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貴方の側に置いてください  作者: 茶納福
17/44

苦手と僕



「はぁ……」

〈潮? どうしました〉


2限目の国語が終わり休憩時間が始まり皆が動き始める中

僕はテキストを机にしまいながらため息をついた。


心配そうな声で僕に話しかけるイグニカに理由を説明する。


「次の時間、体育なんだ……」

〈体育、運動をするのが嫌なのですか?〉

「……うん、身体動かすの得意じゃなくてさ]

〈そうなのですね〉


机に顔を伏せ更にため息をつく

逆に得意なものなんてあるのかと言われれば無いですと答えるしかないのだが


それでも運動系で今までドンケツしか取った事がないのだから

得意ではないと言って良いと思う。


そんなテンション駄々下がりの僕を見てイグニカはとても心配そうだ


「どうした? 金森」


そんな僕の様子を見にてつが来た


「てつ……いや、何でもない」

「何でもないは嘘だろ、その顔で」


口では嘘はつけても顔は正直なようだ


「……体育嫌だなって」

「……ぁー金森運動苦手だったな」


僕の思いを察してくれた様でてつの表情が苦くなる

てつの表情からしても体育の時の僕は目を見張る駄目さなのだろう


しかし

嫌だ嫌だと言っても時間はくるわけで……


「……着替えようかな」

「まぁ無理するなよ? キツかったら休めば良いし」

「ん」


頷きつつ体操服を持って移動する

他の皆は既に更衣室へ移動していて、残っていたのは僕らだけだった。



〈……〉


潮がてつと更衣室へ移動を開始する

それを一瞥しつつ誰も居なくなった教室で


イグニカは考えていた。


……


…………


…………そして



「……潮♪ 良い手を思いつきました」


ふふっと怪しく笑みを浮かべながら

イグニカは潮達の後を追った。





おかしい


そう思いながら僕は更衣室で着替えをしている

てつと一緒に少し遅れてきたので男子の殆どは居なかった

皆体育館に移動したのだろう。


そんな中先程から気になっていることが1つ


〈潮! 早く行きましょう!!〉


何故か妙に、みょ〜にイグニカが僕を急かしてくる


そんなに体育がみたいのか?

それとも

僕の運動音痴をみたいのか?


〈イグニカさっきからどうしたの?〉

〈いーぇー? なんにも~?〉


怪しすぎる!挙動言動全てが不審だ!!何か企んでいるな!?


〈イグニカ、改めてお願いするけど危ないことはしないでね?〉

〈大丈夫ですよぉ~心配しないでください〉


言葉に重みがない

明らかに心ここに非ずで話をしている。


「金森どうした? 行こうぜ」

「ぁ、うん」


3限目が始まる、イグニカの態度は怪しいが

教えてくれそうもないので一旦無視することにする


〈危ない事をしようとしたら今度はちゃんと止めれば良いんだし、うん大丈夫…かな?〉


自分を納得させつつ、てつに続いて

更衣室を出て体育館へ急いで移動した。



「よーし! 皆いるか? 授業始めるぞ!!!」


体育の清水先生が既に皆を集めている

僕らが着いたと同時に授業が開始された。


「すんません遅れました!!」

「鉄! 金森! 今後は気を付けろ、座れ」


軽く注意されつつ急いで座る


先ずは二人一組でストレッチから

皆は既に組みを決めていた、僕もてつとストレッチを始める。


「いててて」

「すまん、大丈夫か?」

「ぅう、大丈夫……」


身体を解すはずの運動で既に身体が悲鳴をあげている

てつの力が強いのか僕の身体が固いのか

どちらかは分からないが……いや僕の身体が固いのだ……言い訳は止めよう、これは僕のストレッチ不足だ。


「よーし終わったなぁ、集合!!」


痛みに顔を歪めながらストレッチを終える

先生が号令し皆が集まってくる。


「さて、皆予定表を見て知ってるだろうが来週球技大会がある、種目はドッジボールだ」


〈マジ……〉


心の中で絶句する。


首を動かし周りを見る

嬉しそうな奴やる気しないって顔の奴

どっちでも良いって顔の奴など様々、因みにてつはと言うと嬉しそうだ


絵茉さんは……俯いている……寝てる?


