悪夢と僕
水音がする
なにか軽いものが水面に落ちるような
水気のある何かが地面を打つような。
[私]はぼんやりとした頭を精一杯起こし
眼を開き、まつ毛の間から見える光景を見た。
まず明るかった
目の前が明るかった
日光とは違う電球独特の灯り
白色の光が目の前から[私]を照らしていた。
その光の中に人影が見えた
[…、…]
その人影は何かを話しているが
遠いのか声が小さいのかこちらまでは聴こえない。
私はその人影に向かって歩き出した
虫が光に群がるように
まるで吸い込まれるように寄って行った。
ぞわり…
何故か悪寒がした
足が進むことを拒否し私は歩みを止めた。
惹かれる意識に対して
これ以上先に行ってはいけないと身体が警告してきた
まるで動物が災害を予期し大移動をするように本能が予感した。
だが
予感をしようとも
大移動をしようとも
泣こうが喚こうが祈ろうとも
起きるのが災害
まるで意思を持つように
意思が介在するように
こちらの努力を嘲笑うように起きるものである。
今回に至っては
それに意思があった。
[はい、]
人影はこちらへ近づき私に何かを差し出した
それは眩しく、何であるか確認できない
しかしそのモノに私は何ゆえか惹かれ
差し出されたモノを手に取る。
それはバスケットボール大程のモノだが少し重かった
予想を裏切った重さに
私は慌て両手で抱くように持つ。
ぴちゃッ
私の腕と顔に何かがかかった。
それと共にまた水音がした
それはこのモノから流れていた。
すると私の腕の内にあるモノが
徐々にその光を弱めていく。
[…]
最初に見えたのは黒
次いで黒ずんだ様な灰色
次いで段々とモノの輪郭が見えてくる。
凹凸があり3つ…いや5つの穴がある
小さいものが4つ、大きいものが1つ
その大きい穴には……歯が見えた。
錆びた鉄の様に赤い血染みが塗りたくられた歯が綺麗に整列している
少し上を見る、小さい穴と思っていたのは鼻だった
歯と同じく血で汚れていた。
そしてもう一組の穴は、眼であった
眼球はなく、奈落を見つめているような黒い穴がそこにはあった。
黒く見えたものは髪だった
さらさらと力なく垂れた髪は赤く斑に染まっていた。
弱まっていた光が遂にその力を失い
モノの全てが露になった
それは人の頭部
更に露になった顔には見覚えが、否見覚えしかなかった。
[ ]
眼球はなく、血色を失った灰色の肌に血染めの化粧をしたその人は
金森潮
私の最愛の家族
[ぅああアアアッ!!!?]
[いひッ]
叫び崩れる[私]を見て人影だった者は笑う
その口を裂けるほどに広げながら
身体を震わせ、仰ぐようにのけ反りながら
[僕]を見た。
[はっァ!?!]
浴槽の縁に預けていた身体が跳ね起きる
心臓の鼓動は早鐘の様に呼吸は浅く早く
只々全力で苦しさを助長する。
[はッはッはッ…]
見開いた眼は先程までの光景と目の前の光景を混視し続ける
肉体と精神が同時にパニックを起こし
現実への帰還を妨げていた。
[潮!?大丈夫ですか!!?]
イグニカが血相を変えて浴室へ入ってくる
直ぐ様僕の前まで来て、身体を優しく抱き締めた。
[潮、大丈夫です
落ち着いてください、大丈夫です…]
ギュッと抱き締めながら言葉をかけ続けてくれる
それだけで僕の心臓は平常なリズムを
呼吸は深くゆっくりと、その機能を徐々に正常化してくれる。
[はッ…ぁは、はぁはぁ……ふぅ]
10分程経ち
漸く息を落ち着け僕は現実へ帰ってきた。
[ありがと…イグニカ…]
疲労感に苛まれながらイグニカにお礼を言う
しかし、イグニカは僕の身体を離さずに
その顔を僕の顔に寄せる。
[…心配しました…]
[ごめん…]
[心配しました]
[ごめん]
[どうすれば良いのか分からなくなるくらい心配しました…]
[ありがとう]
[…よかった、本当に…よかったァ]
ぎゅぅッ
僕の頬に頬をくっつけ更に強く抱き締める
痛いほどに僕の存在を全身で確認してきた。




