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吸血鬼の薬1

 代替の部屋に戻った私は、ジークにサポートしてもらいながらベッドの上で横になる。


「大分歩けるようになったけど、ありがとね」


「いえ。気にしないでください」


「むぅ……また敬語」


「いえ。今は二人っきりではないので……」


 ジークが首を横に振った瞬間、扉がノックされ、聞き覚えのある声が聞こえる。


「ミーナちゃん? 入ってもいい?」


「奥様ですね。いかがなさいますか?」


 母……か。


「丁度良かった。入ってもらって。話したいことがあったから」


「承知しました」


 ジークが扉を開け、母は私の顔を見た瞬間、笑みを浮べる。


「元気そうね。良かった」


「お母さん……ごめん」


「良いのよ。吸血鬼なら誰もが通る道よ」


「そう……だけど。今まで私を止めてくれて……見捨てないでくれて、ありがとう」


 照れることなく、素直に出た言葉だが、私は母から目を逸らし、自分の手を見つめる。


「見捨てるわけないでしょ。だって……貴女は私とエディックの大切な娘だもの。あまり気にしないで」


 若干涙で視界が霞んだが、指で拭い、母に笑みを見せる。


「うん!」


「ジークくんには感謝しかないわね。ミーナちゃんを立ち直らせてくれて」


「いえ。自分は当然のことをしたまでです。ところで奥様。お嬢様の様子を見に来ただけではありませんよね?」


「あら? バレてた? 流石ジークくんね」


 母に茶化されたジークは少し苦笑いを浮べ、本題に入るよう促す。


「立ち直って回復に向かっている最中だけど、ミーナちゃんにお願い……というか提案があるのだけど」


「提案?」


 母はジークが用意した椅子に座り、脚を組みながら話を続ける。


「いつでも吸血鬼になれる薬があったら……飲みたい?」


「え?」


 突然何を言ってくるの?


「奥様。その提案は……」


「ジーク、待って」


 口を挟もうとするジークを止め、私は母の目を見つめる。


「今さっき思いついたことじゃないんでしょ? 理由を聞かせて」


「あら? いつもなら即答するのに……どうしたの?」


「良いから言って」


 一瞬呆けた母だが、コホンと咳をし、理由を口にする。


「理由は2つあるわ。1つは護身用よ。いざって時に頼りになるのは自分の力よ。魔法しか使えない人間の姿よりも、吸血鬼の姿なら自分を守ることが出来るわ」


「それには同意ね。ある程度は使えるようにはなったけど、それでも魔法は苦手ね。それに、吸血鬼になれば飛べるし、早く動くことが出来る……で? 2つ目の理由は?」


「2つ目は自我を保てるための練習。貴女の暴走は、吸血鬼の姿で他人の血を見ることによって起きてしまうわ」


 なるほど……言いたいことはなんとなく分かった。


「荒療治って訳ではないけど、吸血鬼の姿である時間を出来るだけ長くして、慣れて欲しいの」


 母の意見を聞いた私は言葉を返そうとするが、決心が付かず、シーツを握りしめる。


「お嬢様。自分は賛成です」


「ジーク……」


「奥様の言っていることは一理あります。暴走するリスクはあるかもしれませんが、克服するチャンスでもあります」


「でも、またみんなを傷つけてしまうかもしれないし……」


 ジークは私の肩に手を置き、笑みを浮べる。


「先ほど、暴走するリスクがあると言いましたが、お嬢様は暴走しません」


「え?」


「自分が傍にいます。仮に暴走しそうになっても、また自分が血を捧げます」


 笑みを浮べるジークの瞳から真剣味が感じられ、私は揺らいでいた思いを固める。


「私は……みんなを守るって決めたの。そのためには、自分と向き合うしかないと思っているわ。だから……信じるわよ。その言葉」


「はい! 自分もお嬢様が暴走を克服できると信じています」


 私とジークのやりとりを見守っていた母は笑みを浮べ、ゆっくりと立ち上がる。


「理想の答えを聞けて嬉しいわ。答えを聞く前に、見切り発車でシャフリちゃんに薬を作ってって頼んでいるの。近々来るはずだからよろしくね」


 私たちに背を向けて部屋から出て行こうとする母。久しぶりに見た母の背中は、どこか気高さを感じ、目を奪われる。


「あ、あのさ……」


「ん? どうかしたの?」


「わ、私も……お母さんみたいな吸血鬼になれるの?」


 すると母はクスクスと笑い、私に向き直る。


「それは無理ね」


 あっさりと否定したことにより、私は目を丸くし、ジークは苦笑いを浮べる。


「貴女は半分人間で半分吸血鬼。2つの種族の素晴らしい部分を持って生まれた存在。ただ、今は上手く扱えないだけ。振り回されているだけ。寝起きの状態なだけ。だけど、その力がちゃんと目覚めて、貴女のものになれば……私なんか遠く及ばないわ」


「え?」


「長居しすぎたわね。明日には貴女の部屋が直っているわ。辛いかもしれないけど、気が向いたら戻りなさいね」


 今度こそ母は出て行き、私は閉ざされた扉を見つめ続ける。


「ジーク……お母さん。最後なんて?」


「さあ? 良く聞き取れませんでしたね」


 バカジーク。本当はしっかり聞こえていたでしょ?


「ですが……本当に良かったのですか?」


「気持ちに変わりはないわ。逃げるだけの私はやめたわ。あと……」


 私はジークの顔を見つめ、目が合った瞬間、目を細める。


「いかがなさいましたか?」


「……また敬語使っている」


 二人っきりであると気づいたジークは、照れくさそうに笑みを浮べる。


「そうだね。ミーナ」

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