あなたの不幸買います
くたびれたシャツを着た男性が夜の街を歩いている
些細なことから仕事を辞め、その後も定職につかずぶらぶらと過ごしとうとう貯金も底を尽きかけていた
恋人はいたが、いつまでも定職につかない男性に愛想を尽かして離れてしまった
男性は今後の資金繰りをどうしようかと悩みながら歩いているところ、路地裏に怪しげなお店があるのを見つける
「あなたの不幸買います」
そう看板が立てかけられてる怪しげな建物に男性は訝しがりながらも興味を持ち中に入っていく
中には顔をローブで隠して腰かけている人物がいた
見た目からでは年齢も性別も判断ができない
すると「いらっしゃいませ」と声かけられる
男性は不幸を買うとのことだがどういうことかと尋ねる
相手はなんのことはない、ただあなたが体験した不幸な話を聞かせてもらいその不幸の度合いに合わせて対価を支払うというのだ言う
男性はますます怪しく思ったが、相手は小説家か何かで話のネタをこうして聞いているのかと推測した
そして、自分の仕事を辞めた話、恋人に振られた話、貯金が尽きて今の生活が立ち行かないことを店主とおぼしき相手に話した
店主はその話を大層喜びながら聞いていた
自分の不幸話を喜びながら聞かれるというのは少し腹が立ったが店主は聞き上手であったので途中でやめることはせず、また、自分も誰かに愚痴を言えるというのは嬉しくもあり最後まで話した
店主は話を聞き終えた後にとても満足そうにしながら、これが今の話に対する対価ですと言い私に封筒を差し出した
中身を確認すると中には10万もの金が入っていた
話した量は多かったかもしれないが、内容的にはありふれた話
それでもこれほどの大金が一度に手に入ったことに男性は驚いた
店主は「また不幸なことがありましたらぜひご来店ください、ぜひお待ちしております」と告げた
男性は思わぬ収穫にとても満足し店を出た
それから2か月もらった金が尽き男性はまたお金に悩んだ
そこで、また例の店に向かうことした
店主は久しぶりの来訪でも男性のことを覚えており、また来店してくれたことを歓迎してくれた
しかし、前回からたった2か月ではたいして不幸なことなど起こらない
ギャンブルで負けた、急な雨に打たれて濡れたなど些細なことだ
それでも店主は興味深く話を聞いてくれる
話終わったあと、前回の様に店主が「こちらは対価です」と封筒を差し出してくる
中身を確認すると金額は5000円だ
あの程度の内容でそれだけもらえるだけでも十分だが前回の金額から考えるととても少ない
これでは1週間持つか持たないか、その間にまた新たな不幸話を探さなければならない
店主は「それではまたのご来店をお待ちしております」と告げる
家に帰り男性は考える
どうやって新たな不幸を集めるか、家の中にいるよりは外にいた方が不幸な目にあう可能性は高いがその分お金がかかる頻度も上がる
それで不幸な体験がなければ大損である
男性は悩みに悩む、気晴らしにとテレビを点けると夜のニュースがやっている
ニュースでは政治の問題や話題のニュースなどが取り上げられている
話題のニュースの中には去年家族全員を刺殺した男性の初公判が行われたと報道されていた
この事件は市内で起きたニュースで事件当初はとても話題になっていた
犯人の男性は捕まった当初、俺はなんて不幸なんだと自身を嘆いたらしい
当時は何を言ってるだこの男はと思ったが、今ではその不幸という言葉に思うところが出る
「まさかな・・・」
男性はバカな考えだと否定するが、身内が死ぬのは当事者にとっては大きな不幸だなと思った
数日後、男性の住む市内で放火事件が起きたというニュースが報道された