覚醒と私
手を下ろし肉塊と化した彼女を見続ける少女
その瞳には僅かだが期待にも似た感情が窺える。
しかしそれもつかの間のこと
[…最後までなにもしなかったね]
ベッドから彼女だった物の前に立った少女は言葉を投げる。
その言葉には静寂が答える
少女は沈黙を返す彼女の頭部を蹴った。
無抵抗な首から嫌な音が鳴る
恐らく首の骨が折れたのだろう。
[…]
しばしその光景を見て少女は背を向け
部屋を見渡し再び3つの肉塊に視線を移す。
そして血と臓物で出来た道に血生臭い足音を起てながら
ベランダに向かって歩いていく。
[ ]
少女は歩みを止め180度向きを変えもう一度[彼女]の方を向く
その金色の瞳は潤み何かを望むように視線を向ける。
5秒…10秒…
無慈悲な静寂が時を刻む
幾ら待とうとも少女の望む事は起こらない。
[……ゥ]
少女は口から鳴き声を漏らす
[ッ…]
だが口をつぐみそれを止める
[…]
少女は今度こそ背を向けた。
最早この場所に用はない
少女の眼はそう言っていた。
[よくやった]
[!]
少女の意識に突然髪を引きちぎった様な異音と声が響く
その声は少女の頭を揺らし感覚を狂わせる程の情報量を有していた。
[、づ、ィ…]
聴こえた声は脳内で反復し
キンキンと何度も脳髄を震わせながら少女をさいなむ。
そして
[…?]
未だ頭から離れないうずきの様な痛み
それに耐えている最中、耳に入ってきた別の音
ガラスを摩り砕く様な響く不快な音
その音の発生源は少女の後ろからだった。
[ ]
少女は言葉を失いながら
ゆっくりと後ろへ振り向いた。
[パキン…パキッ、キュンッ…]
宙を舞う光が空間を走る度に
弾けながら幾つもの火花を散らす。
周囲を圧迫しながら徐々に勢いを増していく
まるで台風の様な中心に眼を向ける。
[カキャキャキャッ…]
キューブ状の細かい光体が
パズルの様に構築と分解を繰り返し続ける。
次第にそれは形を成し人の像を造り出していく
[…]
私はその光景をじっと見つめ、興奮と緊張からか喉を鳴らす。
[指定コード、純正化を開始、喪失への干渉開始]
突然電子音声の様に無機質な声が空間に浸透する。
その言葉に従うようにキューブ達は動きだし
人型に近付いていた光の集合体は
2m程の球形にその形態を変化させた。
[最なるものへの接続開始、完了
構成情報取得、完了、全工程完了]
球形の光から声が聞こえる
同時に球体はキューブ状の光に戻りまた宙に浮き始める。
違いがあるとすれば
[全拘束解除]
[長髪]のイグニカが鈍色の意匠が施された黒いボンテージスーツに身を包み
傷ひとつ無い金森潮を腕に抱え佇んでいた事だ。
[…]
イグニカが潮を見る
その瞳には以前の優しさは見られない
機械の様に無機質な視線を向ける。
そのまま彼をベッドへ運び
赤ん坊を寝かしつける母親の様にゆっくりと寝かせる。
そして
顔を少女の方へ向けそのまま立ち上がる。
[うひッ]
その顔を見て、少女は笑う。
その表情は少女へ一点に集約された敵意に溢れていた。
少女の表情もまた先程までと変わり
待ち望んだプレゼントを渡された子どものように無邪気に微笑む。
[…]
イグニカが全身を少女へと向ける
イグニカの周囲に浮いていたキューブが高音を発しながら輝きだす。
[彼女への接続完了]
その言葉を聴き、少女は動く。
少女の全身から紅い線の様な物が出現する
[エーテライザー起動、マニビュート展開]
発した言葉と共に少女の身体が発光する
その光はイグニカの光とは違い黒く淀んだ輝きを放っていた。
[実験素体番号CP[サイファー]002 イグニカ・ゼァンタ、執行開始]
[実験素体番号e.Qs[エイクァス]004 シーラ、攻勢開始]
二人ともに名乗りを上げる
そして少女は歓喜の表情で歓迎した。
[待ってたよ、お姉ちゃん]




