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吸血鬼の薬4

 ジークから鬼神の性能を聞いた私は、暴走していたときの記憶を呼び起こす。


「全てを無効……なるほどね。だから私のフレア・ソードが消えたのね」


「フレア・ソード? あの炎の剣ですか?」


「ずっと名付けていなかったけど、せっかく持っている力だもん。名前を付けてあげないとね。変かな?」


「いえ。良いと思いますよ」


 敬語を使い始めたジークに違和感を覚えた私は、周囲を見渡す。


 絶対近くに誰かいるはず。


「強力な力だけど、ジークさんはその力を乱用しないよ。ミーナちゃん」


 突如背後に現れたシャフリは、私に話しかけながら抱きつく。

 いきなりのことに驚いた私は、体をビクつかせ、抱きつくシャフリを引き剥がそうとする。


「いきなり現れて抱きつかないでよ!! ビックリするじゃない!!」


 私の顔を見て満足げな表情を浮かべたシャフリは、数秒経った後、私からゆっくり離れる。


「……元気そうで良かった。ミーナちゃん」


 心の底から嬉しがっているシャフリを見て、私はずっと言いたかった言葉を口にする。


「……アンタにも迷惑かけたわね。シャフリ。ありがとう」


「ううん。私は何もしていないよ」


「でも、アンタは狙撃される私を庇ってくれた。命の恩人よ」


「ミーナちゃん……」


 私が笑うとシャフリも笑う。


 改めて私は周囲に恵まれたのだと思う。だからこそ、恩返しをしたい。


「ここに来たって事は、例の薬のこと?」


「うん。そうだね。詳しく調べたいから、ミーナちゃんの血液を採取させて欲しいんだけど……少し時間もらっても良いかな?」


「構わないわ。さっさとやって終わらせましょ……え? 今なんて言った?」


「少し時間もらっても良いかなって」


「違う。その前」


「ミーナちゃんの体を詳しく調べたいから、血液を……」


「血液採取ってことは……注射?」


 シャフリは笑みを浮べたままコクリと頷き、私は顔を青ざめさせる。


「い、いやああああぁぁぁぁッ!!」


「み、ミーナちゃん!?」

「お嬢様?」


 思わず私はジークの後ろに隠れ、叫んだ理由を口にする。


「ちゅ……注射は嫌」


『え?』


 ジークとシャフリが声を重ねる。


「だって……痛いし、皮膚に針が刺さる光景は……ああッ!! 考えただけでもおぞましい……」


「大げさだよ。ちょっとチクッとするだけだよ」


「それが嫌なの!! ねぇ……ジーク」


 ジークに助けを求めるが、ジークは苦笑いを浮べて、私の手を握る。


「我慢……しましょうか」


「いやぁ……嫌よッ!!」


 手を握られていても、構うことなく逃げ出そうとするが、ジークは手を離さなかった。


「おおッ!? 結構な力で振りほどこうとしますね……諦めてください。お嬢様」


「さあ、ミーナちゃん……お部屋に行きましょうか? 準備は出来ているよ」


 この時だけ、私以上に2人が悪魔に見えた。


「だ、誰か助けてええぇぇッ!!」




 ◇◇◇




 試験管5本分の血液を抜かれた私は、机に突っ伏していた。


「これだけあれば十分だね。ありがとう、ミーナちゃん」


「ううッ……まだ痛い。止血の絆創膏が痛々しい……ジークぅ。何とかして」


「よく頑張りました。お嬢様。頑張ったお嬢様には紅茶とお菓子をご用意しております」


 顔を上げ、テーブルの上に置かれている紅茶とお菓子を見た私は、姿勢を正し、ティーカップを手に取る。


「まずは久しぶりの紅茶から……相変わらず、最高の紅茶ね」


 紅茶の感想を口にしながら私はクッキーとワッフルに手をかける。


 手が止まらない私を見て、シャフリとジークが小声で会話する。


「結構暴れられましたけど、最初から紅茶とお菓子で釣れば良かったんじゃ……」


「自分もそう思いますが……まあ、ご満足そうにしているので、結果オーライです」


「そこッ!! コソコソ話さない!! 罰としてお茶に付き合いなさい!!」


「自分は仮にも業務中でして……」


「私は帰って血液を調べないと……血ってすぐ固まってしまうじゃない?」


「ダメよ。2人とも付き合いなさい。お茶は1人で楽しむものじゃないわよ。四の五の言わず付き合いなさい」


「それって……」

「なるほど。そう言うのであれば業務の1つとしてお供します」


 注射は痛かったけど……紅茶とお菓子を口にして気持ちが落ち着いた。


 この2人とは……もうしばらく一緒にいたい。




 ◇◇◇




 時は少し遡り、王宮のとある部屋にて、リギルは知らせを待っていた。

 

 しかし、待てども待てども望んでいる知らせは入ってこなかった。


「……遅い。予定していた計画から24時間経っているぞ。一体ヤツらは何をしているのだ?」


 ソファーに腰を下ろし、イラつきながら脚を組む。


 すると部屋の扉がノックされ、ようやく来たかと笑みを浮べる。


「リギル様。失礼します」


「構わん、入れ。それで、どうなった?」


 部屋に入ってきた兵士は震えた声でリギルに報告する。


「そ、それが……計画は失敗に終わり、3人とも……殺されたとのことです」


 結果を聞いたリギルはガラスコップを壁に投げつける。ガラスが割れる音に驚いた兵士は体をビクつかせ、顔を青ざめさせる。


「おのれ……ミストレーヴめ。調子に乗るなよッ!!」


 激昂するリギルだが、再び扉がノックされ、怒りを抑えながら扉の向こうにいる人物の入室を許可する。


「リギル様。失礼します」


「なんだ?」


「たった今、ヨハネス王が王位を退くことを明言しました」


「そうか……」


「継承式の日程は未だに不明ですが、恐らく……」


 リギルは再びソファーに座り、脚を組む。


「間違いなく後継は、あのガキだろうな。まあいい。形だけの王位なんかくれてやるよ。俺は……」


「アレ……ですね。時間は掛かりましたが、保管されているであろう場所は特定しました」


「本当か?」


「ええ。厳重な警備に、聖騎士が2名。間違いは無いでしょう」


「そうか……分かった」


 兵士2人を退出させ、リギルは粉々に割れたガラスコップを踏みにじる。


「いよいよだ。最高の継承式にしてやるよ」


 狂気じみた笑い声が、不気味に響く。

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伊澄ユウイチです!


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