生きる意味1
「吸血鬼であること? サロミアさん……言っている意味が」
「あら? 言葉の通りよ。シャフリちゃん」
「吸血鬼であること……自分自身が吸血鬼であることを認めると言うことですか?」
「流石ジークくん! 正解ね! 自分が吸血鬼であることを認めることで、眠っている力を十二分に発揮することが出来るわ」
笑みを浮べて説明するサロミアとは対照的に、ジークの表情は曇っていた。
「それでは……お嬢様には人間を捨ててもらうしかないと言うことですか?」
ジークの一言でシャフリとエディックは動揺し、ジークの視線の先にいるサロミアは表情を崩すことなくジークを見つめる。
「お嬢様は人間であり、吸血鬼であることは重々承知しています。ですが、今のお嬢様にどちらで生きていくかを選択していただくのは酷だと思います」
「全くね。私も同感よ」
「それでは、何故そのようなことを?」
「ジークくん。貴方は勘違いしているようだから言っておくけど、私はミーナちゃんに選択させる気はないわよ。今まで通り、人間らしく生きてもらいたいし、吸血鬼としても生きてもらいたいと思っているわ。だけど……」
視線を落としたサロミアを見て、ジークは目を細める。
「今のあの子には荷が重すぎるわね。私だってもう若くないし、いつまで暴れる娘を止めることは出来ないわ。エディックだってそうよ。私たちに出来ることは、もうすべてやってあげたわ。そして、まだ足りないところを補うのは貴方しか出来ないわ。ジークくん」
立ち上がったサロミアは片膝をつき、ジークに対して深々と頭を下げた。
「お、奥様!?」
「勝手なことだと分かっているけど、貴方が頼りよ。今のミーナちゃんは貴方を必要としている。ワガママで口が悪く、反抗的だけど、優しくて可愛い我が娘を……頼みます。支えてあげてください。そして……人間が望む、吸血鬼が望む幸せを」
突然の出来事にジークは目を丸くしたが、脳裏に自分を呼んでいるミーナの顔が浮かび上がり、深く息を吸ったジークは片膝をついて、答えを述べる。
「従者としてあるまじきことですが、自分はミーナ・アリスト・ミストレーヴ様を愛しております。許しをいただき、ありがとうございます。必ず、奥様……いえ、お義母様のご期待に添えられるよう努力し、ミーナ様を幸せにします」
言葉を言い切った瞬間、ジークは立ち上がり、呆然としているシャフリとエディックに構うことなく、足早に部屋を出て行った。
「あ、あの……サロミアちゃん? 今のは?」
「状況に付いていけません……」
顔を上げたサロミアは再び笑みを浮べ、ソファーに座り込む。
「ウフフ……見てもらった通りよ。さあ……2人はもうしばらく私のお茶に付き合ってもらうわ。あ、バルディゴも呼びましょう。話したいことがあるからね」
未だ理解できない2人は難しい表情を浮かべながら、紅茶を飲むサロミアを見つめる。
◇◇◇
幻覚や幻聴が未だに治まらない私は、部屋の隅でシーツにくるまっていた。
「お願い……お願い……もう、許して」
その場に存在しない何かに対して、私はずっと謝り続けていた。
響き渡る自分の声。次第に視界が霞み、私はゆっくりと床に転がる。
「もう……やめて。どうすれば良いの?」
涙が頬に流れ、乾いた唇をやっとの思いで動かす。瞼が重くなり、片方の目は閉ざされてしまう。
ああ……このまま死ねれば良いのに。
開いている片目も閉じようとしたその時、扉のドアノブが動く音が聞こえ、首を動かさず視線だけを向ける。
誰かが入ってこようとしている。でも鍵はかけているはず。入ってこれるはずが……。
「失礼しますね。鬼神」
扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえ、施錠していたはずの扉が開く。
「お嬢様……」
部屋に入ってきたのはジークだった。私はジークに顔を見られないように、シーツで顔を隠し、気力を振り絞って声を出す。
「出て行きなさい。どうやって入ったかは分からないけど……命令よ。早く出て行きなさい。ジーク」
私の声が聞こえていないのか、ジークは一向に部屋から出て行くことなく、転がっている私を見つめる。
「聞こえなかったの? ジーク」
しかし、ジークから言葉が返ってくることはなく、足音だけが部屋に響き渡る。そして、私の前に来たジークはしゃがみ込み、優しい口調で私に話しかける。
「お嬢様……しばらく一緒にいても良いですか?」
お願い……ジーク。お願いだから……出て行って。
「目障りよ。気分が悪いの。1人にさせて」
しかし、ジークは食下がってくる。
「その命令には従えません。お嬢様」
どう……して?
「いい加減にして!! 出て行ってって言ってるでしょ!? 何で出て行かないの!?」
咄嗟にジークの胸ぐらを掴む私。しかし、夢の中の映像がフラッシュバックし、掴んでいるジークの服をゆっくり離す。
「……お願い。私は……もう」
「お嬢様。どうか気をしっかり持ってください。そして、前を……上を見てください」
「無理よ」
「お嬢様」
「無理なのよ」
「出来ます。お嬢様なら」
「しつこいわよ……私はもう、無理なの」
「ミーナッ!!」
初めて聞いたジークの大声に、思わず私は体をビクつかせ、視線をジークの顔に向ける。
声からして怒っているのかと思っていたが、ジークの顔は……笑っていた。
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