しかし


「来週か……」


何とか理由を付けて休めないものかと真剣に考える


当たれば痛いし疲れるし

投げても力がないから受けられるしそも届かないことだってある


〈モチベーションが上がらないよな……〉


「だから今日はその練習でドッジボールをする! こっちでチーム分けをしたから分かれて開始するぞ」


〈やる気しないよぉぉ……〉



そんな聴きたくない授業内容ににうちひしがれていると

僕の二の腕に優しい熱と力がかかる。


〈潮〉

〈?……どうしたの、イグニカ〉

〈ちょっとこちらへ来てください〉

〈え、ちょっと……〉


イグニカが話しかけてきた

そして腕を引かれ体育館の隅へ連れていかれる。


〈どうしたのイグニカ?〉

〈潮、手を出してください、どちらでも大丈夫です〉

〈え、こう?〉


僕は反射的に右手を前に出した

すると僕の手の周りに突然静電気の様な音がした。


「ッ!?」

〈はい、OKです〉

「い、イグニカ!?」

〈はい〉

「い、今何したの!?」

〈大丈夫です♪ 危険な事はしてないですよw〉


明らかにニヤけて話しているのが分かる

それにさっきの音って……まさか



「ぉーい」


思考する僕の側にヌッと気配が現れる

つられて声のする方へ振り向くと


そこには眠そうな顔の絵茉さんが立っていた。


「絵茉さん! ど、どしたの?」

「そっちこそどしたの?」

「な、なにが?」

「いや、体育館の隅でいきなりワタワタしだして独り言呟いてたら

こいつどうした? って思うよ」

「……」


そうだった、イグニカは人には見えないから

僕が突然奇行に走ったようにしか見えないのは道理だ。


「あーいやちょっと蚊がね、ぷんぷんと」

「ふ〜ん」


ジロリと僕を見てから


「くぁッツぁいいや、始めるらしいから……いくよ

因みに君はBチームで私と一緒」

「あ、はい」


体育館の真ん中に皆が集まりこれからドッジボールが始まるようだ

歩きながらチラリと後ろを見る


何となくイグニカが後ろにいる気がしたからだ


〈結局さっきは何をしたんだろう? 

でも危ないことはしないって約束したし、大丈夫……だよね〉


そう思い納得して向き直り皆の所に集まる

さっきまで憂鬱な気持ちだったのが今は少しマシに戻っていた。


「もしかしたら落ち着かせてくれる何かをしてくれたのかな?」


とそんな予想をしながら感謝をする、イグニカありがとう。



……しかし


「感謝は早いですよ潮、本番はこれからです」





先生がホイッスルを鳴らす


「よーし分かれたなぁ!! それじゃあ試合始めるぞ!!」


皆がコート内へ移動し身体を動かしながら開始を待つ

僕は後ろの隅の方へ移動する


「どうせ当てられる、なら!!」


と言って前に出れる程の根性は僕には無い

ならば隅で大人しくしているのがベストだ。


ちなみに絵茉さんも僕と同じ考えなのか

僕が右側なのに対して彼女は左側の隅に陣取っていた。


てつはと言うと

皆は俺が護ると言わんばかりにど真ん中真ん前で立っていた


「イケメンってこういうのを言うんだろうな」


てつが同じチームで本当に良かったと思う


しかし、相手が悪かった。



こっちは主力となるのがてつと

前に出ている男子が1人女子1人しか居ないのに対して


相手は志摩君等不良グループが全員と

後は男子の半数近くが向こうに

こっちは女子が多めで明らかに戦力負けしていた。


その上僕や絵茉さんの様に

速攻で戦線離脱している者もちらほらと


〈いやこれ無理ゲーじゃん!?〉



最初はこちらBチームのボール


「ぉりゃ!!」


てつが先陣を切り、一人アウトにしスタート

しかし、すぐに向こうが立て直す。


外野とのコンビネーションでてつを狙わずに周りから崩す作戦


この作戦が見事にはまり


「うっ」

「あっ!?」

「ちっ」

「あぅ!」etc


1人また1人とアウトになっていった。


そうはさせまいと動くてつだが

勿論コート全てをカバーできるわけもなく、走り続け足を奪われる


そうなれば最早向こうの術中だ、2度3度と交差するボール


そして


「っ!!」

「鉄アウト!!」


乾いた音と共にてつの左肩にボールが命中てつがアウトになる

この瞬間戦力バランスは完全に崩壊した。


「……」


外野に移動するてつが僕を見る

グッと唇を噛み申し訳ない顔をする


それに対して僕は気にしないでと言う意味を込めて

手を前後にひらひら動かす。


それを見て顔を伏せながら移動するてつ


そして


それを見ながらするニヤニヤする不良グループ


「〈はぁ……〉」


心と身体でため息を吐く。


現時点で

Bチーム内野6人外野11人に対して

Aチームは内野13人外野3人

そして向こうは主戦力が全員居り、こちらは雑兵が6人



〈……おわったぁぁ……〉



連中がこっちを見る

その視線は僕を狙うと言っている。


すると相手の外野が、僕の後ろに付いた

前後から攻めるつもりらしい

さっきてつをアウトにしたのと同じ手だ



チラリとゲーム開始前に僕が居た体育館の隅を見る

イグニカが動いてしまわないか心配をした


それと……助けてくれたりしないか、とつい考えてしまった。


こんなものは昨日の事に比べたら

痛くも痒くもない筈だが人間とは欲深い生き物である

つい楽を求めてしまう。


そんな、こッッツ!?


ボールが僕の鼻先を掠める!

