表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方の側に置いてください  作者: 茶納福
3/44

しもべと僕



「……」


「…………」


「…………?」


温かい熱が身体を通う

先程まで抜けていた熱が身体を巡っているのを感じる。

生きていると言う感覚を五感で全身で感じとる。


僕はゆっくりと眼を開けた

ボヤけた視界を凝らして定め輪郭を帯びた光景をみた。


それは天井、しかも見慣れた僕の部屋の天井だ。



「僕……のへや……?」


そんな事を呟き視界を横に持っていく。


そこに女性の裸体があった


「……」


そして僕を見つめる銀色の瞳があった。


「……?」


彼女は首をかしげる

僕も釣られて首をかしげる。


「……」


僕は飛び起きその勢いで掛け布団が落ちる


「ゥエ!?エ!??」


僕は変な声を上げながらベッドを足で踏み鳴らす


「え!足!ッ?」


僕は下半身へ眼を向ける

身体には傷一つなく見慣れた身体がそこにはあった。

唯一見慣れないと言えば自分も裸な事くらいだった。


「ッうぁ!?」


咄嗟に布団で身体を隠す


「お目覚めですか?」


丁寧に僕の目覚めを彼女は裸で聞いてきた。


「ぅえ、えっと、君は」

「はい」

〈な、何で?……え?〉

「それは貴方の命令を遂行する為に必要でしたので」


………


「……ぇ!?」


僕が考えていた疑問に対して彼女は返答を返してきた。

何が起きているのかと言う疑問だけが脳の処理速度を圧迫する。


「何で……」

「貴方が私を起動した際に誓約は理行しています

その後貴方から命令を受けたので相互パルスを獲得しました」

「……えっと、」

「要約すると私は貴方の考えが分かります、と言うことですね」

〈つまり考えが筒抜けってこと、だよな……ん?誓約?〉

「はい、貴方とは既に誓約を交わしています」

「それは、どういう」

「私が貴方のしもべになったと言えば、分かりやすいでしょうか?」

「……!?ッえーーー!?」


その後彼女の言っている事を理解するために5回聞き返し

現状を呑み込むのに10回ほど奇声を発した。



「えっと……」


平静を取り戻した僕は彼女と向かい合っている

取り敢えず彼女には掛け布団を渡しそれで身体を隠してもらうことにした

でなければ話をする所では無かったからだ。


「つまり貴女は僕のしもべになって僕が助けを求めたから身体を治してくれて

僕の財布に入ってた学生証と鍵を使ってここに運び込んだ、と」

「はい、その通りです」


実に分かりやすく明確な返答だ。


「いやいやいや!?僕死にかけてたよね?!

