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貴方の側に置いてください  作者: 茶納福
42/44

番外編 芹澤絵茉と一日デート 後編


僕は絵茉さんに手を引かれるまま階段を降りていく

階段では流石に転けそうになったので絵茉さんも途中で気づいて離してくれた。


その時に


「私も緊張してる、初めての事だから」


と言っていた


それを聴き、僕と同じだねと答えると

あそこまで変に緊張はしてないと即返された。


手厳しいなと呟くとふっと笑ってくれた

たったそれだけの事なのに何か嬉しくて僕も頬が緩んだ。



階段を降りると僕と絵茉さんは寮の入り口で掃除を終えた功寺さんに会い挨拶を交わした。


「おや?おはよう潮くん、と芹澤さん」

「おはようございます、功寺さん」

「どうも」


僕らを見るや功寺さんはニコリと笑って


「ウチは門限とか無いけど、あまり遅くならないようにね」

「? 」


その言葉に僕は首をひねる


「おや?違うのかい、デートだと思ったんだが」

「そうです」

「あ」


気付くのが遅れた僕は口を開け

功寺さんの疑問に即座の解答を返す絵茉さん


「彼女さんに言わせるなんて、潮くんもまだまだだね」

「あはは……」


軽く嗜められてしまった


「それじゃあ、失礼します」


そう言って僕の手を再び引き絵茉さんが歩き出す


「行ってらっしゃい、楽しんでおいで」

「あぁッはい、行ってきます」


引きづられながらの何とも締まらないまま挨拶を交わし僕らは学生寮を後にした。




「さて、まずどうする? 」


商店街の広場に着いた絵茉さんはこれからの予定を尋ねてきた

時刻は11時半を回った所、時間的に考えれば昼食が視野に入ってくる時間だ。


「絵茉さん、お腹は空いてる? 」

「ん、多少」


表情から察するにまだ食事に乗り気ではないようだ

ならば何かレクリエーションを経由するのが良いと考える


とすると


「絵茉さん、ゲームセンターに付き合ってくれないかな? 」

「ゲーセン?お前がか」


僕の言葉に驚きの表情を見せる絵茉さん

確かに普段の僕なら絶対に行かない。


「行ったことないから、行ってみたくッて」

「……」


そう言う僕の顔をジッと見つめる絵茉さん

懐疑的な視線を僕に向けながら絵茉さんは続けた。


「私はさっき言ったぞ、いつも通りのお前でいいと」


絵茉さんのその言葉に僕は一瞬考えた

僕のいつも通りってなんだろうと


だが直ぐに答えは出た。



「僕、知らない事ばっかりでさ

今迄は余裕も無くて何にもやってこなかった

でもある人に助けてもらって、そこから色々変わってったんだ

そしたら色んな事に興味が出てきてさ……うん、だから……」

「……」


絵茉さんは僕の言葉の続きをじっと待って

急かすことも聞き流すこともせず、ただじっと待ってくれている。


「これも、僕のいつも通りだよ」

「ならいい」


そう言うと絵茉さんは一人で歩き出した


「ぁ」


何言ってんだ僕は突然

急に自分の話をして気持ち悪い

後悔の念が頭を支配し動けなくなった。


「どうした? 」

「……ッ……」


目を伏せ蹲りそうになった僕の視線に合わせ絵茉さんが話しかけてきた。


それに目を逸らしそうになると顔をペチペチと叩かれる


「行くぞ」

「? 」

「ゲーセンだよ、行くんだろ? 」

「ぁ」

「なんだ、さっきの話は嘘か? 」

「ううん!ホントだよ」

「なら行くぞ、早くしないと飯の時間が遅くなる」

「ぅん」

「こっちだ」


そう言って僕の手を再び引いて歩き出す

その行為に目頭が熱くなり視界が少しだけ滲み目を擦る


「花粉症か? 」

「もう季節じゃないよ」

「花粉は年中舞うんだぞ」

「嘘!? 」


僕は本当に知らない事ばかりだったようだ。





バンッバンッ……


「そこ、右下の樽に回復アイテムあるから撃て」

「あッはい」

「バカ!?そこは敵がいる扉だ!挟撃されるだろうが」

「ごッごめ、あ……」

「あ……」


ドンドドドカッカッカッ……


「やるか? 」

「う、うん」


………………


「はッはッはッふッぜぇッ……」

「……」


ゴーーーールッ


「……」


ブゥーーーーッ


「……」


……


…………


………………



「…………」

「お前、ゲーム下手だな」

「弁明のしようもないです」


ゲームセンターに来てから2人でやれるゲーム全てで僕はボロボロの成績を叩き出していた

恐らくここのゲームセンターのワースト記録を塗り替えてるんじゃないかと言えるレベルで


