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吸血鬼の薬3

 爽やかな風が流れ、心地よさを感じる中、中庭にてジークと父エディックが対峙する。


「ちょ、ちょっと!! 一体何を!?」


「なーに。少し体を動かしたい気分なんだ。気にしないでくれ」


 笑みを浮べて拳をポキポキ鳴らす父。


「旦那様の言うとおりです。お嬢様。少し下がっていてください。口出し、手出しは無用です」


 作業用の手袋を外したジークが、父に準備完了であることを伝える。


「……見極めさせてもらうぞ。君がミーナに相応しい人物かどうか」


「見極め……いただきます!」


 会話を終えた途端、2人は引き寄せられるように拳と拳をぶつけ、受けては反撃、受けては反撃を繰り返す。


「は、速い……」


 集中して見ていないと2人の姿を見失ってしまうほどの速さ。


 思わず私は口を開けて驚いていたが、当の2人は心なしか笑っているように見えた。


「速い上に中々重い拳だね。だけど、僕だって!!」


 父の拳が来ることを予測できたジークは、両腕で防御する。


 しかし、気迫は人を強くするのか、攻撃を防いだジークが勢い良く後退する。


「くッ……暗殺者を引退とは思えないほど力技。前々から思っていましたが、隠れて調整していましたね?」


「さあ? どうかな?」


 父の容赦ない殴打を冷静に捌くジーク。何度か反撃していたが、父の隙のない攻撃が上回り始める。


「そこだ」


 ジークの脇腹に横蹴りが入り、ジークは顔を歪めながら横に吹き飛ぶ。


「ぐッ……結構深く入ってしまいましたね」


「流石だジークくん。攻撃を食らう瞬間、飛ばされる方向に跳んで威力を抑えたね。だけど、ダメージが入っていないわけじゃないね」


 脇腹を庇っているジークに対し、父はさらに追い打ちをかける。


 先ほどの蹴りが効いていたのか、ジークは反撃することが出来ず、父の拳、蹴りを受け流すばかりだった。


「ジーク……」


 正直、どちらも応援したい気持ちだったが、防戦一方で苦しんでいるジークを見て、思わず私は声を漏らす。


「正直ガッカリだよ、ジークくん。何故、鬼神を使わない? 使えば状況を覆せるかもしれないよ?」


「それは……」


「……もう少し張り合ってくれると思っていたけど、残念だ」


 父の姿が消え、一瞬にしてジークの目の前に現れ拳を振るう。あまりにも直球過ぎる攻撃に、ジークは判断が遅れる。


 ジークが負ける……そう思った瞬間、私の口は勝手に動いていた。


「ジークッ!!」


 私の叫び声と共に、父の拳がジークの額に接触する。鈍い音が響き、間に合わなかったと知った私は目を逸らす。


 しかし、ジークが倒れることはなく、異変に気づいた父がジークから離れる。


「何だと!?」


「え?」


 ジークの額から黒い炎が溢れ、やがて両手にも黒い炎が灯る。


「ありがとうございます。お嬢様。ようやく決心がつきました」


「ジーク……」


「やっと使ってくれたね……鬼神」


 父は再び構え、ジークは自分の拳を見て軽く笑みを浮べる。


「今度はこっちの番です」


 ジークが言葉を言い切る前に、父の腹部にジークの拳が当たる。一瞬の出来事過ぎて、攻撃を受けた父ですら驚きを隠せなかった。


「カハッ!! な、なんだ……速……すぎる」


「速いだけではありませんよ」


 蹲っている父の顔面に、ジークは寸止めで拳を振るう。拳が当たってもないのに父が吹き飛び、屋敷の壁にめり込む。


「嘘……」


「マジかよ……寸止めで、この威力かよ……」


 壁にめり込んでいる父に歩み寄るジーク。動けない父は負けを認めたのか、もがくことすらしなかった。


「そこまで。そこまでよ……ジーク」


 私は2人の間に立ち、ジークにこれ以上の攻撃はやめるよう指示する。


「お嬢様」


「これ以上はやめて。父の顔に拳を近づけた瞬間、苦しそうな顔をした。もう……やめよう?」


 ジークは纏っている黒い炎を消し、深く息を吐く。


「……フフ。アッハッハッハ!!」


 壁にめり込んでいた父が自力で脱出し、満面の笑みを浮べてジークと私に歩み寄る。


「参ったよ。実力が違いすぎるって思い知らされたよ」


「旦那様……」


「もう少しやれると思っていたけど……まさか瞬殺されるとはなぁ。ちょっと自信なくしちゃうよ」


 服に付着した砂埃を払った父はジークに握手を求める。


「え?」


「最初から認めるつもりだったけど、君ならミーナを任せられるよ。よろしく頼むよ」


 父はジークの瞳を見つめ、想いを受け止めたジークは父の手を握る。


「必ず……ご期待に添えます」


 握手を終えた父は、満足げな表情を浮かべ、去って行った。


「ジーク! 大丈夫だった? 結構嫌な音がしていたけど……」


「心配いらないよ。脇腹はそこまで痛まないし、額は鬼神で防御したので無傷だよ」


「鬼神? あの黒い炎?」


「丁度良い機会です。お嬢様にも話しましょうか」




 ◇◇◇




「イツツ……明らかに手を抜いてもらっていたのに、痛すぎる」


「あら? 無様ね」


「さ、サロミアちゃん!?」


 執務室に戻ろうとしていたエディックは、突如現れたサロミアに声を掛けられ、怯えた表情を浮かべる。


「あ、あの~、これはその~、休憩で……」


「私に嘘をつくとは良い度胸じゃない。おおよそ、父としての威厳を見せるために、勝負を挑んだんでしょう?」


「ギクッ!!」


「全く……くだらないわね」


 硬直しているエディックの手を優しく握るサロミア。急接近してきたサロミアの顔を見て、エディックは思わず頬を赤に染める。


「え?」


「無茶しないでよ……貴方は私にとって、大切な人なんだから」


「サロミアちゃん……」


「手当てしてあげるわ。こっちに来て」


「……ありがとう。サロミア」


 呼び捨てで呼ばれたサロミアは顔を赤くするが、満面の笑みを浮べてエディックの手を引く。

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伊澄ユウイチです!


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