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貴方の側に置いてください  作者: 茶納福
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準備と僕


「えっと、どうしようか?」


一旦寮の自分の部屋へ戻ってきた僕たち、時間は10時半を少し回った所だ。

今は部屋の中心にある机に向かい合う形で座りながら今後の活動方針を話し合っている。


「そうですね、せっかく時間もあることですし

まずは食事をしてから考えると言うのはどうでしょう?」

「あぁ、確かにそうだね」


朝は時間がなくごはんを食べる余裕はなかった

焦ったり走ったりして身体は空腹を覚えている

何か腹に入れなければそれこそ身体を壊すと言うものだ。


「あ、そうですね……マスター1つお願いがあるのですが」

「え、なになに?」


イグニカさんからの提案が気になり僕は身体を前に傾け食いぎみに聞く。


「外に出るのであれば服と下着が必要かと思いまして」

「……あ」


そういえば急いでいて問題を棚上げにしていた。

今彼女は僕のシャツとズボンを履いているがこれは男性用の物だ

更に言えば僕の身長は160cm

対してイグニカさんは170cm位

大きめのサイズを買ったとは言えそれでも胸の部分は性別の違いで差がある。

力を込めればはち切れそうな状態だ。


「マスターが良いなら裸でも私はよいのですけど」

「それは、ぜぇッたいダメ!!」


裸の女性を連れて一緒に出掛ける何て事をすれば即座に警察の方に捕まってしまう。


つまりイグニカさんの服を手に入れなければ一緒に出掛けることが出来ない。

そこから導き出された答えは


〈僕が彼女の服と下着を……買いにいく〉

「マスター大丈夫です

たとえどんなデザインや用途の物を買ってきても私は喜んで着ますよ」

「……いやそういうことじゃなくて、ッて言うかそんなの買わないよ!」

「チッ」

「……はぁ」


僕の返答に明らかに不満を示す彼女の表情に僕はため息で返す。

だが折角のチャンス、出来れば彼女と共に過ごしたい

しかしその為には僕が女性用の服と下着を独りで買いに行く必要がある。


「ならば一緒に行きましょう、そうすれば解決ではないですか」

「だからそれが出来れば苦労は……って、イグニカさん?」


とんちんかんな事を言う彼女に少しの怒りを込めて反論で返そうと前を向く。


しかしそこに彼女の姿は無かった。


「えッ!? え? え? イグニカさん!?」

「ご心配なく目の前におりますよ」

「ど、どこに?」


僕は眼を擦り瞼を開閉しもう一度目の前をじっくり観察する

しかし彼女の姿はやはりなく机とその先にある部屋の壁しか見えない。


「目の前におりますよ、こちらへいらしてみてください」


目の前から聴こえる彼女の言葉に疑問を残しながらも従い

机に手をついてゆっくりと前へ身体を乗り出す。

赤ん坊がするハイハイの様に前に少しずつ進んでいく。


「あんッ」


すると柔らかい感触と共に艶のある声が目の前から聴こえそのまま顔を抱き締められた。


「んむッ」

「いましたでしょ?」


声と共にしっとり柔らかく張りのある膨らみのものがここに彼女の存在を証明していた。


「って!? イグニカさん服は!?」

「着ておりますよ?」

「あからさまに嘘付くなぁ!!」


平然と嘘をつく彼女を僕は出せる限りの全力を持って糾弾した。



「と言うわけで私が透明になってマスターに付いていけばマスターも独りではないですし服も選びやすいのではないでしょうか」

「確かにそうなんだけど単純に僕は女性物の服を買うのが恥ずかしいから変わらないんだよ

一緒だとしてもイグニカさんは透明だから傍から見たら僕は独りな訳だし」

「マスター、今後の人生を豊かにする為には一時の恥を堪え忍ぶことも必要です」

「良いこと言ってるのに顔が笑ってるから説得力ないよ」

「これは失礼を」


人が透明になる異常を見て本来なら驚くはずが

そんな状況を受け入れながら彼女との会話を楽しんでいる自分にこそ、僕は驚いていた。


「ですのでまずは食事をしてその後一緒に買い物と遊びに行きましょう」

「うん」


そう言うとまずはイグニカさんは冷蔵庫の方へ向かう

僕も食事の準備を手伝おうと付いていく。


立ち上がり彼女に続いて行こうとした時あることに気がついた。


〈姿が見えないとは言っても、裸のイグニカさんを連れて歩くんだよな……〉

「裸の女性を側に侍らせて歩くなんて男のロマンではないですか?」

「僕はそこまで変態じゃない!!」


裸で歩く本人の方が服を着て歩く僕より落ち着いてるなんて間違ってると思う。

そんな事を考えながら僕らは冷蔵庫の扉を開けた。


「……」

「ん? どうしたのイグニカさん」


彼女は冷蔵庫の扉を開けた姿のまま突然ピタリと静止した

僕が呼ぶ声にも反応せず黙ったままでいる。


「……マスター」

「うん?」


彼女は錆び付いたネジ同士が擦れ合う様に断続的に動きながらこちらを振り向く

口の端をひきつらせながら焦点の揺れる瞳で僕の顔を見る。


「お昼は外食にいたしましょう」

「え? 何で?」

「なん、で?」

「うん?」


僕の言葉を聴き再度即座に冷蔵庫の扉を開き中を確認する

そしてまたも口の端をひきつらせながら僕の顔を見た。


「せッせっかく遊びに行くのですから、私も外食は初めてなので一緒に初体験といきましょう」

「何か言い方がいやらしいけど、うん!」

「ありがとうございます」


僕の了承の返事を聞き彼女は胸を撫で下ろす

その光景とさっきの冷蔵庫を見たときの反応が気になり僕は疑問符が頭に浮かぶ。


〈どうしたんだろ? レ◯ドブ◯苦手だったのかな?〉


注意

彼は日頃働きすぎているため通常の人の食事傾向と著しく齟齬が存在します。



「確かにマスターの顔色はよろしくないと思っておりました……

これを食事と思っている程だとは……よく今まで生きてこられたと感心してしまうレベルです

このままでは本当に身体を壊しても不思議じゃありません

早急な生活改善が必要です……よし、そうです! そうしましょう!!」


彼女は探偵が思考する時の様な格好でぼそぼそと呟きながら頭を捻ったり頷いたりを繰り返し

ぐっと両手を固く握りしめて立ち上がり決意を感じる口調で自分に言い聞かせていた。


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