「何か得意な物とか無いのか? 」

「……思い付かないです」

「んーなら、お? 」


落ち込む僕の為に何かないかと探す絵茉さんの目が1つのゲームに止まる。


「これはまだ試してなかったな」

「これって、格闘ゲーム? 」


それは所謂対戦格闘ゲームというやつで

画面の中では2人のキャラクターが闘っている映像が流れていた。


「こいつは最初にチュートリアルがあってそこで少し練習できる

こいつなら出来るだろ、難易度を上げなきゃストーリーモードはヌルゲーだからな」

「そ、そうなんだ」

「一回やってみろ」


言われるがままゲームをスタートする。


「初めてだからコイツがおすすめかな

弱中強の射程も長いし戻りも速い

対戦でこいつ使う奴はチキンだな」

「な、何かヤダなそれ」

「そうか?ならコイツだな、ゴリゴリの近接タイプで動きは遅いけど一撃が強い

こいつを使う奴は対戦だと多いな」

「なら、それで」

「ぁ」


僕は筋肉がムキムキなフランケンシュタインの様なキャラクターを選択した。


「……」


〈こいつガチの上級者向けのキャラなんだが……まぁいいか〉


心の中でそんな事を考える絵茉さんを他所に

僕はチュートリアルの練習モードを開始する。


「よッこのッ、んッ」

「……」


〈へぇ、こいつのコンボ出しづらいのにビギナーズラックってやつか〉


僕はゲームキャラが指定してくるコンボを何とかこなしていく

その様子を少し嬉しそうに見る絵茉さん


そして



WINNER!!


「……勝っちゃった」

「やるじゃん」

「うん!ありがとう絵茉さん」


僕は無事NORMALモードをクリアすることが出来た。



「さて、じゃあ」

「ん? 」


すると絵茉さんが僕の向かいの台へ移動する。


「絵茉さん? 」

「対戦すっぞ」

「ぇえ!? 」


CHALLENGER!!


僕の画面にCHALLENGERの文字が表示される。


「えッ絵茉さん、いくら何でも」

「見てたらウズウズしてきてな、手加減するから大丈夫だよ」

「そんなぁ」


GO!!


そうこう言ってる内に対戦が開始された。


「ボケっとするなよ、行くぞ」

「……ぇえい、もぅ!! 」


……


「お、やるなッ」

「うわッく、この」


…………


「あぁ!?てめッ人が下手に出てりゃ」

「ぁあッごめん」

「謝んな!! 」


………………


LOSE!!


「…………」


WINNER!!


「…………」


〈……勝っちゃった〉



チラリと向かいの台の絵茉さんを見る

俯いて顔は確認できないがぷるぷると身体が震えている。


「あ、あの?絵茉さん」


CHALLENGER!!


「え!? 」


再び僕の画面にCHALLENGERの文字が

、しかもこのキャラクターって



「えッ絵茉さん、このキャラ対戦じゃ使わないって」

「……さい」

「え」

「うるさい!!」

「理不尽!? 」


GO!!


その試合は開始10秒程で僕のキャラクターが何も出来ず無限空中コンボで血祭りにされる凄惨な結果となった。




「……」

「はい、絵茉さん」

「……」

「大丈夫気にしてないから、たかがゲームだし」

「ぐッ」


あの後僕を3回ほど血祭りに上げた絵茉さんは我に返りゲームセンターの外に出た

僕もそれを追って近くの公園で捕まえ今は公園内の木陰のベンチで休んでいた。



「たかがゲーム……たかがゲーム……」 「いや!?そういう意味じゃなくて

誰でも負けたら悔しいしあれぐらい誰でもなるよ」

「……」

「絵茉さん」

「……」


僕が対応に悩み空を仰ぐ

その際公園の真ん中にある時計に目が止まる

時刻は15時になろうとしていた。


「……絵茉さん、お腹空かない? 」

「え?」

「僕お腹空いちゃって」

「私は……」


ぐぅ~ッ


「ぁ……」

「ちょうど良かったみたいだね」

「……」

「何かリクエストある? 」

「……」


絵茉さんが携帯を取り出し何かを検索し始めた

数秒して何処かを示すマップを見せてきた。


「ここに行こうってことで良いかな? 」


僕の問いに絵茉さんは首を縦に振った


「了解」


僕は絵茉さんの手を取り地図の地点を目指して歩き出した

その時後ろから何か声が聴こえたが地図を見て行き方を考えている僕には届いていなかった。





「へい!!お待ちぃ!!!!」


ドゴンッッ


「   」


グツグツッごわわッ……


「ダイナミックチョモランマ血の池ラーメンです!!」


……

…………

………………ん?ナニコレ?



