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貴方の側に置いてください  作者: 茶納福
26/44

羞恥と僕


[潮、時間ですよ]

[ん、うん]


ご飯を食べイグニカと談笑した後

イグニカが膝枕をしたいと言い出し

流石にそれはと言ったのもつかの間

強引に捕まり膝枕されていた……勿論最高でした。


身を起こし軽く伸びをする

午後の授業開始5分前のチャイムが響く


[んんッ]


休憩後の授業、皆が一番眠くなる時間

それに拍車をかける様に次は柴先生の国語

催眠教師 柴と何か不名誉なあだ名まで付けられている

確実にクラスの大半は夢の住人だ。


[よしッ]

[頑張ってくださいね、潮]

[うん]


イグニカに背中を押され教室へ向かう。



屋上から階段で下の階へ歩いていく

2階の教室までは大体3分ほどで着く

柴先生は来るのが遅いので十分間に合う筈だ。


3階から2階へ下り角を曲がる


[おッ?][わッ!?]


すると角から女性徒の顔が見えた

双方ともに驚きの表情と声を上げる。


踏み込んだ足を捻り

何とか方向転換しようと努力する

しかし

そんな事が出来る運動能力は僕にはなく

努力虚しく、眼前に女性徒の顔が迫る。


〈ぶつかる!?〉

〈潮!〉


イグニカが動く

僕の肩を掴み後ろへ引いてくれた

端から見たら僕が勢い良くバックステップをしたように見えただろう。


そして、それは彼女も同じだった


[おっとッとと?]


眼前に居た筈の女性徒は、後ろへ移動していた

しかも見る限る数メートル


僕がイグニカに引いてもらった距離を差し引いても

少なくとも3メートルは後ろへ跳んでいた

ぶつからなくて良かったと言う感情よりも

その事実に僕は心を奪われた。


[ッ]


イグニカに引いてもらったとはいえ

多少無理な体勢からの移動だったので少し身体が痛い


驚きと痛みで身体をぐらつかせる僕

女性徒が安否を気遣って近づいてきた。


[ごめんねぇ、大丈夫?]


少し間延びした喋り方とその顔には見覚えがあった


[あ……はい大丈夫です]

[良かったぁ]


女性徒の正体は、眞島透さん

志摩君の彼女?さんだった。



[ごめんねぇ、私の注意力不足だったよぉ]

[いえ、それは僕の方ですよ]

[優しいねぇ、えっとぉ?]

[……金森潮です]


一瞬名前を名乗るのに躊躇する

向こうは僕の事を知っているが僕は面と向かって会うのは初めてだ

その事実を認識するのに一瞬タイムラグが生まれた。


[……へぇー]


僕の言葉を聞き、スッと眼を細め

獲物を見る獣の様なもしくは悪巧みをする様な

怪しい表情で僕の事をじっと見つめる。


[えっと……?]

[んにゃ、こっちの話だよぉ]

[はぁ……?]

[ぁあ、潮くんって何組?]

[1-2です]

[ッせ……志摩くんって今日学校来てるかな?]

[志摩くんですか?]

[うん]

[えっと、休んでますけど]

[……そっかぁ]


先程までとうって代わり沈んだ表情になる透さん

その雰囲気はご主人様を心配する犬を思わせた。


〈潮、後30秒で授業が始まります〉

〈あ〉


イグニカが時間を報せてくれる

先生が来る前に間に合っても

授業開始までに着席しておかないのは

印象的によろしくない


僕の表情の変化を察してか

ポケットから携帯を取り出す透さん


[あッちゃぁ、潮くんごめん]


時間を確認したのだろう

申し訳なさそうに頭を下げる。


[あッ大丈夫ですよ、走れば]

[そう言ってくれると助かりんご]

[それじゃぁ……えっと]

[眞島透だよぉん、こんな名前だけど女の子だよぉ]


そう言いながら自分の胸を手で押し上げてアピールする


[ッッツ]


反射的に眼を逸らして逃げる様に走り出す


[失礼します!!]

[にゃいにゃーい]


僕の背に猫語でばいばいと告げる透さん

胸の件と一緒で、からかわれてると分かってるのに

顔が赤くなるのが止められない


そしてそれを


〈……〉


イグニカに見られていたのが余計に拍車をかけていた


〈ッッッッツくそぉ!!〉


心の中で小さく叫び

四肢に力を込めて廊下を走る

残った安いプライドを燃料に最後の足掻きとひた走る。


しかし、その足掻きを諌める様に鳴る本鈴

その音を聴きながら全力で走るも

いつもより早く来ていた柴先生に軽く叱責され

いたたまれない気持ちのまま着席した。


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