悠長に考え事などしてる場合では無かった


〈ッテか! 今顔狙ったよな!?〉


顔面はアウトにはならない

つまり


外野がボールを受け取り僕に向かって投げる

驚きよろめいた状態で避けれる訳もなく

しかし当たりたくないと身体が反応した結果、転ぶことでボールの回避に成功する。


恐らく相手チームの誰かがボールを取った


〈……痛い〉


尻餅を着き衝撃で伏せる顔を上げ相手側内野を見る


「あれれー? 大丈夫ぅ? 潮くーん」


ニヤニヤと笑いながら

あからさまに嘘な心配を口から吐く志摩君

そしてその言葉の奥の感情を体現するように笑顔で告げる。


「今助けて上げるからねぇえー!!」


ボールにかかる五指に力を込め

悪意の矛先に狙いを定めながら素早くかつ全力で投げる。



悪意の塊が迫る

尻餅を着いた体勢で動けずにいた僕は咄嗟に腕で顔を庇った

恐かった、と言うのは勿論だが


目的は別にあった


腕に当たればアウトになる

それに顔面や他の部位で受けるよりも遥かに痛みはマシな筈だ。


「……」


そんなネガティブな思考で防御しようとしていた僕の前に


絵茉さんが立っていた。


「うざ……」


口から悪態を吐きつつもスタンスは広く

完全に僕を護る体勢だった。


「ちょッ!?」


この瞬間は無意識だった


尻餅を着いた体勢から体ごと乗り出して左手を前に出す

無論こんな状態でボールが当たれば

良くて突き指やアザが出来るで済むが悪ければ骨折もあり得る。


しかしそれは


僕のために身体を張ろうとしてる人を

助けない理由にはなり得なかった


目の前にいる彼女の横腹を右肘で退かしながら


突きだした手で最早目と鼻の先にいるボールを迎える。




「ッ……?」


奇妙な事が起きていた

まず、痛みがなくそして乾いた音が響き渡る

まるで硬い壁にボールをぶつけたような音だ。


次いで前を見る

僕は手を出した姿勢から変わっていない

しかし1つ変化があった。


【手にボールを持っていた】


ガッチリとボールは僕の指に捕まれていた



「はぁ!?」

「へッ!?」


ザワザワと皆が騒ぎ出す、そこでようやく我に返る僕

そしてこの現象に僕同様に驚いたのは投げた張本人の志摩君だろう。


外野のてつも何が起きたのか分からない顔をしている

それは僕を助けようとした絵茉さんも


[……すご]



だが僕は

皆が騒ぐなかこの現象の原因に目を向ける


〈イグニカ! 何これ!?〉

〈潮、身体はどうですか?〉

〈いやそれを聞いてるの!?〉

〈痛みはありませんか?〉

〈驚くほどないよね!!〉

〈よかった、成功ですね〉

〈なんの話!?〉


イグニカと話が噛み合っていない気がする

一体この方は僕に何をしたんだ。


〈潮の筋組成を組み替えたんです、運動が苦手との事だったので助けたくて〉

〈えっと……つまり? 〉

〈今潮はその辺のボンクラどもより10倍は強いです〉

〈倍率たか!?〉



 つまりこの方は僕に改造手術を施してターミネートしたと、そういうことか……どういう事だ!?


ひとまずヤバい事態になっているのは理解できた。


「ぉーい?」

「ハッ!?」


声をかけられ現実に立ち戻る

声をかけてくれたのは絵茉さんだった


周りを見ると未だ皆僕の事を見てざわついている

先生は驚いた顔のままだ。


ひとまず手を下ろしボールを見る

その動作をしただけで周りと特に目の前の志摩君は反応する。


〈ぇっと、どうすればいい〉

〈投げれば良いと思うよ〉

〈ぇー〉


イグニカが妙なイケボで返事をしてくれる中

軽くボールを掴み直し押すような動作で投げる

ちなみに普通ならこんなやり方ではぼってぼてのゴロである。


周りの皆もなぜ!? って顔でこちらを見る


〈だって何が起こるか分からなかったら、誰だって慎重になるでしょ……〉


だが


「ぁw「メッシヤア!!」」


皆のその顔は直ぐに


「ッッッツ!?」


鳩がマシンガンを食らった顔になった。



「ほ?」


目で見えたものに理解が及ばなかった僕は口から空気が漏れる様な驚きの声を発した。


今起きた一連の事象は

僕の投げたボールが相手チームの不良

その男のストマック【胃】を的確に捉え彼の意識と身体を高速で連れていった。


数秒遅れて皆が現実に返る

無論それは僕も同様だった


当たった不良は前のめりに倒れピクピクと痙攣していた。



〈やりすぎだろう……〉

〈さぁ、蹂躙を始めましょう〉



この後、惨劇が開始され……る、ことはなく


倒れた不良の手当ての為ゲームは終了

僕はまたも質問攻めにあい、偶然だよと壊れた機械の様に同じ答えしか返せなかった


ちなみに今回の結果にイグニカは不満なようで

〈次はもっとギリギリの水準で……〉と物騒な事を言っていたので


僕は心の底から


〈勘弁してください〉


とお願いした。



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