植木鉢と見間違う器に積み上げられた野菜達

それを護る様にチャーシューの砦と大砲の如く設置された煮玉子

その下には水を入れた油の様に弾ける赤いスープに負けない存在感のごん太麺


もう一度言う……ナニコレ?



「絵茉ちゃんタイマー行くぜ」

「ん」

「今日こそ女王の記録を塗り替えてくれよ!! 」

「任せて」

「ほら彼氏さんも応援して!! 」

「ぇッあ、がッ頑張って」

「ん」


え?絵茉さんコレ食べるの?……これをぉ!?


「それじゃぁッよーい……スタート!! 」

「ッツ!!」


ガッガッモリッベシャッズババゴリッ……



「………………」



公園を出て絵茉さんの携帯に表示された道を辿った僕らはあるラーメン屋に着いた。


ラーメン屋 地獄豚[じごくとん]

商店街の通りからは外れた場所にあるものの

お昼時を過ぎても客足が無くなっていなかった辺り知る人ぞ知る人気店といった感じなのだろう……すごい店名が気になるけど。


お店に入ると景気のいい声と共に歓迎してくれる店員と店主

まぁお客を歓迎するのはお店なんだから当たり前かもしれないが

迫力に反して威圧感は無く凄いアットホームな感じなのだ……商品名がすごいけど。


壁にかかっているメニューを見ると何故か全部に地獄の名前が付いていた

お店の雰囲気とマッチしない商品名に僕が呆気にとられていると


「いつもの」


絵茉さんは常連客が良く言うやつで店員に注文する

初めて見たが目の前でやられるとカッコよく見えるな

いつか自分もやってみたいものだ。


「「「「かしこまりましたァ!!」」」」

「「「「「ぉおおおおおお!!」」」」」


先程の絵茉さんの言葉に店員だけでなくお客さんまでが反応する

突然の歓声に僕はびっくりして耳を押さえる。


店全体が慌ただしく動き始め

お客さんまでもが僕と絵茉さん、正確には絵茉さんの周りを囲む様に椅子持ってきたり立ち始める。


「え?え?え? 」


僕はただただ慌てふためくだけで

絵茉さんは何も言わずただジッと目をつぶって商品が来るのを待っていた。



その後は見ての通り

今絵茉さんは器の6割強を胃に収め水を飲んでいる

額には大粒の汗をかきうなじが光り輝いていた。


「おっちゃんタオル」

「あぃよ!!」


注文をして直ぐに冷えたタオルが届けられる

その間も絵茉さんは猛スピードで器の中身を空にしていく


しかしその顔には焦りの色と疲れ

そして暑さに苦しんでいるが見て取れた。


「ッ!!」


それを見て僕は意識せずにタオルで絵茉さんの顔と首の汗を拭き残ったタオルを首にかけた。


「……」


本来真剣に戦っている者の顔を他人が拭くなど邪魔にしかならないのかもしれないが無意識に体が動いてしまった


すると


カランッ


器の中身をほぼ完食し終えた絵茉さんが箸を置き顔を上げる

首にかかったタオルで額を拭き僕の方を見た。


「ナイスアシスト」

「ッツ!!」


瞬間、器を持ち上げ中のスープを飲み込んでいく

それを見ながら店主がタイマーと絵茉さんを交互に見ながら身体を震わせる

僕も周りのお客さんも店員も、皆が皆絵茉さんの一挙手一投足を見逃さない様目を見開き最後の瞬間を見届ける


そして


ゴドンッ!!


