! ミーナちゃん!! 痛いよッ!!」
知るか!! 良い雰囲気で終わる流れだったでしょ!?
「ミーナ嬢。彼女を離してくれないか?」
クロノが声を掛けたことにより、私は正気を取り戻す。
しまった……猫被ったのがバレてしまった。
「し、失礼しました」
私はシャフリの頭から手を離し、一歩離れる。
「ううぅぅ……」
シャフリは頭を抱え、痛みを和らげようと何度も撫でる。
「大丈夫ですか? 落としましたよ」
「あ、ありがとうございます……」
床に転がっていたシャフリの眼鏡を拾い上げたクロノは、レンズが割れていないかを確認した後、シャフリに眼鏡を手渡す。眼鏡を受け取ったシャフリは眼鏡をかける前に、クロノに笑みを送る。
その時、シャフリの瞳を見たクロノは目を見開き、眼鏡をかけようとするシャフリの手を掴む。
「え……ど、どうしましたか?」
「貴女のその目……」
数秒ほど見つめ合うが、シャフリが恥ずかしがり、クロノの手を振り払って眼鏡をかける。
「す、すみません!! ちょっと……」
「あ、ああ。すまない」
お互いに顔を赤くし、クロノは足早に出口に向かう。
「それでは失礼しました。見送りは結構です。行きましょう。ファルトマン」
「はッ!!」
2人は颯爽と出て行き、私は床にへたれ込んでいるシャフリを見る。
「……」
珍しく一点を見つめ、顔を赤くしているシャフリ。
「何赤くなっているの? らしくないわね」
「はッ!? み、ミーナちゃん!?」
「王子様に見とれちゃった?」
「王子? 一体どういうこと?」
「あれ? アンタ知らないの? 今の少年。アルカディア王子だよ」
「え……ええ? ええッ!!」
シャフリの声が響き渡り、その場にいる全員が耳を塞ぐ。
「う、うるさいわよ!! 大声出さないでよ!!」
「ミーナちゃんが執事服着ているッ!! メチャクチャ萌えるぅ~!!」
そっちに驚いていたのか……というか、コイツには見られたくなかったわ。
◇◇◇
「どうでしたか? クロノ様。ミーナ・アリスト・ミストレーヴ嬢は」
馬車に揺られながら、ファルトマンは対面にいるクロノに話しかける。
「面白い人ですね。お父様が話してくれた以上に」
「それは良かったです」
「……ですが、それ以上に気になる人が」
「え? 何か仰いましたか?」
あまりの小声でファルトマンは聞き取れず、クロノは首を横に振る。
「何もない。気にするな。ところでファルトマン」
「はい?」
「ミーナ嬢が言っていた暴言とは何のことだ?」
ファルトマンは再び顔を青ざめさせ、クロノから視線を逸らす。
「い、いえ。自分は暴言など……」
「他の者にも話は聞く。もし、真実であれば、父は下さなかったかもしれないが、自分が罰を下す」
「く、クロノ様~!! どうか、お許しを!!」
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