吸血鬼の薬5
シャフリに血液を採取されたその晩。
吸血鬼の姿に変わった私は、中庭にてソフィアに剣術を習っていた。
「集中、集中……」
木製の剣を握りしめ、藁の固まりに対し剣を振る。横と縦、1回ずつ振り、剣の軌跡を目にしたソフィアが目を細める。
「まだ振り切れていませんね。ですが、初期の頃よりは鋭くなっています」
「うーん……力を入れすぎるとブレちゃうし、抜きすぎると浅くなっちゃうのよね」
「……お嬢様」
「何? ソフィア」
ソフィアは私が握りしめている木製の剣にチラッと視線を移す。
「お嬢様。今もお気持ちは変わっていませんか?」
「気持ち?」
「初めは剣ではなく、護身術を教えて欲しいと私に相談してきましたね」
「確か……そうだったわね」
「その時、お嬢様は他の人を守りたいと仰っていましたが……今も変わりませんか?」
「当然よ。暴走してた時のことを知ったら尚更」
「そうですか……」
瞼を閉じ、予備で準備していた木製の剣を握るソフィア。
そして、私に切っ先を向け、構えるよう指示する。
「な、一体何?」
「お気持ちを確認しました。ですが、守りたいと思うのであれば、守り抜くための力が必要です。以前のように、他人に刃を向けただけで戦意を喪失しているようであれば、夢見事です。今一度、覚悟を確かめるため、手合せを願います」
「ソフィア……」
真剣な眼差しで見つめられた私は、一度視線を落とし、木製の剣を見つめ、再び顔を上げる。
「……行くわよ。ソフィア」
構えた瞬間、ソフィアは口角を吊り上げる。
「あの時とは違って、震えてませんね。今回は期待できそうですね」
夜風が吹き抜け、しっかり剣を握り直した私は一気にソフィアとの距離を詰める。
「やああああぁぁぁぁ!!」
横一の字に剣を振るが、ソフィアは最小限の動きで私の剣を躱す。しかし、それは想定内。
さらに前に踏み込み、後退しても剣が当たる範囲内で再び私は剣を振るが、またしても私の剣は空を裂いただけだった。
「え?」
「相手が後ろや横だけに移動するとは限りません。上下の可能性も視野に入れた方が良いですよ」
宙を舞っているソフィアが、私にアドバイスをしながら背後に着地する。
向き直った私は手を緩めることなく剣を振る。
「少し感情的になっています。読みやすい筋ですよ」
「涼しい顔して躱すわね……だったら!!」
上半身狙いから下半身に狙いを変え、再びソフィアを空中に誘い出す。
案の定、ソフィアは足下の攻撃を跳躍して躱そうとする。
「そこだッ!!」
空中にいるソフィアに食らいついた私は、強制的に鍔迫り合いに持ち込むことが出来た。
「なるほど……忘れていました。吸血鬼の姿では翼が生えていましたね」
「ただの飾りじゃないわよ! 飛ぶことだって出来るんだから!」
「流石です……と、言いたいところですが、一手足りませんね」
鍔迫り合いになったが、経験と力はソフィアの方が上だった。私はあっさり押し返され、背中から地面に落ちる。
「カハッ!!」
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
衝撃でむせ返りながらも、私は何とか立ち上がり、再び剣を手にする。
「まだまだ!!」
「負けず嫌いだろうとは思っていましたが、キリがないので、どちらかが一撃を受けたら終わりましょう。時間もあまりないので」
「まだ満足な動きは出来ていないけど……仕方ないわ。分かったわ。だけど、本気出来なさい!!」
「御意」
私は翼を羽ばたかせ、最低空飛行でソフィアに近づき、すれ違いざまに剣を振る。しかし、中々私の剣はソフィアを捉えることが出来ず、ジリ貧な状況に陥る。
「流石ね。防御も回避も完璧ね」
「正直なところ、どちらも苦手分野です。なので、得意分野を解禁するとします」
再び私が接近し、剣を振ろうとしたが、寒気を感じ、私は攻撃を中断し、距離を取る。
「良い勘ですね。そのまま突っ込んできていたら、剣を粉砕し、押し返していましたね」
「流石は元騎士。攻撃の瞬間、雰囲気が変わったわ。どっと汗が出てきたわ」
無策に突っ込むことが出来なくなった私は、地上に降り立ち、呼吸を整えて、切っ先をソフィアに向ける。
「申し訳ございませんが、業務の時間が迫っていますので、攻めさせていただきますよ」
一瞬にしてソフィアの姿が消え、私は周囲を見渡す。次にソフィアが姿を現したのは右後方だった。
「おわッ!!」
間一髪攻撃を躱した私は、ソフィアに視線を向けようとするが、既にソフィアの姿はなかった。
「え?」
「今度こそ終わりです」
右側面に現れたソフィア。既に攻撃態勢に入っており、剣が振られる瞬間だった。
やられる……そう思った瞬間、無意識に私の右腕は動いていた。
「なッ!?」
攻撃を受け止められたソフィアは思わず驚きの声を上げ、一瞬硬直する。その一瞬の隙を見逃さなかった私は、ソフィアの腹部めがけて剣を振る。
ヒットした感覚が腕に伝わり、攻撃を受けたソフィアは腹部を押さえて後退する。
「あ……当たった。当たった!!」
喜びのあまり、私は翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。
ソフィアは腹部の痛みを抑え込み、予想していなかった結果に思わず笑みを浮べる。
「流石ですね、お嬢様。もしかして読んでいたのですか?」
高鳴る気持ちを抑え込みながら、私は地上に降り立ち、言葉を返す。
「正直なところ、負けたって思ったんだけど……体が自然と動いていて」
「それは吸血鬼の姿になって反射神経が良くなったからよ」
聞き覚えがある声が背後から聞こえ、私は背後に目を向ける。
「お母さん? それにシャフリも?」
そこには満面の笑みを浮べる母とシャフリの姿があった。
「反射神経だけじゃないわ。身体機能の全てが向上しているわ」
勝因はなんとなく分かったけど……。
「何でシャフリがいるの?血液の調査しているんじゃ……」
「ミーナちゃん。人間状態の血液を調べたけど、吸血鬼状態の血液も調べてみたいから協力して」
え? それって……もしかして。
「もう一回採血させてね」
「な、何でよおおおおぉぉぉぉッ!!」
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