絵茉さんが器を置いた、中身は空


「ん!! 」

「ョシッ!! 」


カチッ


タイマーが止まる


「おやじ!! 」「結果は!? 」……


お客さん達が口々に結果を問いただす

そして店主の口が開く


「結果は……」


……


…………


………………



「3秒オーバー、か」


そう、結果はお店の記録保持者の時間に3秒及ばず2位

それでもあの化け物ラーメンを食べ切ったんだから十分凄いと思う


「……」


けど、見ていたら僕まで熱くなって

2位と言う結果に不満を感じ悔しいと思っている自分がいた。



ドスッ


「んッんッ……ッはァ」


僕の横に絵茉さんが座り、自販機で買ってきた水を飲んでいる。


その横顔は先程の様に真剣な顔ではないがやり切った者の晴れやかな、後味の良い顔とでも言えばいいのか

とにかく、何となく見惚れてしまっていた。


「見るな、すけべ」

「ッあ、ごめん」

「嘘だ、別に良いッんッ……プハッ」


少しの間僕らは黙っていた

そして絵茉さんの方から口を開いた。


「あの店な、私の行きつけなんだ」

「そうだよね、いつものって言ってたし」

「あぁ」

「ちなみに、いつも……あれ食べてるの? 」

「毎日じゃないぞ?2日に1回くらいだ」

「すご……」


〈この身体の何処に入るんだホントに、凄いな人体〉


「あの店の記録保持者な、ウチの学校の先輩なんだ」

「え!?そうなの」

「そう、しかも女」

「うッそぉ……」


〈これは人体が凄いんじゃなくて女性がすごいのか? 〉


だが実際にここに記録保持者に後一歩まで肉迫した女生徒がいる事実がある以上

ありえないなんて事はありえないのだろう。


「私も最初はあんなもん食ってなかった」

「あんなもんッて、いやあんなもんだけどさ」

「ただある時にその先輩に会って目の前で完食する所を見たんだ

そしたら何か、私もってなったんだ」

「……」

「最初は全く食えなかった

そこから何度も何度も挑戦して今は何とか完食出来るようになった」


〈そのチャレンジ精神が凄い〉


「今回は後一歩だった、だから次は勝つ」

「うん、勝てるよ絵茉さんなら」

「ん」



そこから僕らは他愛のない話をしのんびりとした時間を過ごした


そして


「そろそろ帰るか」

「そうだね、結構遅くなっちゃったし」


携帯を確認すると時間は21時を刺そうとしていた。


「送るよ」

「え!?いいよ絵茉さんの帰りが遅くなっちゃうよ」

「良いんだよ」

「良くないよ!?女の人が夜に一人は駄目だよ」

「ぁあもう、うぜぇ」


そう言うと絵茉さんは僕の携帯を奪い取る


「え!?ちょっと」


驚く僕をよそに自分の携帯も取り出し

2つを同時に操作する絵茉さん


そしてしばらくすると


「ほら」

「?」


僕の携帯を返し画面を見せてくる

そこには電話帳の上の方に芹澤絵茉の文字が


「これって」

「お前を送ったら電話して帰ってやる

そうすりゃ安心だろ」

「え!?いや、そういう問題じゃ」

「うぜぇ、行くぞ」


そう言うと絵茉さんは一人で学生寮の方へ歩いていってしまう


「ぁあ、もぅ絵茉さん!! 」


絵茉さんはその後口を利いてくれず学生寮へ向かう坂に差し掛かってしまい僕は自分の言い分を諦めて黙って送ってもらう事にした。



「じゃ」

「……絵茉さん」

「? 」

「今日はありがとう、すごく楽しかった」

「……そ」


学生寮の前まで送ってもらった僕は

絵茉さんに今日のお礼を伝えた

絵茉さんの返事は素っ気ないものだったが口元は少しだけ笑っていた。


「……」


絵茉さんが見えなくなるまで見送った僕は寮に入ろうとした時電話のことを思い出した。


「……」


今更だが今迄電話なんてバイト先か学校くらいしかしたことが無い

ましてや女性になんて電話したことのない僕は

初めての試みに緊張しながらも電話帳を開き絵茉さんの番号にかける。



プルルルップルルルッ……



「……ほんとにかけてきやがった」



4コール程した後うんざりした声が携帯から聴こえてくる。


「えッあ、ごめん」

「そう思うならかけるな」

「ごッごめん、でも心配だし」

「はぁ……」


絵茉さんの疲れた声の後から会話が続かず沈黙が流れる


そして


「なぁ」

「は、はい」

「今日、ほんとに楽しかった? 」


それはいつもの口調とは違う

不安の色を纏った声音だった。


「え?……う、うん楽しかったよ」

「……私さ、学校で殆ど寝てるだろ」

「……うん」

「でもさ、たまに起きてると周りの声が耳に入ってくるの」

「……」


絵茉さんは続けた


「私に対してクラスの連中がどう思ってるかは大体知ってる

会話の出来ない起こすとキレる奴

まぁその通りだから何も言えないけど