身体半分だったよね!?」

「それを私が肉体組成を解析し補填しました、何か違和感がございますか?」

「え、いや、ない、けども」

「でしたら良かったです」

「……」

「服なら汚れが酷かったので廃棄しました」

「……本当に心の中が読めるんだね」

「はい」


にわかに信じがたい事だが

事実身体は治っており彼女もまた目の前に居る

現在までの全てが妄想と言うにはそれこそ非現実的だと僕の感覚が訴えてくる。


「えっと、貴女は……」

「イグニカ」

「……イグニカ、さんは何であそこに縛られてたの?」


当然の疑問だった

今までの人生であんな現場はフィクションの世界でしか見たことがなく

そして正しくフィクションの様な現実と場面に自分が遭遇した

これらの事を彼女に問い質したいと思うのは当然の帰結だった。


「……私にも、分かりません」

「それは、記憶がないってこと?」

「そうですね」


彼女、イグニカさんは嘘を吐いているようには見えなかった

しかしこれであの場で起きた事は謎のままだ。


「申し訳ありません」

「ッいや、イグニカさんのせいじゃないよ」

「お力になれないのが歯痒いです」

「そんなことない!僕が助かったのはイグニカさんのお陰じゃないか」


そう本来であれば僕はあそこで命を落としていた

彼女の力無くして此処に居ることはありえなかった

彼女のお陰、それは偽りのない僕の本心だ。


「……ありがとうございます」


イグニカさんは僕に深々と頭を下げた。


「……えっとッと、とりあえずその、僕はどうすればいいのかな?」

「?」

「いや、その……イグニカさんは僕のしもべって言ってるけど

僕はそんな大した人間じゃないしその何か、イグニカさんに出来ることもないし、お給料とかも渡せないし」


何ともむず痒い気持ちになり話を逸らす

人に感謝されることなど滅多にない僕にとってこの状況はある種居心地が悪い


「何も要りません

私は貴方のしもべなのですから命令をしてくだされば何でも致します、と言うより勝手にお世話をします」

「あ……そ、そうなんだ」


僕にそう返答した後

何かを思い出したように彼女は首をかしげる。


「……そうですね、1つだけお願いをしてもよろしいですか?」


そう言って僕を真剣な面持ちで見つめる彼女に

僕も少し緊張して向かい合う。


「ぅ……うん、僕に出来ることなら」


イグニカさんは僕をしっかりと見つめ正座した姿勢で言葉を紡いた。


「マスターと呼んでも宜しいでしょうか?」

「……へ?」

「マスターと呼ばせてください」

「……」

「だめ、でしょうか?」

「ぅ……」

「だめ、なのですね……」


彼女が言葉と共に悲しみを吐いた

証拠に彼女の瞳には涙の雫が浮かんでいた。


「ッあ!いや大丈夫だよ!全然!バッチこいだよ

〈こんな美人にマスターとか嬉しいけど倫理的にどうなの?大丈夫?〉

寧ろ呼ばれたくてウズウズしてた位だよ、うん!!」


出来る限り素早く彼女への返答を口にする

喋りながら自分の中で言い訳と本音を口にすると言う離れ業をやった反動か肩で息をする羽目になってはいるが些細なことだろう。


「そうですか!ありがとうございます」

「はぁはッ……へ?」


意外な彼女の明るい返事に視線を上げると彼女の涙は止まっていた

その顔には悲しみの色は無く平然としながら笑顔で舌を見せていた。


「だ、騙したな!?」

「騙すなんて人聞きが悪いですよ

しもべ足るものマスターと呼ぶためには手段は選びません」


こうもいけしゃあしゃあと言われては馬鹿らしくなって反論する気も起きなかった。


「それでは、マスター改めて

実験素体番号CP[サイファー]002イグニカ

マスターのしもべとして

これより、いつ以下なる時も貴方の望みを叶え貴方を守り

そして貴方に従うことを誓約致します」

「あ……えっと金守潮です、よろしく……イグニカさん」

「はい、よろしくお願いします」


先程までとうって変わり真面目な態度で宣言された言葉に

僕も了承の言葉で返答を返した

その言葉を聴いた彼女の顔はとても綺麗な笑顔だった。


そして彼女は僕の左手を取り、僕の薬指にキスをした。


「!?」


僕は餌を待つ鯉の様に口を開閉して

イグニカさんの唇と僕の指を交互に見た


「従属の儀式です……指を舐めても構いませんよ?」

「そ、そんな事考えてないから!」

「本当ですか?」

「本当だよ!!あと心読むの禁止!」

「その命令は受理できません」

「な、何で!」

「そうしなければ、マスターの望みを叶えられないからです諦めてください」

「そ、そんなぁ」


四六時中常に思考が筒抜けと言う事実に

今後の気の抜けない生活を想像し頭痛を覚える


「それではマスターこれからどう致しますか?

洗顔から致しますか?それともまずは湯船に浸かりますか?

まずは朝食から?それとも排泄を?」

「わーッ待って、ストップそんな一辺に言わないで」

「はい」

「ええっと、」


嬉しそうにしかし鬼気迫る勢いで彼女は僕に命令を求めてきた

それに慌てる僕の制止を聞き止まってくれはしたものの未だ彼女はうずうずとしている、まるで犬のようだ。


「……?」


ふと今日の日付と時間が気になり僕はすぐさま携帯を探す

ポッケを探ろうとするが今は裸であるためポケットは無く探ろうとした右手は宙をかく


そんなあたふたする僕にイグニカさんが携帯を出してきた。


「あ、ありがと」

「いえ」


携帯を受け取り電源を付け時間を確認する

今日は5月12日水曜日、時計は8時55分を示していた。


僕は顔から血の気が引き

次いで口から言葉が飛び出していた。


「ヤバい!?遅刻!!」


すぐさま高速で思考を始める

今行うべき最適解を出そうと1つ1つ順序を立て何を切るべきかを弾き出していく。


そして計算を終えた僕はベッドから急いで降りて

丁度真正面にあるクローゼットへ移動し開けて制服を取り出す


〈朝食は無しで着替えたらそのままダッシュで学校に行けば何とかなる、はず!〉


「マスター」

「ッあぁはい!!」


ズボンを履こうとしていた僕をイグニカさんが呼び止める

急いでるとは言え返事が少し乱暴になってしまった


「まずは下着を履いてからの方が良いですよ」


気にしないでくださいと言わんばかりに

イグニカさんは笑顔でこちらを向き僕のトランクスを持っていた。


「……」


半分履きかけていたズボンを脱ぎ

イグニカさんからトランクスを受けとった

瞬間に手が止まった。


「……マスター?どうなさいました」

「あ、えっと///」


立っている僕としゃがんでいる彼女

トランクスを受けとるためには必然視線は斜め下を向く

そうすると丁度彼女の首から下へ視線が下がりそのまま胸部へと視界がずれていく

彼女は今掛け布団を1枚纏っているだけの状態だ

自然と身体のラインが出てしまうのは仕方がない

故に……


「下腹部の勃起を確認しました」

「……言わないで」



その日

僕の世界に新たな同居人が増えた

その人は僕のしもべになった

僕はこれからどうなるのか

不安と期待が入り交じった経験したことのない生活が始まる。



そしてイグニカさんが

僕をマスターと呼んでからのはじめての命令は


「服を着てください///」


だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