いつもの日課
半日、インディアンポーカーを楽しんだ私は、母と父がいない食堂で夕飯が出てくるのを待っていた。
「お待たせしました。ミーナお嬢様」
ジークが料理が乗ったワゴンを押し、私の前に料理を並べる。
「スープは野菜たっぷりのコンソメスープ。前菜は粉チーズ多めのシーザーサラダ。ドリンクは王国市場で売っていたリンゴをジュースに。そして、メインは牛ヒレ肉のステーキです。お嬢様の要望通り、レアの焼き加減です」
見るからに美味しそうな料理が、私に食べてくれと言わんばかりに輝いて見える。
ナイフとフォークを持つ前に手を合わせる。
「……いただきます」
食材一つ一つを丁寧に口に運び、時間をかけて私は空腹を満たす。
「少し、よろしいですか? お嬢様」
私はナイフとフォークを皿の上に置き、紙ナプキンで口の周りを拭く。
「食事中の人に話しかけるのはマナー違反よ。ジーク」
「大変失礼しました」
「まあ、良いわ。ところで何?」
ジークは私の耳付近に手を当て、小声で話し始める。
「今日の分の用意は既に出来ています」
「今日の分?」
私は首を傾げ、ジークに言葉に意味を尋ねた。
「見晴台で待っている小鳥たちの食べ物です」
唾液が気管に入り、私はゲホゲホと噎せ返る。
「なッ! そんなこと頼んでないでしょ!」
「いつから保管しているか分からないパンの耳よりも、今朝余ったパンの耳の方が良いと思いまして」
今朝余った? ……そうか。あのサンドイッチ。あれの余りを確保したと言うことか。
「……分かったわ。後で持ってきなさい」
「御意」
その後、私は黙々と夕飯を食べ、ジークは横から笑顔を浮かべて私を見守っていた。
時間はあっという間に過ぎ、外は夜行性の人外種が活発になる頃、私は自室でジークを待っていた。しかし、扉に視線を向けていてもノックされることはなかった。
「……何しているの。あの執事。もうすぐ日付が変わるというのに」
部屋に取り付けられている時計に目を向けると、時刻は23時30分を示していた。
「……ったく。どこほっつき歩いていることやら」
痺れを切らした私は、1人で見晴台へと向かおうとする。そしてドアノブに手をかけ、扉を開ける。
「お待ちしていました。お嬢様」
「だああぁぁぁぁッ!! じ、ジーク!? ビックリするじゃない!!」
真っ暗な廊下にいたジークの手には、パンの耳が入ったビニール袋が握りしめられていた。
「もしかして……ずっと廊下で待っていたの?」
「はい。もう少ししたらお呼びしようかと思っていたのですが……」
いや、今のは完全にホラーだったよ。普通の人なら心臓止まるよ。
「いや、普通に入ってきて渡せば良いじゃない。ほら、早く渡しなさい」
するとジークは満面の笑みを浮かべる。その笑みを見た瞬間、私はジークが放つ言葉が予想できた。
「私がお持ちします。ご一緒させてください」
予感的中。どうせ昨日も見られているし、何言っても付いてきそうね。
「……邪魔しない条件よ。付いてきなさい」
「ありがとうございます」
普段は1人で歩く見晴台への道を、ジークと共に歩く。
◇◇◇
日付が完全に変わり、吸血鬼の姿になった私は、見晴台でいつも通り小鳥たちにパンの耳をつつかせる。
「今日も美味しい? 他にも何か持ってきたいけど、何持ってくれば良いか分からなくてごめんね」
当然、人の言葉を理解していない小鳥たちは、私の言葉に反応することなく、懸命にパンの耳をつつく。
ふと、ジークが気になり、私は視線をジークに向ける。
「ええッ!?」
私の手の上に小鳥が2匹しかいないのに、ジークの手には群がるように何匹も止まっていた。
「シーッ! お嬢様。大声を出すと、小鳥がビックリしてしまいますよ」
「何で毎日来ている私よりも集まっているの!? 何か使ったんでしょ!!」
「ご安心を。何も使用していません。ただ、幼い頃、お嬢様と同じで、野生の動物たちに食べ物を与えていたら、気持ちが理解できるようになりまして」
何でも有りかよ……お前は。
呆れ顔を浮かべている私に構うことなく、ジークは話題を切り出してくる。
「……お嬢様。今日はありがとうございます」
突然の感謝の言葉に、私は戸惑って視線を逸らす。
「何よ。私何もしていないでしょ?」
「いえ。昼間、このジークのために心配していただき、その上、旦那様や奥様を説得していただき、本当にありがとうございます」
「……当然でしょ。雇い主はアイツかもしれないけど、あんたは私の執事。執事の不祥事は私の責任でもあるからね。それに……」
「それに?」
ジークは澄んだ瞳で、私を見つめてくる。私は顔を真っ赤にして、ジークに頭を下げる。
「ご……ごめん。私がジークの言うことを聞かなかったからジークに迷惑かけて……は、反省しているわ」
「お嬢様……」
「だから……今日の罰ゲームの命令通り、明日もあんたと遊ぶ。そして私も楽しむから……よ、よろしく」
恥ずかしさが勝りそうだったが、何とか思いを口にすることが出来た。そして心の中に潜んでいた何かが消え、少し気が楽になった。
「お嬢様……このジーク、必ず期待に応えて見せます」
私は口元を少し緩ませ、ジークから見えない角度で笑みを溢す。ジークの顔は見えないが、口調からして笑みを浮かべているのが予想できる。
私はパンの耳をつつき終えた2匹の鳥を飛ばし、煌々と輝いている月を眺める。その時、ジークが何かを感じ、私を引き寄せ、地面に転がっていた石を屋敷の屋根めがけて投げる。
「ど、どうしたの? いきなり引っ張って……」
ジークは数秒間、口を開けることなく、石を投げた方向を睨みつけていた。
(……手応えがない。気のせいか?)
「ねえ! ジークってば!!」
「あ、失礼しました」
「もう! ……もう少し、ここにいましょうか」
「はい」
◇◇◇
ミストレーヴ家から百メートル程離れた軍事用の見晴台にて、ワインを片手にミーナとジークの様子を見ていたサロミアとエディックは、突如飛んできた石に驚き、腰を抜かしていた。
「石投げてくるなんて……」
「どんだけ肩強いんだよ」
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