「でも私だって会話がしたくないわけじゃない

面倒な奴だって自覚はあるさ

私だってこんな奴居たら付き合いたくないよ」


「……でもさ、こんな私をあんたら受け入れてくれた

あんたもあの学生会の暑苦しい奴も……

昨日のあんたらの会話私聞いてたんだよ」

「え!?うそ」

「ホントだよ」


あの会話が全部聴かれていた

思い出してみると結構恥ずかしい事を言っていた様な

思い出したら恥ずかしさで気が抜け携帯を落としそうなる。


「だから、今日デートしようって誘ったんだ

私も友達付き合いなんてしたこと無いから分からなくて

今日1日実は凄い緊張してたんだ」


「だから、私の事を知ってもらおうって

そしたらなんかテンパっちゃって

あんたは楽しかったって言ってたけど

不安になっちゃって……だから」


電話越しの声は震えていた

その声は歳相応の女の子の声で

とても儚く守ってあげないといけないと思えた。


「絵茉さんも一緒だったんだね」

「ぇ? 」

「僕も今日1日すッごい不安だった

何をすればいいとか何にも思いつかなくて

でも絵茉さんが色々連れて行ってくれて

本当に……本ッツ当に楽しかったんだよ、嘘じゃない」

「……ほんとか? 」

「ほんとだよ」


電話越しに聴こえてくる声は涙声になっていたが

僕はそれに誠心誠意本気で本心を伝えるつもりで答えた。


「……」

「……」


しばらくの沈黙の後、絵茉さんから帰ってきた言葉は


「ありがとう、金森」


感謝と初めて僕の事を呼んでくれた。


「うん」


……

…………

………………


「家、着いた」

「良かった」

「じゃ」

「うん、また学校で」

「ん」



ピッ



電話を切り、僕は学生寮の中へ入っていった

絵茉さんとの電話を終えた後も余韻というか妙な感覚が頭に残っていた。


それは決して嫌な感覚ではなく寧ろ心地良い、こう言うのをなんて言うのだろうか。


そんな事を考えながら僕は部屋の鍵を開けた


「ただいま「うしぉおおおおお!!」ァア!? 」


扉を開けるやいなやイグニカが僕にタックルをしながら縋り付いてきた


「どどどうしたのイグニカ「寂しかったでずぅ」」


ぅぉおおおん!!と僕の胸で女性なのに男泣きをしながらイグニカは今日1日は邪魔をしてはいけないと

家でおとなしくしていたら寂しさが大爆発してしまった事を話した。


「ごめん、イグニカ」

「……」


ヨシヨシと頭を撫でてイグニカを宥める

段々と落ち着き?を取り戻してきたのか泣きからのしゃっくりも治まり

今は部屋のベッドで僕の膝枕を受けている。


「イグニカ、大丈夫? 」

「……トしましょう」

「え? 」

「明日デートしましょう潮!! 」

「デート!? 」

「な、何ですか……あの娘は良くて私は駄目なんですか」


ワナワナとまた瞳に涙を浮かべるイグニカを前に僕は


「デートしよう!! 」


掌を返して即答した。





そしてイグニカとのデートを終えた次の日


月曜日週の始まりでありシャキッとしなければならない筈なのだが


「くぁあッ」


僕は前日前々日の疲れが抜けておらず盛大なあくびをかましていた。


「金森、またデカイあくびだな寝不足か? 」

「ぅん、ちょっとね」


てつの言葉にもボンヤリした声で返事をする


「待ってろ、眠気覚ましのコーヒー買ってきてやるよ」

「ごめんてつ、お願い」

「おう、待ってろ」


僕の為にてつが1階の自販機に向かおうとした時


「鉄、もうすぐ始まるよ」

「あ、もうこんな時間か……」

「金森、これ私のおすすめの眠気覚まし」

「ぁりがと……?」


そう言って声の主、芹澤絵茉さんは僕の隣の席に座った。


「……芹澤……今なんて? 」

「鉄、早く席に着いたほうがいいぞ」

「……せ、芹澤が俺の……事を……ぉお「うるさいわお前ら!!早く席に、鉄!?何してるんだそんな所で!!早く号令をかけろ」ッツはい!すみません!! 」


先生の一喝でてつが席に戻りHRが始まる

しかしその前に起きたとんでもない事のせいで生徒達は皆ソワソワしていた

いつもと違う空気を感じた先生は頭に?マークを浮かべる。



「楽しいな、金森」


その原因を作った人は僕の方を見てクスクスと笑っていた


いつもの様に両腕に顎を載せた姿勢で顔をこちらに向けて


番外編を書かせて頂き、且つ読んでいただきありがとうございます

今後もまた別の登場人物に焦点を当てた話を書くかもしれません

いつになるかは分かりませんがもしよければそれも読んで頂けますと感謝感激でございます


では次からは本編の更新をいたしますのでご期待ください、失礼いたしました。

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