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貴方の側に置いてください  作者: 茶納福
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予感と僕


日差しが差し込む真昼時、校舎に温もりが染み入ってくる

そんな温もりを吹きとばす様に購買では今日も戦争が繰り広げられている。



「おばちゃん! カツサンド3つ」

「はいよ!」

「フルーツサンド2つお願いします!」

「はいよ!」

「おばちゃん! 愛してるよ!! 超BLTサンド1つ!!」

「わかってるよ♪ ジャムパンおまけ」

「おい!? ざけんなババァ!! 俺もおまけしろ!!!」

「誰~れがババァだい!? 料金割り増し!! 380円だよ」

「ゲェッ!!?」etc……



3限が終わりお昼の時間

夜代高校には学食と購買がある

学食のメニューは美味しいのだがそれなりの値段で

お金のない学生からすると敷居が高い

それに比べて購買は安く量も多い商品が豊富なので

必然学生の多くはこちらへ群がる。


元々僕も購買派の人間だった

無論お金が無いため一番安い菓子パンを買い速攻で食べて

屋上で少しでも睡眠を取ると言う生活スタイルだった。



しかし今は


「わぁ」

「ふふん」


毎朝お弁当を作ってくれる女神様がいるのだ



髪をくすぐるように風が舞う

吹き付ける風にすら温かみを感じる優しい気候

正に長閑な春だ。


今僕らは本校舎の屋上にいる

お昼の時間にだけ開放されるここは僕にとっての憩いの場だ。


屋上の貯水塔の裏に僕らは座っている

ここならイグニカと普通に話していても風に紛れて聴こえない

相当大きな声を出せば話は別だろうが、わざわざそんな危険なチャレンジはしないし

姿を見せていても人が来る前に隠れる事が出来る。



「いただきます」

「はい、どうぞ」


箸を手に取りお弁当の中身を取り口に頬張る


「ッッッ生姜焼きうッま」

「今日の自信作です」


手が止まらない!う……旨すぎる!!

更にさっぱりとした梅と青じそのご飯が食欲を増進させ、そこにとどめの卵焼きだ


口の中で同じ味に飽きるのを妨げ

旨味を引き立てながら口内を幸せで満たしていく。


「ッ……」


幸せや……



「はい、潮」

「ありがと」


イグニカがお茶を入れたコップを渡してくれる

ふわっと優しい香りが鼻を抜ける


「ほっ……」


ゆる~っと身体に染みる味

心地よすぎてこのまま溶けてしまいそうだ。


………


隅に残っているお米などを箸で取り

中身を全て余すことなく食べ蓋を閉じる

心地よい満腹感が身体を包む


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」



イグニカお手製の料理を食べ始めて今日で5日目

彼女の料理に僕の胃袋否身体は完全に掌握されていた


一週間前まで栄養ドリンクを主食としてた僕が

今ではそんな物が不用な程の健康体を手に入れた。



「イグニカ、いつもありがとね」

「いえいえ、これもメイドの勤めです」



そう!

今イグニカはメイド服なのだ!!



事の発端は4日前の木曜日

イグニカとの初バイトが終わり部屋に戻って夕飯を食べ終わった時の事



「……潮」

「ん、どうしたの? イグニカ!」


ワナワナと肩を震わせながらイグニカは僕の名を呼んだ。


その様子を見た僕は心配になりイグニカの側に駆け寄った

すると彼女がバッと僕の方を向き泣きそうな顔で詰め寄ってきた。


「これですよ! これ!!」


イグニカが僕に何かを広げて見せる

それは……メイド服だった。


「……えっと?」

「潮、私達は家族です……」

「う、うん」

「ですが、私は貴方の従者です」

「うん?」

「だからそれに相応しい服装と言うものがあります」

「……」

「なので「着てみたいってこと?」……その通りです!」

「……」


〈初めからそう言えよ!?!?〉


心の中で盛大に突っ込んでしまった。



その後イグニカはすぐにメイド服に着替え僕の前に現れた


太もも部分には軽くスリットが入り

肩と胸部分が少し見えているデザイン

メイド服と言うには余りに扇状的……うん、最こwげふん!


今更だが恵さんのお店でこれを買うとなった時

引くわ~って言われた原因が良く分かった


これを女性にプレゼントする奴は絶対そう言うこと目的だ!!


「どう、ですか?」


ふりッふりッと僕の前で動くイグニカ

……正直綺麗だし何よりエr……ごほんッ


「……、…」


僕は言い繕えない情動からイグニカを直視できないでいた


「潮……見てはくれないのですか……?」


イグニカが顔を俯かせる

それを見た僕は慌ててイグニカの方を向く


「!、えッとッツ可愛いし!きれいだし……エ…し、似合ってる……」


瞬時に僕らの顔はゆでダコになった

感想を聴いたイグニカも感想を言った僕も

その反応を確認し余計に顔を紅潮させる。


「「……」」


そしてタイミングを合わせたように顔を伏せ

話が出来るようになるまでに1時間

相手を見れるようになるのに更に1時間

僕がイグニカのメイド姿に慣れるのに1日を要した。



「……」


幸せ……そう

今まで経験したことが無いほどに

毎日が充実し楽しく心穏やかに過ごせている、正に幸せ


いじめられることがなくなり

バイトに追われていた日々がなくなり

人と話す余裕を取り戻し


僕の事を護り支えてくれる家族がいる。


「?」


イグニカがこちらを見る

その瞳には僕が映っている


僕も彼女を見る

その瞳にはイグニカが映っている


「!」


イグニカが顔を赤らめ少し顔を逸らす

その状態で器用に眼だけを動かし僕の顔を見る


その行動に僕は笑顔を返す

それを見た彼女も少し視線を泳がせるも

すぐに僕の方へ向き直り


満点の笑顔を見せてくれた。


「「ッッツ」」


突風が僕らの顔を舐めるように大きく強く


そして優しく吹いた


神様が僕らの様子を見てイチャつくなと

横やりを入れてきたようだ。



幸せを感じる時

その時々で違えども人は満たされる

僕は今満たされていた……不安で


幸せに気付く時、それは

幸福と共に終わりを連れてくる

その事を僕は良く知っている


予感が心に忍び込み裏返る時をじっと待つ

コインの表と裏の様に


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