事後処理3
シャフリを連れたジークは見晴台でパンを千切っていた。
「皆さんお待たせしました。お嬢様の代わりに来ましたよ」
「チュン!!」
ジークの掌にあるパンをつつく小鳥。その様子を見守りながら、シャフリは口を開ける。
「ジークさん。聞きたいことがあるんですよね?」
ジークはシャフリに背を向けたまま、言葉を返す。
「昨晩、シャフリ様は狙撃されたお嬢様を庇いましたよね? どうして分かったのですか?」
銃弾がかすった腕をソッと撫でるシャフリ。ジークの隣に立ち、愛用している眼鏡を外し、ジークに手渡す。
「この眼鏡は……かなりぼやけて見えますね」
「その眼鏡は視力を抑制する特別な眼鏡なんです。父曰く、母と同じ目を私は持っているそうです」
「お母様と?」
「はい。超視力……最大1キロ先まで鮮明に見える事が出来ます。それに加え、動体視力、深視力も他の人とは桁違いです。昨日は狙撃スコープのレンズが月の光で反射しているのが見えました。それで咄嗟にミーナちゃんを押し倒したのですが……詰めの甘さが出てしまって、ミーナちゃんが……」
「シャフリ様が悔やむことはありません。シャフリ様のお陰で、お嬢様は無事で済みました。寧ろ感謝していますよ。今回の件は全て自分の責任なんです」
「そんな……ジークさんは何も」
「いえ。自分の考えた作戦が裏目に出てしまったのです。戻れるなら……あの時に戻って、リスクが低い作戦を提案すれば良かったと思います」
「やめてください!!」
突然の大声に小鳥たちは驚き、一斉に飛び立ち、ジークはシャフリに押し倒される。
「ジークさんの作戦に賛同したのはみんなです!! ジークさんは悪くありません!! ミーナちゃんの暴走だって、みんな自分に責任があると思っていますよ!! それなのに責任は全部自分にあるだなんて……ミーナちゃんが聞いていたら、ミーナちゃんは悲しみますよ!!」
「シャフリ……様」
涙を浮べながら真剣な眼差しでシャフリに見つめられたジークは、瞼を閉じ、シャフリに頼み事をする。
「シャフリ様……1発、お願いしても宜しいですか?」
「え?」
ジークは自分の頬を指差し、ビンタしてくれと頼む。
「い、嫌ですよッ!! 一体どういうことなんですかッ!?」
「ケジメをつけます。1発、叩いていただければ、この話を終わりにします。悔やむこともしません。シャフリ様、お願いします」
真面目な表情を浮かべるジークから一度は視線を逸らすシャフリだが、覚悟を決めて手を振り上げる。
乾いた音が響き渡り、ジークはビンタしてくれたシャフリの手を優しく握る。
「ありがとうございます。シャフリ様。お陰で目が覚めました」
「……前から思っていましたけど、変な人ですね。ジークさんって」
「ハハハ……以前、お嬢様にも似たようなことを言われました。ですが、お陰で吹っ切れました」
シャフリはジークの手を引っ張り、上体を起こす手伝いをする。
起き上がったジークは服に付いた汚れをはたき落とし、笑みを浮べながらシャフリに眼鏡をかける。
「戻りましょうか。お嬢様のところに」
「……はい」
見晴台を後にしようとした瞬間、屋敷から悲鳴が聞こえ、シャフリとジークは顔を合わせる。
「今の悲鳴は……」
「ミーナちゃんの……声」
「急ぎましょう!シャフリ様」
「はい!!」
◇◇◇
何ここ?
真っ暗で……冷たい。いや、熱くなった? 狭い……広くなっていく? 一体ここは?
意識がはっきりする中、私は暗闇の空間で横になっていた。
体は……少し動ける。でも、速く動けない。息は出来る。でも深く吸うことは出来ない。自由が利きそうで、利かないのが少し腹が立つ。
やっとの思いで立ち上がると、私の前に小さな光の球体が舞い降りてくる。
「何? これ?」
球体は私の周囲を不規則な動きで回り、とある方向に向かって飛んでいき、ピョンピョンと跳ねる。
「付いて来いって事?」
立ち上がるのもやっとなのに……なんなのよ。
一歩一歩、しっかり前に足を踏み出し、光の球体を追っていく。
数分ほど歩くと、光の球体は停滞し、私も歩を止める。私が追いついたのを確認した光の球体は、私の背後に回り、私は光の球体がいた方向に目を向ける。
「これは……全身鏡?」
突如現れた鏡。近づいて調べてみるが、特に変わった所がない普通の鏡。
鏡に触れようとした瞬間、背後に何かが動き、咄嗟に振り向く。
「だ、誰!?」
背後にいるはずの光の球体はなく、代わりにある人物が私に背を向けて佇んでいた。
恐怖で逃げ出したかったが、意を決してその人物の姿を見ようと近づく。少しずつ特徴が見え、全貌を確認した私は、思わず口を開け、目を丸くする。
「え……わ、私?」
背後にいたのは吸血鬼状態の私だった。
私の声に反応したソイツは、ゆっくり振り向き、私との距離をさらに詰める。手を伸ばせば触れられる距離まで近づき、ソイツは閉じていた口を開ける。
「時が来た。お前は……全てを知らなければならない」
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