吸血鬼の薬6
シャフリに血を抜かれた翌日、私は一粒の黒い錠剤と睨めっこしていた。
「むぅ……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!! 徹夜で作ったけど、調整はバッチリなはずだよ!! 仮に失敗しても効き目は5分で無くなるから安心して!!」
徹夜と失敗って……最高の不安材料を口にするんじゃないわよ。
「ささ!! 早く早く!!」
興味津々な顔を浮べるシャフリとは対照的に、私は不安しか抱かなかった。
隣で様子を見守っているジークに視線を向ける。
「無理しないでくださいね。恐かったらやめても……」
「いや……大丈夫。飲むよ」
意を決して私は錠剤を手にし、口に運ぶ。
薬の効き目は即効性で、飲み込んだ瞬間、私の体に変化が始まる。あっという間に吸血鬼の姿に変わった私は、異常がないか確認する。
「……見た目も、フレア・ソードも使える」
「おお!! やったぁ!! 成功ね!!」
しかし、喜んでいたのも束の間。私の鼻から血が流れる。
「あれ? これって……」
「鼻血……ですね」
ピョンピョン跳ねていたシャフリは固まり、ジークは私の鼻血を止血しようとする。
「シャフリ。何よ……これ」
「多分……薬の副作用ね。姿は変わったけど、調整が必要ね」
効き目が無くなり、人間の姿に戻った私は、調整が施された薬を口にする。
しかし、飲む薬全て問題があり、吸血鬼の姿にはなるが、体に不具合が生じる。
「あちゃぁ……問題が中々クリアできないね」
「クリアできないねじゃないわよ!! そろそろクリアしなさいよ!! あ~、頭痛い。さっきの副作用が……」
「鼻血に腹痛、嗚咽、眠気、頭痛……ですか。これでは実用は難しいですね」
「冷静に分析してんじゃないわよ!! ジーク!!」
「まあまあ。落ち着いてください。紅茶でも飲んでください」
ジークが紅茶を差し出し、私はノータームで紅茶を口にする。
「かぁ~。最高……」
「シャフリ様。あまり薬を飲み過ぎるのも良くありません。お嬢様の体のため、今日はここまでにしていただけませんか?」
「そうですね。簡易的な調整はほぼしましたし、部屋に戻って再調整したいと思います。それじゃあ、ミーナちゃん。失礼するね」
「はいはい~」
部屋を後にするシャフリに手を振り、私は紅茶を啜り続ける。
「ふぅ……どうだった? シャフリ様の薬は」
敬語とタメ口の切り替えが早くなったわね。
「見ての通りよ。副作用以外は問題ないわよ。効き目も味も」
「味は……まあいいか」
「それよりもジーク。今日は何するの? 足技の練習? それとも基礎練習?」
練習内容が気になる私は思わず笑みを浮べて尋ねるが、ジークは苦笑いを浮べて口を開ける。
「実はね……この後、買い出しがあって。ソフィアさんとサラスさん以外出払うことになっていて……」
「はぁ? 聞いてないわよ。そんなこと」
「まあ、言ってないからね。今回の買い出しは大がかりとなっていて、どうしても抜けることが出来ないんだ」
「むん……仕方ないわね。となるとソフィアとサラスも仕事に専念しないといけないわね。今日は体を休めておくわよ」
「……すみません」
「気にしないで。たまには羽を伸ばしてきなさい。アンタには……迷惑かけてばっかりだから」
「ミーナ……」
「それと」
私は紅茶を片手に、窓際に立ち、思いを口にする。
「呼び捨ても悪くないけど……ちゃん付けで呼んで欲しい、かな?」
ジークは一瞬呆けるが、すぐに笑みを浮べる。
「分かった。ミーナちゃん」
「行ってらっしゃい。ジーク」
◇◇◇
「良い天気だね。ソフィア」
「言われなくても分かるよ。サラス」
優しい日差しが降り注ぐ中、ソフィアはあくびをする。
「あら? 珍しいね。あくびをするなんて」
「昨晩。お嬢様の剣術の練習をしていたから。ちょっと眠い」
「ちゃんと剣向けられたの?」
「ええ。震えもなかった。それに……私に勝った」
「ええ!? どういうこと?勝ったって……」
喰い気味に質問してくるサラスを鬱陶しく思ったソフィアは、ため息をついて言葉を返す。
「言葉通り。フォルテは使ってないけど、全力で挑んで負けた」
「剣でソフィアを負かすなんて……」
「言っておくけど油断したわけでもないし、マグレじゃないわ」
「やるわね……ミーナお嬢様」
「随分、話に花を咲かせているようだね。ソフィア。サラス」
声に反応した2人は身構えるが、声の主を見た瞬間、目を丸くする。
「え?」
「どうして貴方様がここに……」
「久しぶりだね。ソフィア。サラス。約束通り、会いに来た」
『クロノ様!?』
ソフィアとサラスは反射的に跪き、頭を下げる。
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