吸血鬼の薬2
母の提案を受け入れてからさらに3日経ち、私は久しぶりにジャージに袖を通し、中庭にてジークと対面する。
「よろしいのですか? まだ病み上がりでしょう?」
「良いの。それに決めたことを体の都合で後回しにするのは主義じゃないの」
ジークは笑みを浮べ、手袋をはめ直す。
「それでは体術の基本から教えましょう」
ジークの動きを真似するように私も体を動かす。
何故ジークから体術を教わっているのかというと、数時間前。
◇◇◇
「……結構動けるようになってきた」
ベッドから体を起こし、脚や腕を軽く動かす。自分の手を見つめ、ある覚悟を決めて拳を作る。
「……ジーク。いる?」
私の声に反応するように扉がノックされ、ジークが部屋の中に入ってくる。
「呼んだかな? ミーナ」
「呼んだ。アンタにお願いがあるんだけど……良いかな?」
「お願い? 一体どんな……」
覚悟を決めた拳をジークに差し出し、私は思いを口にする。
「私に体術を教えて欲しいの」
「体術? 何故?」
「決まっているでしょ? 暴走を押さえ込むためにも心身共に鍛えたいの。出来上がる薬もどんなものか分からないし、出来るだけ体を作っておきたいの。それと……アンタは素手で私の暴走を止めたでしょ? どうかな? 教えてくれないかな?」
それに……みんなを守るには1日でも早く力をつけないと。
ジークは手を顎に当て、数秒ほど考え込む。
「……正直なところ、無理はして欲しくないし、体術は魔法と違ってセンス以上に努力が大切になる」
「それでも……それでも、お願いしたい」
18年間引きこもっていた私にとって、苦行であることは明確。だけど、甘えるわけにはいかない。
「……分かった」
私の覚悟を察したジークが折れる。
「ただし。教えるとなると甘さは捨てます。よろしいのですね?」
「お願い」
◇◇◇
ゆっくり腕や足を伸ばし、慣れない態勢をとり続ける私は足下がフラつく。
「う……わ! ほっと!」
「かかとを地面につけないでください。常につま先で立つことを意識してください。ほら、少し早く動いていますよ」
「分かってるけど、これまた……わッ!!」
バランスを崩した私は尻もちをつき、痛みに耐える。
「イツツッ……」
「まだ基本の一部しか終わってませんよ。早く立ってください。次々行きましょう」
真剣な表情を浮かべるジークを見て、私は歯を食いしばり、立ち上がる。
「次……お願い」
◇◇◇
「……ミーナちゃんは何をしているんですか?」
中庭で体術を教わっているミーナを見たシャフリは、執務室で寛いでいるサロミアに尋ねる。
「心身共に鍛えるために、ジークくんから体術を教わっているそうよ」
「それは理解できますが……まだ病み上がりですよ? 止めないんですか?」
「止めたって無駄よ。昔から決めたことは曲げない子だから。ジークくんの次はソフィアちゃんと剣の練習ですって」
「そう……ですか」
シャフリは呆れ顔を浮べ、サロミアの向かいに座る。
「それで……頼んでいる物の進捗状況は?」
「結局の所、ミーナちゃんの血液を調べないと先に進めない状況です。時間がとれれば採血したいのですが……」
「大丈夫だと思うけど……今日は夕方まで無理そうね」
「そうですね……」
数秒の沈黙が訪れ、サロミアと一切視線を合わせようとしないシャフリ。それに気づいたサロミアはシャフリの隣に移動し、頬をつつく。
「魔法薬の開発。嫌だった?」
「いえ……ミーナちゃんが選んだことなら、私は協力しますけど……」
再び視線を下に向けるシャフリ。そんな彼女を見て、サロミアは笑みを浮べる。
「本当……貴女ってお母さんとそっくりね」
「え?」
「友人の事となると真剣に考え、意見を尊重するくせに思い詰める。全く一緒よ」
「サロミア……さん?」
「お父さんからお母さんのことをあまり聞かされていないでしょ? 思い出に浸りながらで良ければ、少しお話ししましょうか?」
「お母さんの……はい! 是非聞かせてください!」
いつもの明るいシャフリの笑みを見られたサロミアはコクリと頷く。
「話しのお供に……紅茶が必要ね」
「ですね!」
◇◇◇
「はい。今日はそこまでです。お疲れ様です」
「はぁ~……結構辛いわね」
体術の練習を終えた私は地面に背をつけ、青く広がる空を見つめる。
「基本が大事ってのは分かるけど……意識することが多いわね」
「お気持ちは分かります。ですが、基本をしっかりしていないと、最後詰めが甘くなります。今日教えたこと全て、厳かにしてはいけないものばかりです」
「はーい。よっと……」
上半身を起こした私はジークを見つめ、改めて感謝を述べる。
「ありがとね。そして、次も頼むわ」
「こちらこそです。何でも聞いてくださいね」
「そろそろ良い時間ね。申し訳ないけど、ソフィアを呼んできてくれる?」
「……いえ。しばらくそのまま休憩しててください。お嬢様」
何かを感じ取ったジークが笑みを浮べる。そして、私もジークが感じ取ったものを感じる。
「何? この鋭く突き刺さる感覚は……」
「面白そうなことをしているじゃないか。2人とも」
私たちに声を掛けてきたのは父、エディックだった。
「お父……さん?」
父から溢れ出る何か。私は正体が分からず、首を傾げるが、ジークはそれが何か分かっていた。
「ジークくん。僕と勝負しないかい?」
「勝負……ですか。殺気が漏れていますよ?」
2人は笑みを浮べつつ、お互いに歩み寄る。
「え? 殺気?」
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